流行りに乗って(得体の知れなさについて)


NP氏の本棚 特集するしかなかったんだ!

『NP氏の本棚』さんで特集が組まれるなど、近頃何かと話題のやる□P。
流れに乗って、先月末に没にした記事の一部を転用私もこのPの作品について書いてみました! 

オチが弱いというか、何が言いたいのかよくわからないオチになっていると思いますが、それは上記のようなこの記事の成立事情によります。



ノベマスPの中には、不条理なストーリーを書くのが得意な作者がいます。私の印象として、そういう作者は総じて、理知的で論理的な頭脳を持っています。ゆえに、そういう人の書くものは、基本的に話がわかりやすい。
例えばどきゆりP、ひゅんP、下風ゥP、3袋Pといった作者の動画を見て、着想の自由さに驚くとか、次に何が起こるか想像がつかないとか、見ている間は何がなんだか分からないとかいったことはあるにしても、見終わった後で、今私が見たものは一体なんだったのか、と思うような内容になっていることはまずありません。それは、動画の中に存在する様々なベクトルに対する、作者のコントロールが行き渡っているからです。(まあ、個別にみれば、3袋Pはしばしば説明を極端に省くので何をやっているかわからない、とか、下風ゥPは確かにときどき何を考えているのかさっぱりわからない、とか各々ありますが、ざっくりと言って。)
どきゆりPや下風ゥPの動画には、確かに時々怖さがありますが、その怖さというのは、普通の感覚だったらこの辺りでブレーキがかかりそうだな、というタイミングで突然アクセルを踏み込んでくる、という作者の操縦感覚の稀少性が生み出す怖さであって、それは、私がこの記事で問題にしようとしている得体の知れない怖さとは、ちょっと違う位相にあるものだと思っています。

で、私が思うに、見終わった後で、今見たものは一体なんだったのだろう、という得体の知れない感覚が残る動画というのは、むしろ動画を完璧なコントロール下に置いていない、自らが生み出したいものの方向性、生み出したものがもたらす効果を把握しきれないままに放出している作者から生まれる気がするのです。


最近見たこの動画。

やるきない□.mp4氏 【ノベマス】やよいの座標軸がずれてれぅ【一話完結】 12年09月22日


この動画については、短編ノベマスを鋭い切り口でレビューされる、コーラ味のガムをかむのCouke氏による単記事、

コーラ味のガムをかむ 非日常アイドルやよいちゃん

が既にありますので、あまり私が書けることもないのですが。
ただ、たとえばこの動画から、私はそういう得体の知れない怖さを感じるのです。

何が怖いのか。
Couke氏の指摘される通り、この動画の冒頭で、やよいは心理的に落ち込んでいる状況にあって、そのやよいの心理は、やよいの身体がズレて見える、という不可思議な物理現象と対応関係にあります。そして結果だけ見れば、不可思議な物理現象は解消され、やよいは元気になって仕事でも成功を収めている、と語られるので、その対応関係に従ってストーリーが一方向的に解決されたように思えます。
けれども、細部の因果関係を見ると、話はそんなに平明ではありません。すなわち、不可思議な物理現象が解消されたのは、タイミング的には、千早に胸を揉まれる、という、心理的な問題の解決とはおよそ関係のありそうもない事柄によってであって、それまでの美希との心理面をめぐるやりとりは、少なくとも直接的には影響していないように見えます。そして不可思議な現象から解放されたやよいは、その瞬間からまったく元気でハッピーな様子へと豹変し、現象中の出来事は綺麗さっぱり忘れてしまうのです。

これを、たとえばレストPの下の動画と比較すると、いかに不条理なストーリーであるかがわかると思います。

レストP 【novelsm@ster短編】褒めれば伸びる子 12年03月20日


この動画においては、雪歩から見えるやよいの姿が、日に日に高く巨大になっていく、という不可思議な現象が起こります。その現象は、雪歩がやよいに抱いているコンプレックス、という心理的問題とシンクロしています。ストーリーが進むにつれ、他のアイドルたちとの会話を通して雪歩は自身の心理的な問題に気づいて克服することになり、それに伴って不可思議な現象も解消します。
レストPの動画では、心理的な問題が先に存在して、それに応じて視覚上の現象が起こる、という因果関係が明確です。しかも、不可思議な現象自体、あくまで雪歩の主観上で起こっているものであることが明示されています。着想や、映像の見せ方は奇想的であっても、ストーリー展開に不可思議で難解な要素は何もない、非常に論理的な構成になっているわけです。

ひるがえって、最初の動画に戻りますと、なんだろう、この得体の知れない不可思議な物語は、と思うわけです。因果関係を見つけようとすれば、見つけられる部分はあちこち転がっています。けれども、本当にそれでいいのか、と疑いだせばきりなく疑える亀裂が、あちこちに走っている動画だと思うのです。動画中のコメントで、「これ美希だけが見た幻じゃないのか・・・」と書いた人がいますが、私にもその感覚はよくわかります。
その場には、記憶を綺麗さっぱりなくしたやよいと、事務所に来るなり普段の彼女からかけ離れた奇矯な行動を取った千早しかいないわけで、美希の目から見えたものの正しさを客観的に保証してくれるものは、動画内のどこにも存在しません。
また、私の目から見ると、この動画においては、レストPの動画とは反対に、むしろ物理的な現象が先にあって、それがやよいの心理的な変化を引き起こす、という因果関係が存在するようにも思えます。もっと言うと、不可思議な現象の間中だけ、何かイレギュラーなものがやよいの精神に取り付いていたか、あるいは逆に、現象が終わった瞬間から、何か全く異質な存在がやよいの中に注入されて、やよいの精神を置き換えてしまったようにしか、見えません。その感覚は、私という視聴者個人だけのものではなく、劇中の美希自体が、豹変し現象中の記憶を失ったやよいを見て、背筋が震える反応を示しています。
それはつまり、作者が自らが書いているものの不条理さを知覚し、ある程度計算してやっている、ということではありますが、しかしその不条理はそれ以上深く突っ込まれることなく、一足飛びに完全なハッピーエンドへと話は転がっていきます。

ここで重要なのは、もし、このストーリーが、”不可思議な何物かがやよいに憑依する/すり替わる” というものであることが保証されたならば、それはそれでホラーのオーソドックスなパターンの一つであって、怖くはあったとしても、得体が知れないものにはならない、ということです。
だから、もしラストシーンにたった一言、「でも、あの時のやよいの豹変は、一体なんだったんだろう。怖かったなあ。」とでも美希に言わせていたならば、それは、”このストーリーは、そういう不条理な展開を組み入れたものですよ” と保証することになって、この作品の不可思議さは大半消えていた筈なのです。
けれども作者は、どこまで計算しているのかしていないのかわからない曖昧な形で、平然と動画を終わらせました。まあ、おそらくは、そこまで深刻に意識していなかったのだと思います。

結果として、私はこの動画を見終わって。
結局この動画の中にあったものは一体なんだったんだろう。ギャグだと思えばいいのか、ほのぼのいい話だと思えばいいのか、ホラーだと思えばいいのか、エロだと思えばいいのか。私にとっては、どれを信じようにも確かな寄る辺がない、と気づいた時、私は得体の知れない怖さに襲われたわけです。

たぶんそれは、もう少し作者に計算してコントロールする力があると、消失して平明になるもの。作者がもっと何も考えていないと、他人にとっては意味をなさないカオスだけの代物になるもの。その中空で、何か意味のある物語が形成されているように感じられて、しかしそこに作者の想定以上、管理外の亀裂が覗いている時に、生じるもの。
私が見たものは、一体なんだったのだろう、という感覚。

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