まっすぐ万能説


昨日の記事の続きだけれど、昨日の記事と特に関係はない話。
ニコマスの話です。








『まどか☆マギカ』で二つ、印象に残った言葉がありました。一つは、第1話で暁美ほむらが言った、「あなたは鹿目まどかのままでいればいい。」という台詞。もう一つは、「願い」/「呪い」という、対になるキーワード。
この記事で書くのは、前者の方から連想したことです。

本記事は、以下の作品のネタバレを含みます。

アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』
陽一P ノベルゲーム風アイドルマスター 「Bullet×M@sters」 (07年11月21日〜10年08月26日完結)
ておくれP アイマスクエストⅣ (07年10月12日〜)
ほうとうの具P 【アイドルマスター】アイドルたちのオウガバトル (08年06月18日〜)
ペデューサーP 職業アイドル (09年03月13日〜)
tahiriP 【アイドルマスター】Defence For You!【EDF2】 (08年09月05日〜)










「あなたは鹿目まどかのままでいればいい。」

という台詞を聞いて私がただちに連想したのが、

「お前は、それでいい。真っ直ぐに、綺麗なまま生きろ」

という、ノベマス動画の台詞です。
陽一P『Bullet×M@sters』の物語中において、プロデューサーが春香に向かって言ったものです。

もちろん、その台詞が告げられたシチュエーションは、両作品で異なっています。
後者が、シリーズがかなりの話数を経た後期になって、初めて出てくるものであるのに対して、前者は第1話の、二人の最初の会話において出てきたものです。
なぜ『まどか☆マギカ』ではこんな台詞が物語の冒頭でいきなり出てくるのか。そのことひとつを考えるだけでも、このアニメが、逐一描写したら膨大な時間を要する筈の内容を短い尺の中に折り畳んで収納する、ニコマスで言えば『3A07』的な技法で構築されていることがわかりますが、それはまた別の話。




『まどか☆マギカ』における暁美ほむらの台詞と『Bullet×M@sters』におけるPの台詞。両者が含意するものは、よく似ている。
「あなたのまま」「綺麗なまま」であることがわざわざ要求されるのは、彼ら彼女らの暮らす世界が、実際には「あなたのまま」「綺麗なまま」ではいられないものだから。
そして、「あなたは」「お前は」という限定の背後には、「あなた」を「あなたのまま」にしておけないもの、「綺麗」でないものは、「わたし」が、「俺」が、引き受けるから、という意志がひそんでいる。


「綺麗なまま」では済まない世界で、「綺麗なまま」でいる(べき)「あなた」。そして「あなた」を「綺麗」であり続けさせるために、「綺麗」でないものすべてを引き受ける「わたし」。そういう構図は、ニコマスのテキスト系動画においても、あちこちで見ることができる。
たとえば、ておくれP『アイマスクエストⅣ』における、閣下と春香の関係がそうだ。

登場時には謎めいて見えた閣下だが、ストーリーも終盤となった現在においては、彼女の言動の背後には、一貫した意志が存在していたことがわかる。
春香とのやりとりの中で、閣下が一貫してこだわっていたのは、「勇者」という存在だった。閣下はずっと、春香が「勇者」たりえる人間なのかどうかを見極めようとしていた。そして最終的に、春香が「勇者」たるにふさわしい人間だという結論を得た時、それによって、閣下が取るべき道も定まる。何故ならば、閣下は、「勇者」がいかに努力しようとも世界が救われるわけではなく、ただ次の「勇者」が新たな犠牲として用意されるだけなのだと、知っているから。
ゆえに、対春香、ということに限定して言うと、自分がこの世界の不条理のすべてを引き受けて事態を解決することで、春香には純粋で幸福なまま、あるべき世界に帰ってもらうこと。それが、閣下の描いていたプランだった。

ここで、(閣下が人間らしい弱みを見せないキャラクターであるがために、やや見えにくいのだが)、相手を守ることが当人にとって最後の拠り所になっている、という点において、閣下と春香の関係は、暁美ほむらと鹿目まどかの関係によく似ていることがわかる。
「勇者」という存在を、誰よりも誇りに思っている閣下。そして、にも関わらず、自分自身はもはや「勇者」と呼ばれるに値しないと認識している閣下。そんな彼女にとって最後の拠り所が、春香のような、これから「勇者」たれる人間を、そのような人間を生み出せる人間社会を、自分の存在によって守れる、ということなのだ。


『まどか☆マギカ』における暁美ほむらと鹿目まどかのような、あるいは『アイマスクエストⅣ』における閣下と春香のような関係のありよう。それは、彼女たちのようには強大でも特別でもないキャラクターにおいても、存在する。
たとえば、ほうとうの具P『アイドルたちのオウガバトル』第2章における、千早と春香の関係がそうである。

架空世界で戦っていたアイドルたちだが、とある事件によって、春香とやよいだけが分断されてしまう。二人はどうにか方法を見つけて仲間のもとに帰還するが、精神的支柱を突如として失った仲間たちは、瓦解寸前の状況に追い詰められていた。
再会した春香に向かって、千早が言う。

