百舌P(mozukuzu氏)「ビッ千早」について、現時点での印象


「例えじゃなくて、現実なんだけどさ」
                            (mozukuzu氏『ビッ千早』より)

 せっかく3週続けてmozukuzu氏の動画をPickupしたので、この時点でのmozukuzu氏の動画について思う所をまとめつつ、「ビッ千早』についても書いておきましょう。こういう単記事は情報量が増えてくると心理的に書きにくくなるので。

mozukuzu氏 ビッ千早 (10/10/9)


test (10/9/12)
Si, Si, signorina (10/9/23)
Radio Time -8月第4週- (10/10/6)

※ 以下の文章にはmozukuzu氏『ビッ千早』の内容のネタバレがあります。未視聴の方は読まないでください。



 2作目の時点では動画に全く自分の情報を入れていなかったmozukuzu氏ですが、マイリストを作られたことで、SSを書かれてきたことが判明しました。さもありなん、というか、創作文を書き続けてきた経験なしにいきなりこんな動画が出現するものではありませんね。

 SS書きから動画製作者になった人に共通する特質として、文章自体の構築力やリズム感が高いのは無論ですが、動画化した時にどう文字を流せば自分の文章を一番心地よく読んで貰えるかを、初めから感覚的に掴んでいる気がします。この方が『test』と題した作品を投稿したのは、その辺りの自分の感覚と実際に動画から受ける印象の差を確認するためだったのかな、と思ったりしますが、どうなんでしょうね。


 さて、これまで私が読んだmozukuzu氏の4つの動画には、共通するテーマが流れている気がします。もっとも、2作目と3作目はもっと長い連作短編の中の一部のようですから、本来は全部を読まなければ全体のテーマなど語れない所ですが、このブログは一応、動画からアイマスを読む、ということを主眼にしているので、現時点で動画化されている部分だけから印象を述べます。

 で、そのテーマの内容が私の表現力では的確に言い表せないのですが、一応私は、”永続しない状態”と名付けています。昨日のPickupでは「永続しない感情」と書きましたが、状態と言った方がふさわしいでしょう。『test』ではもっと直截的に「思春期の女の子」という表現も使われていますが、私の感覚としてはもう少し曖昧で広がりのある言葉で捉えたい気がします。

 「『プロデューサは、わかってないよ』」と言う『test』の真、「『そういうのは、なんというか、不誠実ですよ』」と言う『Si,Si,signorina』の春香は、今まさにその状態のただ中にいます。

 「『でも、私はアイドルだから。楽観する様な自分であってもいいんじゃないかな』」と語る『Radio Time -8月第4週-』の雪歩は、それがいつか壊れること、現に壊れつつあることを覚っていますが、それはそれとして今の自分はこのままでいい、と受け止めています。

 そして、「『だから貴方は駄目なんですよ』」と「吐き捨て」る様に言う『ビッ千早』の千早においては、その状態は既に破壊された後です。千早は、今の彼女をあえて無視し、かつての千早と同じように扱おうとする元プロデューサーを冷笑して去ります。

 けれども、ここで物語に微妙な色彩を与える問題がいくつかあります。「『やり方さえ覚えれば、簡単ですよ』」「『本当に、本当に簡単な話』」と語る千早。裏返してみれば、彼女は昔の自分にとってその「やり方」が「『本当に簡単』」で無かったことをはっきり覚えています。そして今はそれが「『本当に簡単』」であることを、元プロデューサーを前にしてわざわざ強調するのは何故なのでしょう。
 そして、「『俺の時とは大違いだ』」「『だから貴方は駄目なんですよ』」と言い合う二人の間には、(昔も今も変わりなく)「『本当に、情けない』」元プロデューサーのあり方が、互いの今の境遇の原因であるという共通認識があります。にも関わらず、千早はこの「『本当に、情けない』」男を求めてくる。ここが、この二人の関係の微妙なところです。
 
 ここから先、どんな結論を見いだすかは、読む人によって、何処に力点を置いて読むかによって変わるでしょう。端的に言ってしまえば、この千早は元プロデューサーに抱いて欲しいと思っているのか、それとも抱かずにタクシー代わりに使われる男のままでいて欲しいと思っているのか。
 「女の子の吸うような味じゃねぇぞ」と注意し、終電を逃したと言う彼女に「『別にいいさ』」と答え、車に乗り込んで「『さ、帰るぞ』」と言うこの男に、彼女は頭を抱きかかえて(逡巡しながら)キスし、しかし吐き捨てる様に言葉を投げつけ、叩き付けるようにドアを閉めて去るのです。


 「こんな場所では星なんか見えないけど、それは見えてないだけでやっぱり星はあって、線はあって、神話がある。」

 「でもやっぱり、見えない物は見えないんだ。」
                            (mozukuzu氏 『ビッ千早』より)

 
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

補足

 本文が言葉足らずな感じがしたので、若干補足。
 「ビッ千早」は1人称の物語なので、初読時には語り手と同じ視点だけから物語を見がちですが、語り手から離れ、千早は何故こんな言動を取っているのか、という視点から物語を見るとまた違った面白みが出てくると思います。何年も会わなかった元プロデューサーを深夜にわざわざ呼び出した千早の側には、元プロデューサーと今あえて会わなければならない動機がある筈です。そして今度は、元プロデューサーの方が、千早の心理をどれくらい読んで行動してるのか、と想像してみるとまた面白い。
 本文では抱くか抱かないかという話に持っていきましたが、読み直すと千早の一番の望みはそこではない気もしてきますね。最後に彼女が出ていったのは、単に元プロデューサーが鈍感で気が利かないと怒っていたのかもしれない、と思ったり。
 私の想像が当たっているかどうかはともかく、繰り返しの再読に耐える本当によく出来た短編ですね。


プロフィール

Vinegar56%

Author:Vinegar56%

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
全記事一覧

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数: