特別でないただの一試合


だがのP 【iM@S×PCM2008】Piyo Cycling Managerシリーズ(09年04月19日〜最新12年07月16日)

上記作品のネタバレを含みます。

 





ふと見たくなって、数日前から だがのPの『Piyo Cycling Manager』を見返している。

十何人からのキャラクターの、全員に均等に出番があって、かつ、各キャラクターが各々の個性・特徴ならではの活躍ができるようなストーリーを。……というのは、ファンにとってひとりひとりのキャラクターに重大な重みがあるアイマスにおいて、つねにひとつの理想だが、同時に、当然ながら、実際に成立させるのは極めて難しい事柄でもある。
そして、『Piyo Cycling Manager』の魅力は、まさにその、"アイドル全員に見せ場を" と "アイドルそれぞれの個性を生かした活躍を" の両立を体現している点にあると思う。

その秘訣は、自転車ロードレース、という題材の特性を、巧みにストーリーに、キャラクターに反映している点にあろう。
動画からうかがえるロードレースの第一の特徴は(なお、私自身は自転車やロードレースについては全くの無知である)、試合ごとに、一つのチームの中で誰がエースであるかがはっきり決まっていて、一人のエースを上位に送り込むために他の全員がサポート役となり踏み台となる、というゲームの進め方。高度で厳密なチームプレイを必要とし、かつその中で誰が主役で誰が脇役かが明確に定められている競技である、ということ。
もう一つの特徴は、他方で、平坦なコース、起伏の多いコース、石畳の道、砂利道、瞬発力がものを言うレース、持久力が大事なレース、集団内での駆け引きが重要なレース、純粋に個人同士のタイムを競うレース……と、試合ごとに条件、特徴が千差万別であって、従って試合ごとに向いている選手、強いプレイヤーが変わる競技でもある、ということ。

動画では、765プロのアイドル11人がチームを組んで様々な試合を戦っていくことになる。ゲーム上で設定されたアイドルたちのパラメータは、合計値では全員横並びなのだが、平坦なコースに強いアイドル、山道を登れるアイドル、悪路を走れるアイドル、ラストスパートが速いアイドル、タイムアタックが得意なアイドル……と、特性に一人一人差がある。それがそれぞれの性格と相まって、各々の走り方戦い方、各々固有の成長ドラマを形づくっているのだ。
試合ごとに誰がエースになるかは変わって、そのそれぞれの試合ごとにその日のエースのために皆が団結して協力し、そして出場すべき試合の数は限りなく多い。"みんなで一緒だから楽しい" "みんなで一緒だから強い" アイマスらしさ、と、"ひとりひとりの個性が楽しい" "ひとりひとりが個性的だから強い" アイマスらしさ、と。


みんな可愛いのだけれど、とりわけあずさと美希が面白い。『Piyo Cycling Manager』のあずさは、基本的にみんなに優しいし、みんなから好かれているのだが、なぜか小鳥にはやたらとつっかかってからかい口を利く。小鳥の方もそれに応じてやり返す、という関係になっている。ささいなネタではあるのだが、この二人の関係性が、指導者で大人の小鳥と選手で子どものアイドル、という、立ち場に差がある両者を、同じ目線で付き合うことのできる仲間として繋ぎとめる役割を果たしているし、全体にまったりとして穏やかなアイドルたちの人間関係の中で、ちょっとしたアクセントになってもいる。

