近況報告的な⑶ 律子


前記事のあずさシナリオと並んで、復習してみて腑に落ちた、納得した感の強かったシナリオですね。






伝統的にというか、律子を語ろうとする時には、理解されていない彼女の魅力をアピールする、という文脈が入ることが多くて、それが結果的に強調されやすい要素とされにくい要素を生んでいる気がします。つまり、一見てきぱき屋に見えるけれど実は結構ぐうたらしてるところがあるんだよ、とか、あんなに優秀でスタイル良いのに実は心はコンプレックスで一杯なんだよ、とか、「……に見えるけれど、実は……なんだよ」の図式で語られることが多い。
それによって理解できることもあれば、かえって見えにくくなるだろうこともまたあるわけで、今回の律子シナリオ復習で私がいちばん重要だと感じたのは、でも律っちゃんって、基本的にものすごく楽天的で自信満々な人だよね、ということです。

律子は、事務所でPと出会った時点ですでに、将来的に自ら事務所を開いて大きくする、壮大なロードマップを思い描いています。それ以外でも、何事につけても大きな目標を描き、計画を立てて実行することを好みます。自身のアイドル活動についても、例外ではありません。高ランク終盤の未来像ならばいざ知らず、活動の真っ最中に、アイドルとして世界に進出する、なんて目標を大真面目に語っているアイドルは、律子くらいのものでしょう。
律子はつねに壮大な青写真を描きながら生きている人であり、そして、自分が本気で戦略を立てて努力すれば達成できない夢なんてないはずだ、と思っている人です。

無印のシナリオでは多くの場合、低ランク時点のアイドルは、このまま芽が出なかったら自分はどうしたらいいのだろう、という強烈な不安と共に生きています。前回の記事のあずさはその典型的な例のひとつですが、律子の場合はそういう不安が見られません。5年後10年後自分が実現しているべき壮大な青写真と、そこまでの綿密なロードマップは滔々と語るけれども、半年後1年後つまらないところで転んでいる自分の姿は想像だにしないのが(他のアイドルと比較して)低ランクの律子の特徴的なところだと、私は思っています。

もちろん、律子が頻々と口にする、強気で大きな言葉は、自分にはないと認識しているもの、苦手だと思っているもの、たとえば容姿とかスター性とかの土俵で勝負したら、他人に敵うわけがない、という強い不安、コンプレックスの裏返しでもあります。ただし、その不安の皮を一枚むくとまた、得意の土俵に持っていけば負ける筈がない、自分ならば一発逆転の秘策を編み出せるはず、という自信満々な顔が出てくる。
そうやって、自信の裏に不安、不安の裏に自信、その裏にまた……と、バームクーヘンのように自信と不安という二つの色が何層も重なっているのが律子で、なるほどめんどくさい人物なのは間違いないでしょう。ただ、複雑だとか難しいとかいう気は、私はあまりしません。構造自体ははっきりしていてわかりやすい。ただ、そういう精神構造を踏まえた、付き合い方の呼吸が要求されるのでめんどくさい、と。

そういう構造がわかりやすいということは、それがどう変化することが彼女の成長なのか、そしてその変化がいつどのように起こっているのか、ということも読み取りやすい、ということでもあります。
高ランクの律子が見せる、顕著な成長の一側面は、苦手(だと自分で認識している)分野への向き合い方の変化です。すなわち、ランクCでしばしば見られる、大きなステージ、大きな仕事を前にして、緊張していること、不安に思っていることを自ら認める態度であり、ランクBで出てくる、苦手だと思っているもの(コントやプロの司会を相手にしてのしゃべり)であってもちゃんと取り組みます、という姿勢がそれです。
手練手管を尽くして勝てる作戦を考えましょう、という、低ランク時から律子が取り続けてきた姿勢は、苦手なものと向き合わないための逃げ、言い訳でもあったわけですが、自分が持っている不安、苦手、コンプレックスを正面から認め、それを受け止めて乗り越える自信・覚悟を、彼女がアイドル活動を通して身につけていることが、高ランクでの描写からわかるわけです。

一方、不安・苦手・コンプレックスの側について成長があるならば、律子の精神のもう一極である、自信・夢の側はどうでしょうか。

才女と豚 53 07年06月19日


このコミュ、一見すると、自分にはアイドルとしての才能自体はあまりない、というコンプレックスの側を語っていて、それは初めから律子が持っていた要素のように思えます。けれども、興味深いのは、

