料理は火力



『シン・ゴジラ』という映画については、まじめに書こうとしたら大変なことになるなあ、と思って、特に何もしていないのですが、まあ手を付けられそうなところは片付けておきましょうか、という記事です。

映画『シン・ゴジラ』の全面的なネタバレを含みます。







タイ人の友人が『シン・ゴジラ』を観て謎だった部分がいかにも日本人的な所ばかり「東京に核落とせばゴジラ倒せるのに」 - Togetterまとめ



このTogetterの内容そのものについては、特に意見はないのですが、「核を落とせばゴジラ倒せる」という説に対して、いやいやあのゴジラに核攻撃通用しないんじゃねーの、という反応がたくさんあるのが興味深いと思いました。

つまり、細かく分けると、たぶん次の3点くらいの疑問があるわけです。
①弾道ミサイル自体がゴジラに迎撃される可能性
②核兵器の威力でもゴジラの肉体が死なない可能性
③核兵器のもたらす核物質や放射線がゴジラのさらなる進化を促す可能性

で、外から見ている視聴者としては、あの映画の中のゴジラは核兵器でも倒せない存在じゃないのか? という考えは私ももっともだと思います。ただ、それは必ずしも "だから劇中で核攻撃という選択肢を選ぶのは不合理" という話ではないですよね、ということを、ちょっと思ったので。

アメリカ政府(あるいは軍)の認識を想像してみると、彼らはゴジラについて、少なくとも次の3点の事柄を確実に知っている筈です。

①戦略爆撃機の撃墜から、(あの時の爆撃機の高度をどう低く見積もったとしても)ゴジラが迎撃可能な範囲が少なくとも高度数千mに及ぶこと
②ゴジラのビームがレーザーの類いにしろ、核反応で生じたなんらかの粒子を飛ばしているにしろ、光速あるいは亜光速で飛ぶ迎撃兵器であることは確実であり、その時点ですでに現代の実用兵器の水準を超えた能力であること
③ゴジラが、時間が経つに連れてどんどん変化し強化されていく存在であること

従って、”核をもってしてもゴジラに通用しない" 危険があることくらいは、彼らにも想像できたのではないでしょうか? にも関わらず、彼らが "やれる" と判断したのだとすると、理由として次のような事柄が考えられるでしょう。

①戦略兵器の破壊力は今まで劇中に登場した兵器より桁違いに大きい(もちろん、弾道ミサイルなら速度も桁違いに速いわけですが、なにしろ相手は光速なので、そこはあんまり関係ないかもしれません)ので、作戦を今までのように "ピンポイントでゴジラの体に当てに行く" イメージで考える必要は(少なくとも一撃目では)無く、作戦の難度はずっと低くなる筈であること
② ゴジラの迎撃能力は、"自分に接近する飛行物体を自動的に無差別に全部迎撃する" というものであり、かつその出力を維持できる時間には限界があるので、劇中でも実行されたように "とにかく大量の飛行物体をゴジラにぶつける" こと(いわゆる「飽和攻撃」)によって、ゴジラの活動を制約できること

特に2番目が重要で、劇中で実際に行われた飽和攻撃の効果のほどを見れば、 囮の飛行物体による飽和攻撃⇒多数のミサイル弾頭による同時攻撃・反復攻撃 で充分ゴジラを倒せるはず、と発想するのは無理からぬことと私は思います。
(まあ、そもそも空中から攻撃するから難度が上がるのであって、劇中のアレが通用するなら、"核爆弾を地上輸送してゴジラ近傍にセットする" でいいじゃねーか、という気もしますが。)

次に、より積極的に、対ゴジラ策が核攻撃でなければならず、かつその実行が可及的速やかでなければならない理由を考えます。まあ、ほぼ劇中で言及されていることと言っていいですが。

①ゴジラは進化するので、いずれ、たとえば "自分に接近するものの脅威度を判定して選択的に対応する" といった能力を獲得することだってありえます。攻撃が遅れれば遅れただけ、その間にゴジラが致命的な変化を遂げてしまう可能性が高くなるので、作戦は可能な限り早く実行しなくてはならない、ということ
②通常兵器による "中途半端な破壊" が結果的にゴジラをより強化してしまった経験から、次の攻撃は、可能な限り強力で、ゴジラを決定的、徹底的に死滅させられるものでなくてはなりません。"核ならゴジラを倒せるだろうから核を使う" わけではなく、ゴジラに対して "戦力の逐次投入" は愚の骨頂だと考えれば、必然的に核攻撃以外の選択肢はありえなくなる、ということ

