一秒一秒の宝物


EX団氏 【東方卓遊戯】EXボスのSW2.0 7-EX【SW2.0】 15年04月22日


昨年9月の連載開始以来、ずっと楽しみに追ってきたシリーズですが、新年度となって作者さんのリアル環境が変わるのに合わせて一区切り、ということで。あまり新しいことは書けませんが、あらためて個人的な思い入れを記しておこうと思います。

上記作品のネタバレを含みます。











このシリーズの連載が始まった昨年9月頃というのは、ちょうど私の中に、卓遊戯動画の新着作品の動向についての地図がある程度出来た頃でした。従ってこの作品は、私にとって連載の始まりから区切りまでを逐一リアルタイムで追えた最初の作品であり、それだけでも個人的な思い入れは深いですが。そうしてリアルタイムでずっと追えたのはやはり、とにかくこのシリーズが私の好み、私の欲求にぴたりと応えてくれる作品であったからに他なりません。
キャラクターの可愛さ。掛け合いの楽しさ。架空世界の旅行記としての情趣豊かさ。戦闘や成長報告のような数字のやりとりが連続する場面でもダレない、進行のテンポの良さと会話の挟み方のうまさ。
およそ私がテキスト系の連載作品に求める要素を全て備えた作品であって、しかもそんな作品が週2度というハイペースで、待っていれば同じ日に必ず次が来る、という。これ以上の幸福があろうか、というか出来過ぎていて怖いくらいだな、とはこの七ヶ月半の間、ずっと思っていたことではありました。

ただ、あらためて考えてみても、その凄さを、あるいは実際に見ている時の感覚を、理屈で説明するのが難しい作品だな、と思います。
たとえばこのシリーズでは、登場人物を表示するのに、四角い囲みの中にキャラの顔だけを表示する、いわゆる顔グラの形式を一貫して用いています。
アイマスのテキスト系動画に比べ、立ち絵素材が整備されるのが遅かった東方のテキスト系動画では、今でも顔グラを主用する作品は珍しくありません。ただ、この動画の場合、素材として使われているのは、元々全身が描かれた立ち絵素材として配布されているものです。つまり、何も加工せずとも使える素材を、わざわざ四角い顔グラの形に切り抜く、という一手間をかけてキャラクターを表示している。
それは、この作品の表現には立ち絵よりも顔グラこそがふさわしい(理由は、多人数のキャラクターの取り回しへの考慮なんじゃないかと私は想像していますが、わかりません)、という明確な美意識、判断のもとに、絵作りの中のある部分に、人よりも手間を掛けているわけです。でも、こういう手間の掛け方って、そこだけ取り出して視聴者から、この動画は技術凄いね、とかこの作者さん演出頑張ってるよね、とか褒めそやされるような性質のものではないでしょう?
同じようなことが、他の部分にも言えます。前にも書いたけれど、私はこの人の風景事物の描写が、実に素晴らしいと思うのです。でも、あの街に入った瞬間の風景描写が良かった、とか、この森を歩いている様子の表現がいいよね、とかいうのは、そこだけ切り出してどうこう言うような事柄だろうか。
そういう具合に、どんな細部を取り出してみても、本当によく考えて作られているな、練り上げられているな、というのがわかる動画であって、同時にどこが尖っているから凄い動画なんだよ、という簡単な説明が難しい。

一つ言えるのは、何のために作品に手間を掛けるのか、という目的意識が非常に明晰な作品だ、ということでしょうか。
たとえば、依頼内容の説明や、入手した情報のまとめなど、多量の文章をまとめて表示する時。こういう場面で、画面が切り替わるまでの残り時間がわかるように表示しておく、というのはよく見られるインターフェースの工夫です。
で、このシリーズでは、単純に数字とか矢印とかで表示時間を示すのではなくて、ドット絵のキャラクターが追っかけっこしてたりキャッチボールしてたり、という映像で表す。それは、この子たちだったら真面目に説明を聞いてないで後ろでドタバタ遊んでるよね、というストーリーの側の内容と結びついた表現で、だから視聴者の感想も、インターフェースに手間が掛かっているから凄いね、ではなくて、キャラクターが可愛くて楽しそうからいいね、こちらも見てて楽しいからいいね、という反応になる。そういうところが、素敵だな、と思うのです。


ストーリーについて、少しだけ。区切りとなった第7章は、内容的には、これまでのストーリーの総括的な部分もありました。ただ、この章の中でどんな大きなイベントが起きてキャラクターにどんな変化が生じて、というようなお話だったわけではない。全体としては、親戚の子が迷子になったからみんなで街に探しにいってきたよ、というだけの、とてもミニマムで身近な動機と結論のお話だった。そして、そんな第七章の内容は、『EXボスのSW2.0』というシリーズ全体の内容をよく表すものでもあったと思います。
もちろんこのシリーズにおいても、種族同士の対立とか国の中での政治的争いとか、ソードワールド2.0の世界らしいシリアスで劇的な物語はいろいろ展開していて、それはそれで面白かったり考えさせられたりする事柄は多々あります。
ただ、それと同時に、もっとミニマムで身近な事柄を主題として、物語の大きな柱として据えて、ずっと描き続けているのが、このシリーズの特長だと私は思っていて。今その主題を思い切って簡単に言い切ってしまうならば、それは「家族」ってなんだろう、ってこと。もっと言うならば、人が一緒に生きるってどういうことなんだろう、ってこと。それがテーマなんだと私は思っています。

