さそP「あしあと2 ≪竜宮異聞≫ 」を読んで


 Pickupで取り上げる予定だったのですが、長くなったので独立の記事にしました。最初は紹介のつもりだったのが途中からノリが変わってきて、中途半端な内容になってしまいましたが、あしからず。

さそP あしあと2 ≪竜宮異聞≫ 第一話 静止した楽園にて


 12人ものアイドル候補生を抱えながら、デビューさせることが出来ない765プロ。プロデューサーさえいればと思い悩む律子は、自身がプロデューサーになることを社長から提案される。




 『アイドルマスター2』で登場するユニット、「竜宮小町」ができるまでを全7話で描いたシリーズ。シリーズ完結前にpickupで取り上げる機会を逃してしまったので、シリーズ全体について書きたいと思います。

 第1話では、困窮した事務所、それでも楽しそうに働いているアイドルたちの様子が描写されました。まずこの1話の描写、とりわけ冒頭の律子と小鳥の会話が素晴らしい。ユーモアとウィットに富んだ会話によって、悲惨でありながら陰惨ではない、彼女たちのおかれた状況が見事に説明され、それが後々の彼女たちの行動に説得力を持たせることになっています。
 そうした描写を背景にして、2話以降では律子が伊織・あずさ・亜美という3人をプロデュースすることを選び、そして彼女たちが「竜宮小町」というユニットになっていく様子が描かれていきます。

 基本的には、この作品の主人公は律子で、伊織と律子の葛藤とその解決、そして律子が己の悩みを克服して「竜宮小町」のプロデューサーとなる過程、が核となるストーリーといえるでしょう。しかし、この作品の特色は、伊織→律子、律子→「竜宮小町」という単線の物語にとどまらず、765プロ全体、アイマス世界全体の中での彼女たちを描こうとしている、という事です。

 乱暴なことを言ってしまえば、アイマス2の設定を聞いた時に、「伊織がなぜ律子にプロデュースされようと思ったか」「律子がなぜ伊織をプロデュースしようと思ったか」という問いは、おそらくは誰でもすぐに思いつくし、誰が想像しても似たような結論に至るものだと思います。

 しかし、この作品の真骨頂はそこで思考を終わらせるのではなく、「伊織、あずさ、亜美の3人ユニットでなければならなかったのは何故なのか」「律子に選ばれなかった者は何を思うのか」「事務所の未来を背負った律子はプロデュースを始めてから何を思うのか」「伊織は、あずさは、亜美は、ユニットの中でどんな役割を果たしているのか」「デビューしなかった候補生たちはどんな役割を果たしているのか」…数限りない問いを発し、その一つ一つに答えを見つけようとしていることにあります。

 もちろん、その一つ一つの問いは、まだまだ掘り下げられるし、人によって様々な答えが導かれるものでしょう。そういった意味では、この作品は動画が世に出ただけでは未完成で、動画を視聴した人各々が各々の答えを見つけた時、初めて完成すると言えるのかもしれません。
 けれども、こうしてそれら全ての問いを内包して、"765プロにとっての「竜宮小町」"”アイドルマスターにとっての「竜宮小町」”とは何かを描いたからこそ、「私たち」は「ひとつ」という、この物語の律子が得た答えは説得力を持ち、真に胸を打つものになっているのです。


 ここまで述べてきたことと一見矛盾してみえるかもしれませんが、私はこのシリーズを、第7話の後に投稿された「あとがき」で語られたような、ゲーム『アイドルマスター2』を延長とする「前日談」であるとは思っていません。従って、私にとってはこの物語は「アイマス2を楽しみにするための物語」ではなく、「公式に追いつかれた瞬間に色褪せ」る、「発売までの『時間』」を過ごすための作品でもありません。

 なぜなら私にとって本当に重要なのは、"そしてアイマス2に至る"という終点へ彼女たちがどうやって至ったかではなく、"アイドルデビューできない事務所"という始点から彼女たちが何を考え、どう変わったかだからです。そうした視点でこの作品を読むとき、描かれているのは"アイドルになろうとする少女"の物語であり、"アイドルにならない・なれない少女"の物語であり、そして"アイドルをプロデュースしようとする者"の物語であり、それは全て「アイドルマスター」の根本を問う物語です。

 象徴的だと感じるのが、第7話の、律子の内面が二人の異なる律子の対話として表現されているシーンです。あり得たかも知れない過去の自分、あり得たかもしれない現在の自分、あり得たかもしれない未来の自分。異なる世界、異なる道を歩む自分の存在を識りながら己の未来を選びとる。ここに在るのは、数多くの世界と未来が交錯する「アイドルマスター」の世界そのものです。

 "「アイマス2」のための物語”や"「無印」のための物語"に局限されない、もっともっと本質的な"「アイドルマスター」の物語"。だからこそ、私はこの作品は『アイドルマスター2』の設定や発売と無関係に読んでいいと考えているし、また残り続けるだろうと思っています。