それから美希。あずさにしろ美希にしろ、コミュで接すると、自分の中に固有のペース、固有の時間を強固に持っている人で。そこが魅力であるし、かつ、そういう人間が人と付き合い、人に自分を見せる仕事をしなければならない、というのが彼女たちのシナリオのひとつの肝でもある。ただ、概してこういう、コミュで一対一で付き合った時に味があるようなキャラクターの面白さというものは、群像劇の中で見せるのがむつかしい。
美希の描かれ方について、私はよく"「妖怪食っちゃ寝」か、さもなくば「要領お化け」か" と言うのだが(ブログで書いたことありましたっけ)『Piyo Cycling Manager』の美希は、おにぎりとか、睡眠とか、恋愛とかわかりやすいネタで動くギャグキャラではないし、さりとて問題を放り込むとたちどころにスマートな答を返してくれる万能の道具でもない。マイペースで、のんきで、だけど素直で、出てくるといつも、周りの空気からちょっとズレた、ずっこけるようなことを言って、でもそれで動画の中の皆も動画の外の視聴者もちょっと肩の力が抜けて和めるよね、という。ついたタグが、「美希に惚れる動画(笑)」。
でも、そんな美希が、話が進むに連れて、どんどんかっこよく見えてくるのだ。それは、どっかの時点で覚醒する、とか、進化する、とか輝きだす、とか、そーゆーんじゃなくて。のんきで愛らしい美希のまま、美希ならではの働き、美希にしかできないがんばりをして、やがて動画には「美希に惚れる動画」、そして「美希に惚れ直す動画」というタグがついていく。そういう美希であり、そういう物語なのだ。


高木社長が、チームに上から注文をつけるスポンサー、という役になっている。社長=スポンサーの要求はいつも理不尽に高く、結果への評価はいつも理不尽に低い。
アイドルたちにとっては、あれだけ血湧き肉踊る波瀾万丈のイベントだったもの、あれほどに苦労して勝ち取った成果だったものが、社長にとっては、なんだ、たったの25位か、こんな成績を取ったからなんだというのだ? というものでしかない。
それは単なるネタや仕様ではなくて、内側で夢中になっている人間と、外にいて関心のない人間、という、スポーツをめぐる二つの層の間の温度差をよく表している描写だと思う。

物語は、アイドルたちが2部リーグの上位まで成績を上げてきて、このまま行けばトップリーグの試合に出場できるんじゃないか……というところで終わっている。もちろん、このまま連載が続いていけば、いずれはトップリーグに昇格し、11人全員(あるいはもっと増えたメンバーまでも)が世界トップクラスの選手になり、「ツール・ド・フランス」や「ジロ・デ・イタリア」をアイマスチームが勝つ……ということになっていた筈だ。

けれども、私は思うのだ。そういう形での続き、お話としてのオチが描かれずとも、この物語はこのままでいいんじゃないか、まだまだ先がわからない今のままで、全き存在なんじゃないか、と。
お話の中でのスポーツチームは、たいてい、いちばん弱いところから始まって、だんだん強くなって、最後に勝って終わる。でも、実際のスポーツは、勝ったり負けたりを延々と繰り返すもの、強い年があったら弱い年があるもの、いやひょっとすると、負けて負けてまた負けて、たまに勝ったと思ったらまた負けるようなものであることを、私たちは知っている。
たしかにファンは、贔屓のチームが、選手が頂点に立つこと、優勝すること、金メダルを取ることを夢見るに違いない。けれども、ファンが応援するのは、その選手が金メダルを持っているからではないし、そのチームがいずれ優勝する保証があるからではない。

『Piyo Cycling Manager』20話が最後に描いているのは、有名選手が大して出ているわけでもない、ごく小さな目立たない試合である。それは、彼女たちがこれまで何度となく戦ってきた、そしてこれから何十試合、何百試合と同じように戦っていくであろう、何の変哲もない一試合。
けれども、20を数える過去回を見てきた私たちは、知っている。その何の変哲もない試合が、どれだけ険しく、得がたく、そしてスリリングで驚異に満ちた舞台であるかを。雪歩ー美希ーあずさの3人が編隊を組んで、真の横を駆け上がって行く姿が、どれほど感慨深く、誇らしく、そして無敵に思えるかを。
だから、これでいいのだ。それが、どこかもっと大きな成功や報酬に通じているからではなく。特別でないただの一試合こそが、何物にも代えがたい特別な一日なのだから。



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