「敵」を出す難しさ、「敵」のリスク(1)


 アイドルマスターには、対戦ゲームとしての要素とストーリーものとしての要素がある。そして対戦ゲームの要素を無くすことがまずあり得ない以上、プレイヤー側と対決する存在が不可欠である。ストーリー作品における敵・ライバルの描き方について、少し考えてみる。

※以下の文章には、若燕P【NovelsM@ster】961の春香(10/6/8~10/8/14完結)のストーリーのネタバレが含まれます。
 


1. 『961の春香』のネガティブコメント

 若燕Pの『961の春香』の最終話が来た時、私はコメントを読んでいて非常に複雑な感情になる体験をした。
 『961の春香」は大雑把に言えば、961プロに移籍した春香が千早とオーディションで対決することになる、という展開で最終話を迎えるが、最終話でオーディションに日高舞がエントリーしていることが明らかになる。その時、日高舞の登場に拒否反応を示すコメントがたくさん付いて、荒れた状態になったのである。

 私は基本的には動画のストーリー展開やキャラクターに対してネガティブなコメントが付くのを見るのが嫌いで、すべきではないと思っている。それは何よりも読んでいて自分が不快になって楽しめないからで、理性では「このコメをしている人にもそんなに悪気があるわけではないのだから」と押さえつけても、感情では「人が楽しんでみている動画にこんな不快なコメをしやがって」と一人で怒っている、というのが私のネガティブコメントに対する通常の反応である。

 ところが、この『961の春香』のコメントを見た時私の心が起こした反応はいつもと違っていた。理性では「こんなコメントで画面が埋まっていたら楽しめない人がたくさん出てくる、ここは怒るべき場面だ」と思っているのだが、心情的には何故この人たちがこんなコメをしたのかが想像できてしまってあまり不快にならない、という屈折した状態になった。 
 それは、『961の春香』のストーリー展開に不満を持ったからでは全くなくて、事実私はその後も最後までこのシリーズを楽しんで視聴した。そうではなくて、単に「日高舞がいつでも無条件に最強なのを納得してない人って、俺だけじゃなかったんだなあ」ということを発見してしまって、ネガティブコメントから自分の考えていたことが特異で異端なものでもないことを確認できてしまったからである。

 『961の春香』のコメントに話を戻せば、やはり私はそうしたコメントをするべきではないと思っている。なぜそんな拒否反応が起こるかと言えば、「このシリーズのコンセプトは春香と千早のオーディションでのぶつかり合いの熱さを描くことである」と視聴者側が前話までから勝手に抱いていたイメージがあって、その自分が思い描いていた展開と現実のストーリーの差を受け入れられない人がネガコメに走った訳である。
 しかし、当然ながら、作者は視聴者の読みたいストーリーを作っているわけではなく、この場合は視聴者が想像していたのとは別の部分に作者の描きたいポイントがあり、それを描くための必然性があって日高舞を登場させて対決のシーンは省略したわけだ。

 だから視聴者は動画を論評したいのであれば、まず「作者が描きたいポイントがどこにあるのか」という部分をきちんと見極めなければならない。ポジティブなコメントを読んで不快になる視聴者はまあほとんどいないが、ネガティブコメントは作者も他の視聴者も不愉快にさせる。ニコ動のコメントは公共性のある空間なのだから、自分のコメントが単なる貶しや荒らしではなく、動画に対する評価・アドバイスと言えるものにするために、視聴者の側にも作品への読解力が要求されているのである。


2.「人格のある敵」のリスク

 以上述べたことも重要だと思っているのだが、ネガコメの話はダシに使っただけで、今回私がメインに考えようとしているのはストーリー作品における「敵」の描き方についてである。

 さて、『961の春香』で起こったことは『961の春香』固有の現象ではなく、日高舞が登場して現役アイドル(特に765プロ)と戦う、というストーリーを作ったらどこでも起きるリスクのある問題である。なぜなら、(私がそうであるように)「日高舞が、現役アイドルが束になっても敵わない最強のステータスを持っている」という設定自体に納得していない人が存在するからである。
 だってそうでしょう? 無印で俺の育て上げた春香や千早や美希が、あんなに可愛いアイドルたちが、アイドルやめて13年のただの主婦に勝てないとか何の冗談だよ、って思いません? 「謎の覆面アイドル」がいつでも最強って、それ単なる八百長じゃねえの、って突っ込みたくなりません?