「私が、あなたを守る」
「私のすべてを賭けてでも」

と。
そして願う。

「強さが欲しい」
「すべての敵を倒して、春香を守れるだけの強さが」

欲しい、と。

第2章冒頭の千早にとって、千早自身のかつて持っていた喜び、望み、良心、そういったものは、もはや無意味である。ただ、春香という他者の中にだけ、それらが今も息づいている。
ここにもまた、綺麗なままの「あなた」と、綺麗でないこの世界を引き受けて、「あなた」を綺麗なままに守る「わたし」、という構図が存在する。


あるいは、ペデューサーP『職業アイドル』における、千早と春香。

アメリカでの活動を経て帰国した如月千早。どういう経緯があったのか、今の彼女はアイドル活動に対してどんな夢も望みも抱いておらず、ただ「職業」としてアイドル業をこなしている。やがて千早は、日本で活動を続けていた天海春香と、ステージで対決することとなる。
春香と再会して二人だけになった時、千早が言う。まだ飽きもせず、《ファンのため》などと言っているのか。そんな言葉は、断じて否定させてもらう、と。その時、そんなお前にだけは負けない、と応じた春香の言葉の中に、千早はアイドルとしての正しい有り様を認め、そして思う。

「紛い物の相手は、いつだって本物でなくてはいけない」 
「そう、目の前にいるような」

本物でなくてはいけない、と。

アイドルをめぐる世界にも自分自身にも、何の望みも抱いていない千早にとって最後の望みが、そんな世界でアイドルとして正しく有り続けている「本物」である春香と戦って、自分が敗れて「紛い物」として否定されることなのである。

彼女たちの場合は、守り守られる関係ではない。互いに憎みあう敵同士である。
にも関わらず、千早にとっての最後の拠り所が、春香という他者の中に存在するという点においては、『職業アイドル』における二人の関係は、『アイドルたちのオウガバトル』における二人のそれと、まったく同質なのである。

なおまた、本作における千早と春香の関係のもう一つの肝は、実際には春香もまた、なんらか歪んで狂った存在になっている、という点にある。
劇中、誰よりも春香から遠く離れ、誰よりも春香と憎みあっている千早こそが、他の誰よりも、アイドル天海春香の真価を理解している。そうであるが故に、千早だけは、春香もまたすでに変質しているのだということ、そしてまた、その変質には何よりも千早自身の変化が影響しているのだということに、気づくことができない。

『職業アイドル』は09年3月に連載が始まり、千早と春香の対立が克明に描写されたのは12年1月末のことであった。当時は、こんなにも世の中の流れを意に介することなく、極限まで突き詰められた世界を提示してくる作品があるとは、と思ったものである。そしてその回の後、本シリーズの音沙汰は途絶えているが、見直すにつけ、それも無理からぬことと思ってしまう。

構図とシチュエーションはまったく異なる(従って、本記事のテーマからは外れる)が、同様に「はるちは」の対立を描いて、その構図と描写があまりにも突き詰められ過ぎていたが故に、そこで連載が止まってしまったのが不思議でないと感じる作品に、tahiriPの『Defence For You!』がある。
まあ、かようにして「はるちは」をめぐる表現を掘り返していくと、なかなか底が深くて話が尽きないのだけれど、閑話休題。


冒頭に挙げた、『Bullet×M@sters』という作品に戻る。
本作のPと春香の関係もまた、ここまで挙げてきた各作品の構図と、よく似ている。春香が「真っ直ぐ」で「綺麗なまま」であることによって、春香を守るPのアイデンティティが支えられている、という構図。
ところが、二人のキャラクターの関係をめぐってよく似た構図を持つ作品が、このように多数存在することを見いだしてなお、私は、『Bullet×M@sters』という作品のそれには、特異な点があるように思う。

『アイマスクエストⅣ』における閣下は、可能な限り、綺麗でない世界の現実など(帰るべき世界が別にある)春香に知らせる必要はない、と考えていた。
『アイドルたちのオウガバトル』の、あるいは『職業アイドル』の千早の場合には、実際のところ春香がいま何を認識し、どんな状態にあるかということは、もはや問題ではない。ただ、春香だけは変わるはずが無い、変わらないべきである、という仮定と願望が、そのまま拠り所になっている。

しかしながら、『Bullet×M@sters』において「お前は、それでいい。真っ直ぐに、綺麗なまま生きろ」という言葉に籠められているものは、そのどちらとも違う。

「お前」を守るために誰も彼もが血を流し、手を汚し、綺麗でなくなっていく。
「お前」が綺麗であり続ければあり続けるだけ、そのせいで流れる血の量が増えていく。
それを認識した上でなお、「お前」だけは、「真っ直ぐに」「綺麗なまま」生きてみせろ、と。 

この台詞を放ったキャラクター自体にそこまでの意図がなかったとしても、物語全部を見渡した時、この作品が春香に対して要求しているのは、紛れもなくそういうことだ。


この記事ではいくつかのテキスト系作品に言及したが、うち現時点で完結しているのは、陽一P『Bullet×M@sters』のみである。
それは、もってこの話の結論になるような事柄ではないし、ここまで述べたことのどこかに直接因果関係を繋げることも、もちろんできない。

ただ、同じくらいに突き詰められた思考が表出している作品は、他にもある中で、けれども『Bullet×M@sters』のみがその行き着く先までを描き切っている。
私がそれを、偶然の出来事とは思っていないこと、そして私がそのことに特別な意義を見いだしていることが、本記事で多少なりとも表現できていれば幸いである。




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