従って、アメリカ側で実際にゴジラ対策を考えている "現場" の人間からすると、被害範囲だのその後の復興だのまだるっこしいこと言ってないで、世界中の核兵器を使い切るまで東京に注ぎ込みたいくらいだったかもしれませんが。
まあそこは、アメリカだって国連だって、世論とか外交上の威信とかいうものから自由では全くないわけで、核攻撃が実行されて首尾よくゴジラを殺せたとして、今度は彼らが "対応が過剰過ぎたのでは?" という批判を身に負うことになります。劇中で外交チャンネルを通して日本側に伝えられたプランが、実は、アメリカのどっかの ”現場” で最初に構想された原案に比べれば、中途半端で手ぬるい妥協の産物だった、という可能性だってあるのかもしれません。

まあそれはともかく。この映画の終盤について、仮にゴジラが居る場所を「現場」と名付けると、こういうまとめ方ができるかもしれません。

「現場」をめぐって複数の、(単純な上下関係とは限らないが)権限や影響力に強弱がある司令部が存在し、各司令部間で「現場」への認識が異なるために、各々が考えているプランも異なっているお話

興味深いのは、各々の認識とプランがどう異なっているか考えた時、

・より「現場」から遠い司令部(アメリカ側)が、抜本的で根本的な対策が必要であって、かつ事態は一刻一秒を争う状況だと考えている時、より「現場」に近い司令部(日本側)は、そこまでしなくてもまだどうにかなる筈だと考えている
・一方の司令部が、事前に用意があって充分に想定・実行可能なプラン(弾道ミサイルによる核攻撃。また、迎撃能力を持つ目標に対する飽和攻撃)を考えている時、もう一方の司令部は、開発中の未知の手段によって、その場で即興的に斬新なプランを組み立てることを考えている

という構図になることです。

もちろん、いまは仮に「アメリカ側」「日本側」と二つに立ち場を要約したものの、劇中での様々な組織・人間の立ち場と関係はもっと複雑で多様です。
ただ、『シン・ゴジラ』については、様々な形で現実の問題とリンクさせて考える議論がありますが。このようにまとめると、映画の中の、私が ”より「現場」から遠い司令部” "より「現場」に近い司令部" と呼んだ立ち場がそれぞれ、現実のどんな問題におけるどんな立ち場に該当するか、は、様々な当てはめ方が出来るように思います。
劇中ではそのポジションが「日本」と「アメリカ」と呼ばれている、という名付けや、劇中の登場人物が何かを”当たり前” や "ありえない” として認識している、といったことを、読者が考える時にはあまり自明の前提としない方が、物語の読み解き方を、より多様に出来るのではないかと思っています。




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No title

先日は返信いただきありがとうございます。
また来てしまいました・・・w

Togetterの方、なかなか興味深かったですね。
個人的には②③番が可能性として映画で挙げられてなかったのは
その可能性を考えること自体が核兵器への理解が無いことだと、製作側が思ったからなのではと感じました。
やはり熱核兵器の威力は絶大で、少し調べた程度でですが地球上のどの物質も
蒸発してしまうようなもの・・・なんだと思います。(私もあまり詳しくない・・・w)
ゴジラの細胞がそれすらも上回る可能性は否定できないですが、
そのフィクション部分を含めてすら、核の威力は想像を絶するものであり、
だからこそ使ってはいけないという気持ちが強く表現されているのだと感じました。

まったく上手くいえないのですが、
あまりゴジラの映画について語る場所も機会も仲間もなく悶々としていたので
ここで書いてしまいました。
すみません・・・w

ではでは失礼しました!

Re: No title

どっかの春香P様、いらっしゃいませ。
先日は御返事が遅くなりまして、失礼いたしました。

>やはり熱核兵器の威力は絶大
>そのフィクション部分を含めてすら、核の威力は想像を絶するものであり、
だからこそ使ってはいけないという気持ちが強く表現されている

そうですね。おっしゃる通りだと思います。私も物理にも軍事にもまったくの素人でして、私自身も含めて、"放射線のもたらす災害の恐ろしさ" への認識は日本ではある程度広く共有されているけれども、"普通の爆弾" と "広島と長崎に落とされたもの" 、さらに "現代の戦略核兵器" の間での、直接的な破壊力そのもののレベルの違いというのは、なかなか想像しがたいものなんじゃないかと、例のToggetterを見ていて感じました。

>あまりゴジラの映画について語る場所も機会も仲間もなく
リアルの私の身の周りでも、普段映画やアニメや話題なんか出ない雰囲気のところで、『シン・ゴジラ』について語り合う輪みたいなものが形成されているのを目撃したりしました。もちろん、大ヒットした映画、みんなが見ているコンテンツ、ということであれば他にもいろいろ例はあるでしょうが、なにかそういう、”語る” というアプローチで接したくなる作品であり現象である、というのは、この映画の特徴的なところなのかもしれませんね。
せっかくですから、どっかの春香Pさんも、どこかで御自身の語りを文章にまとめて発表されてはいかがでしょうか?(笑)

では、コメント、ありがとうございました。


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