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No title

御視聴、そしてエントリの立ち上げ、真にありがとうございます。
自分が籠めた以外の、あるいはそれ以上の意味を物語に見出して頂けたことは望外の喜びで、それだけでも制作した甲斐が有ったと思えます。
私自身のこの作品に対する想いは、卑下でも何でもなしにあとがきで述べたことが全てであり、貴ブログの表題にも掲げられている『2』が出るまでの間、自分の心を落ち着かせるためのものでしか有りませんでした――もちろん愛着は強く持っていますし、その後も自分の作品のひとつとして大切にしていくことは間違いないのですが、このお話が生まれたネガティブな経緯を振り返ると、今回頂いたお言葉は、竜宮異聞という物語にとっての大きな救いでありました。作り手として、心より御礼申し上げます。

こうした「大事件+周囲の動向」という構図の物語は、美希の961移籍を描いた『あしあと1』、春香さんのラストコンサートを再解釈した『あなたとの道』に続く拙作としては三番目のものとなります。先述のように、物語誕生の経緯が経緯ではあったのですが、大好きな構成とあって制作中は何だかんだ言いながらも生き生きとしていた記憶があります。
美希が「アイドルにけっこう本気」と公式文で言っている理由づけや、千早の発破、そして何より、今回のもうひとつのビッグ・テーマだった『ギャグキャラでなく、かつ魅力あるジュピター』の描写等々、メインストーリー以外にも力の入る点が多々あり、ある意味ではあの充実を得られるからこそ、もの書き、ノベマスPをやっていると言えるかもしれません。
――なお、いちいち真が美味しいのは仕様です。仕方ありませんよねえ。だって、私の動画だもんねえ。

また、下敷きとして以上の意味を持たせられなかったために初速を出せずに終わった第一話の意味性や、ある種のデウス・エクス・マキナと後悔の残る終盤の律子のシーンについて言及して頂き、物語だけでなく私自身もまた、大きな救いを得た想いです。
――ちなみにあのダブル律子のシーン、構想中期までは本当に『1』のAエンドを迎えた律子が、プロデューサー同伴でやって来る予定でした。シーンの持つ意味合いが変わったこともあり、最終的にああいう形になったのですが、そういう変化も制作の醍醐味のひとつと言えましょうか。

今後も救いに甘えることなく、精進を重ねてゆければと思います。よろしければまた、おつきあいくださいませ。
今回は本当に、ありがとうございました。

Re: No title

コメントありがとうございます!
作品を楽しませていただいた上、拙文にこのように丁寧にコメントをいただけて、大変に喜んでおります。

記事では敢えてこのように書かせていただきましたが、『2』が出るまでの間、自分の心を落ち着かせるため、という動機自体、私はネガティブなものだとは思っていません。
自分の中に負の感情が存在するのは嫌なものですが、しかし否定した所でその感情自体が無くなるわけではありません。自分の絶望を作品への推進力に変えるということ、絶望に対処するために作品を作るということ。それはとてもポジティブな作業だし、そうして生み出された作品は、同じように絶望や悩みを抱えた我々読者にとっても道標となり得る、価値のあるものだと思っています。

ただ、同時に私は、物語というものは、読む人によって千差万別の読み方が生まれるからこそ面白いと思っています。「竜宮小町」や「ジュピター」というネタが出てくるから、『2』の発売前だから、作者がこういう目的で書いたといったから。そんな理由で現にここにある物語を、『2』や『2』に対する界隈の反応と結びつける読み方しか生まれないとしたら、それはとてもつまらないことです。
『竜宮異聞』は、『2』とも「竜宮小町」とも関係なく作品として評価されるべきである。これは私の嘘偽らざる心情であり、もっともっといろんな読み方が出てきてほしいという希望を表現したものでもあります。

「大事件+周囲の動向」という構図、とおっしゃいましたが、やはりこの「周囲の動向」の部分、事件の中心人物だけでなく様々なキャラクターたちの思い・行動があって物語が形作られていくところは、挙げられた作品に共通した魅力ですね。『あしあと1』の雪歩や伊織だったり、『あなたとの道』の、そして『竜宮異聞』の千早や真だったり…。
そして「ジュピター」も。記事中では書き落としてしまいましたが、「ジュピター」をも悪役でもギャグキャラでもない形で内包した物語であるということ、これも大きな意味のあることだと思います。

感じたことを書き綴っただけの文章を、救いとまで称されると居心地が悪いものですが、多少なり喜んでいただける部分があったならば幸いです。今後も楽しく拝読させていただきたく思っております。
こちらこそ、素敵な作品を、本当にありがとうございました。

あ、後一つ。

>いちいち真が美味しいのは仕様

それでこそプロデューサー! もっと美味しくしてもいいのよ?

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