  何が言いたいかというと、(別にDSや舞さんを貶したいんじゃなくて)、たとえ設定上「この人が最強です」「この人には絶対誰も勝てません」という設定を作ってあっても、実際にストーリーの上で「ああ、この人に負けるのは当然だよな」と思わせるような説得力・必然性がないと、読者・視聴者・プレイヤーが無条件で設定に納得してくれるわけではないということ。
 (念のために繰り返すが、『961の春香』や、日高舞が現役アイドルに勝つようなストーリーを批判したり、それらがつまらないと言っているのでは全くない。どこに描きたいポイントがあって、そのために各キャラクターにどんな役割をさせるかは当然全く作者の自由であって、「舞を出すなら強い理由を描写するべき」などとは全く思っていない。)

 このように、日高舞に限らず、主人公・プレイヤーの行動の邪魔をする「敵」を登場させることは、物語の受け手から、その「敵」が「強い」(=主人公の行動を邪魔できる能力がある)ことに(物語上その「強さ」に説得力を与えられなければ)不満をもたれるリスクを孕んでいる。

 しかし、いくら強くても不満を持たれにくい敵も存在する。アケマス・無印の覇王エンジェルや佐野美心のような、顔も人格もストーリー上出てこなくて、対戦の時だけ主人公と戦う「人格のない敵」である。NPCやCPUに負けるのは、単にそのNPC・CPUのパラメータや性能が自分より高いからで、それを怒ったってしょうがない。同様に、オンライン対戦で自分より腕前が良いプロデューサーに負けるのも当たり前のことだから、それでゲームに不満を持つ人はいない。(もちろん、敵が強過ぎてゲームをクリアできない、ということも不満要因にはなり得るが、それは単にゲームバランスの問題なので)

 だが、NPC敵がストーリーにも絡んでいたらどうか。たとえば、覇王エンジェルがコミュに毎回出てきて、プレイヤーの担当アイドルに嫌がらせをしたり仕事を横取りしたりするようなストーリーだったら。「なんでこんな奴らにオーディションで勝てないんだよ」という不満をプレイヤーが感じてもおかしくない。これが対戦要素とストーリー要素の両方あるゲームで、「人格のある敵」を出すリスクである。「キャラクターとしての敵」と「設定としての敵の強さ」の同一性にプレイヤーが納得するとは限らないのだ。そして納得できなければ、それはゲームに対する不満、ストレス要因となる。


3. 「ムカつく敵」における、ストレスと動機付けの不可分性

 ここでアイマス2についての石原ディレクターへのインタビューに触れる。石原ディレクターは、男性アイドルユニット「ジュピター」について、アイマスには“燃え”の要素が必須で、「“燃え”の要素を残すため」「強力な“敵”であり、多少はムカつけるユニットとしてジュピターを作」ったと説明している。他にもジュピターに言及した箇所があるが、基本的にこの内容を詳述しただけと言って良いだろう。すなわち、

・プレイヤーに“燃え”を体験させるため
・(パラメータ的に)強くて(=プレイヤーの意図を阻止する能力があり)
・(キャラクター的に・ストーリー上)プレイヤーがムカつくような(人格を持つ)

敵をアイマス2で設定した。

 石原ディレクターのこの説明は説明者の認識が誤っているか、少なくとも舌足らずである。ムカつくような、憎みたくなるようなキャラクターの敵と戦うプレイヤーが抱く感情は不快感、ストレス以外の何物でもなく、それは“燃え”と呼べるようなプラスの感情ではない。ただし、戦った結果、「憎い敵を倒す」という所まで到達すれば、それは喜びになって、“燃え”と称することも可能であろう。
 石原ディレクターの説明が誤り、または舌足らずなのは、プレイヤーにとっては「ムカつく敵を出すこと」が“燃え”なのではなく「ムカつく敵を倒す」ことが“燃え”であること、そして倒すことで“燃え”を体験できるとしても、それまでの過程はプレイヤーにとってストレスでしかないという事を述べていないからである。

 プレイヤーは娯楽のためにゲームをしているのであって、どのような理由からであってもストレスをゲームから受けることを好まない。従って、石原ディレクターは「ムカつく敵」を出すことがプレイヤーにとってプラスの要素であるかのように説明しているが、むしろ逆なのであって、「ムカつく」というストレス要因を入れるならば

・「ムカつく敵」が出る必然性
・味方キャラクターに強く感情移入できること
・シナリオの面白さ

等、それにも関わらず(敵を倒すカタルシスを得るまでの間)プレイを継続させるためのプラス要素が、必然的に要求されるのである。

 すなわち問題は、「敵」が「ムカつく」というストレス=プレイ継続の阻害要因が、「敵」を倒したい=プレイ継続の動機付けと不可分一体になっていることにある。
 では、ストレス要因なしに“燃え”を受け手に体験させることは可能だろうか? そのことを、公式に1年以上先んじて「人格のある敵」の扱いを工夫してきた、ニコマス作品によって見ていこう。長くなってきたのでまた次回。
                                
                                            (未完) 

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