サイコロの目がなした全くの偶然だったのか、それとも周到な計算に基づく配置だったのか。いずれにしろ、『EXボスのSW2.0』でパーティを結成した6人のキャラクターたちは、全員が過去に親族との死別・離別を経験した、という設定を持っています。
設定そのものはあくまで設定であって、そこから、いかにも作り話らしい、もっと極端でネタにしやすい性格づけや関係を導くことも可能だったでしょう。けれども、この作品でそんな設定の彼女たちが過ごしているのは、ごくごく日常的な、にぎやかで楽しい共同生活で。
ならばしかし、重い過去は軽くネタとして笑い飛ばせるフレーバー要素なのかと言えば、それは違う。過去の経験に応じて、各人の人間観、他人に対する見方は異なっていて、とりあえずは当たり前のように共同生活を送っていても、各々の前に、なぜ自分はこのメンバーと一緒に生活することを選ぶのか、という問いがある。そしてまた、6人で過ごす生活が当たり前になればなるほど、自身の過去の人間関係とどう向き合うのか、という問いが立ち上がってくる。
それは、7章66回の積み重ねを通して、ゆっくりと答えが形になってきた問いであり、そしてこれからもじっくりと答えが探されていくであろう問いです。

RPGの主人公パーティというのは構造上、基本的にイベントに合わせて動き回る放浪者であり、いろんな設定のキャラクターを集めた寄り合い所帯であるものです。
『EXボスのSW2.0』においても、この6人が最初に集まったきっかけそのものは、外から見るならばプレイヤーがゲームをする上での都合だし、ストーリー的に言えば全くの偶然でした。でも、たとえきっかけは偶然であっても。人と人が出会い、時間を共有することには意味があり、必然性があるんだ、ということが、この作品を見ていると自然に腑に落ちてきます。
ひとりで生きるのは難しいし、他人と一緒にいることで出来るようになることはたくさんある。そして、"他人と一緒だから出来ること" とは、一人じゃ受けられないミッションをこなせるとか、より強いモンスターを倒せるとか、そういうことだけではないのです。

この作品を象徴するアイテムとして、パーティのメンバーの一人、ラン(八雲藍)が第一話から書き続けている日記、というのがあります。実際にストーリーの中での日数の進行に合わせて、毎日の分の日記の文面を作者は作成していて、動画の折り目折り目に公開しているのですが。
この日記、書いてあることが彼女たちの仕事にどう役立つ、とか、伏線として後のストーリーにこう繋がって、とかいうものではありません。読者にとっても、シナリオを理解する上では特に必要ないものです。ただ、動画で見てきた事柄がランの目線でまとめられていて、時々映像ではわざわざ触れていない些細な日常のエピソードが一行二行書き込まれていたり、ラン自身の感想が一言二言つぶやかれていたり、というだけの。
でも、そんな、本当に平凡なただの日記を、多くの読者が楽しみにしていたんです。動画の中で、キャラクターの思考と行動が生き生きと描かれているからこそ、日記の中の、今晩の食卓であいつがこんなこと言ってたよ、なんてただ一行だけの文章からもありありと情景が思い浮かぶ。そして日記の中の日常の一コマ一コマに触れているからこそ、サイコロを振って数字が並んだだけの画面を見た時にも、今このキャラクターはあんな顔をしてこんなことをやっているんだろうな、という想像が湧いてくる。
何に役立つとも、どこに繋がるとも知れない、なんでもない些細な出来事の積み重ね。人間が生活するとは、思い出が出来ていくとは、たとえばこんな日記を書き綴っていくことの中にこそあるんじゃないか。動画の中の世界で、毎夜毎夜、ランの日記を通して一日を振り返っていると、そんな風に思えてくるのです。


EX団 7-EX 11:11 のコピー



先にも書いた通り、『EXボスのSW2.0』の第7章は、区切りだからといって何か特別ドラマティックな展開があるものではありません。
にもかかわらず。最後まで通して見た時そこには、その場のストーリーの流れと、音と映像の演出と、ここまで全ての物語の積み重ねとが三位一体となって、すばらしい衝撃と感慨を呼び起こす一瞬が存在しています。
こう、ニコマス動画にもなっている歌の一節に、「何気ない毎日の一秒一秒が 宝石よりも価値がある宝物」という詞がありましたが。ここにあるのはまさしく、報酬では手に入らない、"宝石よりも価値がある宝物" だと、私も思います。

あらためて、この作品と出会い、七ヶ月半の時間を共にすることが出来たのは、私にとって本当に幸せなことでした。
EX団氏とその作品の未来に、幸多からんことを。




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Vinegar56%

Author:Vinegar56%

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
全記事一覧

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数: