律子は鎹


アニマス劇場版については、3月にいくらか文章を書きましたが。その後、2度目、3度目と映画館に行きまして、まあ見れば印象が変わる部分、新しく気がつく部分は当然あります。もっともそれは、最初に見たその場、その時点の印象というものを否定できたり代替できたりするものではないので、だから最初の感想の結論をどうこう書き換える、ということはありません。
ただ、2度目、3度目の鑑賞で得た、こっちはこっちで最初の感想では代替できない印象についてはどうするか。何も書かないでいるうちに記憶も薄れました。まあブルーレイが出れば、細かいところの検討はいつでも誰にでも、いくらでも出来るわけで、もういいかな、という気もしますが、いま気が向いたことを少しだけ、ぼそぼそと書いておきます。

劇場版アイドルマスターのネタバレを含みます。








わりとどうでもいい話から。最初の感想を書いてる時、他所の記事に、響が合宿中に横山奈緒、佐竹美奈子のダンスを指導している、と書いてあって、そうかと思ってわざわざ訂正したのですが、2度目に見てみたら、やっぱりミニライブより後のシーンでしたね、それ。結論としては、他人の記憶を当てにしてはいけない。
あと、わたし、最初の感想で、終盤の可奈を連れてアリーナの舞台に行くシーンで、七尾百合子がダンス苦戦組の心情を切々と説明して、と自信満々に書いてますが、いや実際そうだったと信じ込んでいたんですが、2度目に見たら、そこじゃなくて雪歩の家でのシーンなんですよね、百合子の演説。結論としては、他人の記憶はあてにならないが、自分の記憶はもっと信用できない、ということが確認できました。


さて。最初の感想で私は、ミニライブの後、赤羽根Pはバックダンサーズを765プロで全面的に引き受ける、という彼にしか出来ない決断をして、事態を解決に導いた、と説明しました。で、大掴みな捉え方としてはそれでいい、と今でも思っていますが、ただ、この説明、単純化のために話をすっ飛ばしてしまった部分はあります。

つまり、たしかに赤羽根Pの決定によって状況は動き、765プロアイドルとバックダンサーズは合同した。けれども、それによって事態がすぐに好転したわけではなかった、というところ。ダンサーズ個々の力量は上昇したものの、むしろダンサー間の力量差が浮き彫りになり、意識はバラバラ、それぞれが悩みを深め、全体のリーダーである春香も追い詰められていく、という状況になってしまった。
この、765アイドルとダンサーズが合同してから負のスパイラルが底を打つまでの期間が、どのキャラクターについて考える上でも非常に重要だと、2度目の視聴であらためて認識しましたが、この期間は、律子と赤羽根Pについて考える上でもきわめて重要です。

そんなわけで、律子の話です。
まあ、あの映画の中の秋月律子というキャラクター個人について、私に語りたいこと、語れることはありません。どこが良い、どこが悪いという話ではなくて、どこが良いとか悪いとかいう段階に達していない、という話。
なにしろ、赤羽根Pと、今はプロデューサーに専念なんです、でもアイドルもやったら? いえプロデューサーに専念、でもアイドルやりたいでしょ? いえプロデューサー、という立ち場表明の会話を延々やっているだけの存在について、何を語れというのか。
ただ、それはそれとして、あのシナリオの中で律子が他のキャラクターに無い、固有かつ非常に重要な役割を担っていたのは確かで、それは私が最初に視聴した時には気づかなかった部分でもあります。

前提として。2度目の視聴の際、このストーリーの中で、赤羽根Pと律子が非常に密なコミュニケーションを取りながら仕事に臨んでいると感じました。
たとえば、事務所で春香をリーダーに指名する際、赤羽根Pはその話を切り出す前に律子とアイコンタクトを交します。リーダー指名の話をここですることが、事前に二人の間の了解事項になっていることがわかります。
同様に合宿中の、最終日の律子のダンス参加をめぐるやりとり。今回はプロデューサーに徹すると決めたのに、いや律子が一緒に踊るところを俺も見ておきたいんだ、というやりとりからは、二人が互いの今後の行動方針を共有した上で、合宿に臨んでいることが察せられます。実際にハリウッド行きが全員の前で発表される下りでも、律子は明らかに、このタイミングでその話が出るとわかった上で皆を呼び集めていました。

赤羽根Pが765プロを離れるかどうか、ということと、律子が何を自分の仕事と思い定めて活動するか、ということは、互いに連動した問題でもある(赤羽根Pがことあるごとに律子にアイドル活動を誘いかけるのも、律子が「今回はプロデューサーに専念」にこだわるのも、赤羽根P離脱後の765プロにおいて、必然的に律子がプロデューサー業を一手に引き受けるであろうことを想定すると、納得しやすい)わけですが、そういう各々の今後の活動方針と、従って今回のアリーナライブがどんな内容であるべきか、という指針とが、事前に共有認識としてしっかりあった上で、二人はこの仕事に臨んでいるのです。
一方で二人の間には、担当する領域の明確な線引きがあって、ミニライブ後のダンサーズ引き取りに象徴されるような、ぎりぎりの局面での大方針の決断と、決定事項をアイドルたちにどのタイミングで伝えるか、という判断が赤羽根Pに一任されている一方、アイドルたちへの直接的な監督・指導は律子に一任されています。

そのような、赤羽根Pー律子間の、密な認識共有と明確な役割分担を踏まえて、ダンサーズ合同後の二人のコミュニケーションが生じます。例の、律子の「ていっ」キックが出る、屋上での二人の会話シーンですね。
ここで赤羽根Pは、自分が強引にダンサーズを引き受けさせたことで、「みんな」に負担をかけてしまったのではないか、やはりハリウッド行きを延ばすべきではないか、と言い出します。
そこで出るのが、「ダメです! みんな、自分たちで考えて乗り越えようと、頑張ってるところなんですから。今はみんなを信じてあげてください。」という律子の台詞です。

この律子の言葉は、二つの点で重要です。
一つは、何もかもがうまく行かず、赤羽根Pですら自分のやったことに自信をもてなくなってしまった状況の中で、律子は迷うことなく「みんな」の力を信じている、ということ。
もう一つは、そうして後悔と自責から、自分のやったことを否定しようとした赤羽根Pに対して、律子が、あなたのやったことは間違ってない、と後押しする役割を果たしていることです。

アイドルたちには、迷う時苦しい時、支えてくれる仲間とプロデューサーがいた。けれども、ならばアイドルを支えるプロデューサーの方は、どうなのだろうか。
もしこの場面で律子の介在がなければ、赤羽根Pはひたすら一方的にアイドルたちを支え、自分の悩みは自分で処理して誰にも頼らない・頼れない完璧超人になってしまいます。
けれどもそうではなくて、赤羽根Pが迷う時苦しい時、隣には律子がいた。律子がいることによって、赤羽根Pもまた、悩み、悩んだ時他人に支えてもらう、等身大の人間でいることが出来たのです。

赤羽根Pとの会話の中で、律子はストーリーの中でなくてはならぬ、そして彼女にしか果たせない役割を果たしています。
それはまた、全体の尺に制限がある中で、多数の登場人物の関係と役割をどう整理するか。そういうシナリオの技術的側面において、本作が秀でていることを示す、一つの例でもあるでしょう。


関連して、あずさの話を少しだけ。
私の、この映画におけるあずささんの全体的な印象は、前に書いた通りで、 ”こんなんじゃダメ” というのが全てです。ただまあ、それはそれとして、面白い、そして重要だと思う部分はありました。

合宿中、枕投げを始めて騒いでいる765アイドルたちに、律子が注意しに来る場面。
襖を開けて叱りつけようとした律子の顔に枕が命中し、室内のアイドルたちの様子へとカットが切り替わる。この瞬間、みんなが驚き、おびえた顔をしている中で、あずさだけがにこにこしています。
おそらくあずさは、ここで律子が、夜更かしする子どもを上から叱りつける監督者の立ち場から、同レベルで喧嘩して同レベルで遊ぶ悪友の立ち場に降りてくることを、純粋に喜び、歓迎しているのです。

あずさの、律子に対するこのような態度は、TVシリーズ18話での、律子がライブに出てくれることが嬉しい、伊織・亜美・自分・律子、四人で「竜宮小町」だから、という言葉にも、そしてアリーナライブ前に律子の胸に花を付けて、「私たちはいつも、律子さんと一緒ですからね」と言った言葉にも通底するものでしょう。

アニマス全体を通じて、あずさは律子に、プロデューサーとアイドル、プロデュース・指導する側とされる側、という立ち場を超えた、対等で隔てない仲間として付き合えることを、一貫して望んでいます。
さきの伝で言えば、アイドルたちには、支えてくれる赤羽根Pがいた。赤羽根Pには、後押ししてくれる律子がいた。同じように、律子には、律子を見守るあずさがいたんだ。ということになるでしょうか。







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コメントありがとうございます。
たしかに考えてみるとおかしいですね。ご指摘の通り、キックではなくパンチだったかもしれません。
何分にも3ヶ月以上前のことをうろ覚えで書いているので、他にも不正確な場所は記事中に多々あろうかと思います。
貴重なご教示とご意見、有り難うございました。
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