「自分のやる気だけじゃ、乗り越えていけない」
「自分の力の程度を思い知った」(傍線筆者)
「努力はしてます! でも、それでも、なかなか届かないものってあるでしょう?」

といった言葉のニュアンスです。自分の力の「程度」を「思い知った」というのは、それまでは認めていなかった面での自分の限界を、今になって認識した、ということでしょう。
自分の能力を最大限に駆使してどんなに頑張ったとしても、届くことのできない領域があるのではないか、という知覚。それは、低ランクの律子にはなかった現実認識です。アイドル活動を通してそれを得たからこそ、アイドルの頂点に立った彼女が描く、それまでとは違った新しい未来図が生まれてきます。

才女と豚 61 ランクアップA 07年06月24日


「だから、決めたの。私、将来設計を、考え直してみよう、って」
「いつか自分の独立事務所を、と思ってたけど、やっぱりプロデューサーと一緒に、仕事したい」

自分ひとりで達成するつもりだった夢を、「プロデューサーと一緒」に達成する夢へと変化させる。
自分ひとりでは届かない領域、できないことがあると知ったからこそ、自分には隣に居るべき誰かが必要であることを認め、そしてその誰かを自分で選び、自分で素直に伝える。
それはおそらく、彼女にとって人生で初めての、自らの感情と正直に向き合い、自らの意志で他人に頼る、という決断だったでしょう。

無印のアイドルはドーム成功EDにおいて、異口同音に、自分にはプロデューサーが必要だ、と言います。しかし、なぜ彼女の未来にプロデューサーという他人が必要なのか、そして、なぜそれを求めることが彼女のストーリーの結論足り得るのか、という点において、律子シナリオの説得力は特筆すべきものがある、と今回プレイして私は思いました。個人的には、個別のコミュひとつひとつの楽しさと、シナリオ全体が描いている絵の説得力と両面を総合すると、無印の中でもっとも満ち足りているシナリオではないかと思っています。


あとはいくつか、ここまでの文章で拾えなかった細かいネタについて。

・ぐうたら律っちゃんについて
律子には確かにぐうたらなところ、自分に甘いところがありますが、それは、彼女が要領のよさ、効率のよさを非常に重視する思考の持ち主であり、そしてその要領のよさこそを自分の武器だと自信を持っていることと、密接に結びついています。
一面で彼女は、目的のために必要だと思ったならば、何日も徹夜して準備するくらいは平気でやってのける人でもあります。それは目的達成のための必要性を満たしているか、効率がいいか、を基準にすれば、ぐうたらしたり手を抜きたがったりすることと、まったく矛盾しません。「運動」系のコミュなどでは、練習量を増やすことを嫌がる発言が非常に目立つわけですが、それらの言動は、基本的に彼女はPの前に立った時点で、自分で必要だと思った準備は済ませているつもりであることを、考慮して読む必要があるでしょう。
まあ、直接的な効果が明白でない努力を他人から強制されることに関しては、何よりも嫌っている律子ではありますが(ただし、自分自身では「やる気」や「気合い」で行動することを好む)、「特訓」と言うとものすごく嫌がるのに、「科学的特訓」と言うとノリノリになったりするあたり、わりとちょろいところのあるとても面白い人だと思います。

・社長について
以前述べたように、律子シナリオは社長に言及するコミュが、比較的多く見られます。それは、事務員として採用され、プロデューサー志望である、という律子の事情と関連があるものと思われますが、律子ほど多くはないものの、同様に社長からの指示や評価をめぐって展開するコミュが系統的に存在するのが雪歩と春香であり、社長を絡めるのは特定のシナリオライター固有の手法だったのかなあ、と思ったりもします。

・実家について
『ある日の風景6』で語られている通りですが、律子の実家はチェーン展開している商店で、律子父は店を一代で立ち上げて大きくした立志伝中の人物であり、律子はそのような親を自慢に思っていると語っています。
親の仕事、業績の影響下で自らの目的を定めている点は、伊織や真と共通していますが、そこに負の方向の感情が見られない点が特徴的です。本記事で述べたような律子の人生観、行動原理は、このような実家に育ったことに強く影響されているのでしょう。
また、律子の両親は、娘の、高3の段階でアイドル事務所でアルバイトし、そのまま起業を目指して仕事しようとしている、という進路に対して反対している様子がありませんが、それも、そのような実家であるために、物心両面でそのような選択を応援する余裕があるが故のことと思われます。



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