意地の張りどころ



無印版『アイドルマスター』のコミュのネタバレを含みます。




無印春香シナリオの「8月の仕事」コミュの、パーフェクトコミュニケーションにならない選択肢の話は、以前にもしたことがあります。まあ、私にとってずっと、春香さんってこういう人だよな、というアイデンティティの支えのようなエピソードの一つですが、最近また、このコミュのことを少し思い返していました。

「水上かけっこ」の競技に参加した春香。しかし、練習でも転んでばかりでまともに走れません。そこでPが、「いっそのこと、わざと転べ」と言います。どうせ1位になっても良いことなんかないし、転んだ方が目立ってカメラにもたくさん映してもらえるぞ、と。すると、春香が怒ります。Pの指示は「ズルいこと」だと言うのです。そして迎えた本番、春香は「意地でも転びたくなかったようで」、ゆっくり走って、まったく目立たず、順位もビリでゴールすることになります。

ここに表れているのは、結果として勝ったり、目立ったり、売れたり、仕事がうまくいくことよりも、過程において「一生懸命」やること、「ちゃんと」やること、「ズル」をしないこと……いわば、"公正さ" とか "真剣さ" とかいうような原則が自分の中で守られている、貫かれていることの方が大切である(裏返して言うならば、過程が "公正さ" や "真剣さ" で裏打ちされていない勝利や成功に、価値など無い)という、春香の信念のありようです。そういう、目には見えないけれども自分の中に確固として存在する原則が侵されそうになっていて、それを守らなければならないと感じる時にこそ、春香は「意地」を張る。そして、そうして春香が疑問を抱いたり怒りを感じたりする時、そこに浮かび上がっている問いは、その時その場限りの、一回性のものではなくて、後々振り返った時、何度でも眼前に現在形で立ち現れてくる性質の問いなのです。

無印コミュにおいてキャラクターが「意地」を張る場面、ということで、もう一つ思い出すのが、伊織のランクE「ある日の風景2」。有名なコミュなので、あまり説明もいらないと思いますが。
家に忘れ物を取りに行く、とタクシーを呼んだ伊織が、なかなか戻ってきません。探しに出たPは、へとへとになって道をひとりで歩いてくる伊織を見つけます。聞けば、タクシー代が行きだけで3千円近くかかったのが許せなくて、歩いて戻ってきたと言うのです。(なお、低ランクの伊織は運動というか、しんどいことが大嫌いです。)
3千円はすなわち、伊織がアイドルとして初めて受け取ったギャラの額です(ランクE「ランクアップ」)。「車、転がしてるだけで、私のギャラと、同じってのが許せなくて。」「へっちゃらだわ……。こ、これぐらいの距離で、3千円なんて、認めないんだから~……」 。

伊織コミュにおいては、伊織の周りの世界が伊織を見ている、認めているかどうか、周りの世界が伊織の思い通りになるかどうかがつねに問題になりますが、それはこのコミュにも当てはまります。アイドル水瀬伊織の価値が、たかだか、お抱えの運転手がいつも当たり前に送り届けていた道をちょっと「車を転がしただけ」と同程度でしかない、という、周りの世界の自分への評価をあくまで認めないために、伊織は意地を張り通すのです。
無印伊織シナリオの中で、伊織は幾度も、怒ったり、とまどったり、悲しんだりします。そこで彼女が感じている痛みのひとつひとつに、それを体感する前の世界にはもはや戻れない痛切さと、それを通過することで初めてその先の人生を歩んでいける重さがあります。

もう一つ。あずささんの休日コミュ。Pとケーキを食べに行くやつ。
どれもすごくおいしそうで目移りがする、というあずささん。全部食べたらいいじゃないですか、というPに、「今日は、ひとつだけって……、決めたんですから。」と言って、それから「1時間ほど迷った挙句、小さなケーキを1つ食べて、満足そうだった」というお話。

あずささんは、周知の通り、万事のほほんとしてマイペースな人ですが、コミュの中では実は、彼女なりに闘志やライバル心を燃やしていたり、ジョークを言ってPをからかったりする場面もあります。ただ、そのすべてで、話し相手のPから「わかりにくい」、見た目では普段と区別がつかない、と言われているのがあずささんという人で。
このコミュが面白いのは、そんな「わかりにくい」あずささんの内面に、意志の強さ、一度決めたことをやり抜く粘り強さがあって、スローモーさ、マイペースさはその粘り強さと表裏一体のものだ、というのが鮮明に表れていることです。たぶん、あずささんの中にあるそういう、頑固さ、粘り強さの部分を取り落とすと、彼女は単にマイペースで気がいいだけの、ふわふわっとした地に足がついていないキャラクターになってしまうのだと思います。

……この調子で全員のことを書いていくと時間がかかるので、ここまでで。





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