ぽきーるP「ぼくらのアイドルマスター Live for you!」に今、もう一度出会う


 舞台に上がれば死ぬ。──それが、ライブのルール。


 アイドルマスター2についての公式発表がありました。個人的に思う所はいろいろありますが、今日はそれについて直接は触れません。今日これから私が語る作品は、いつか必ず語らなければならないと思っていた作品で、そして、今この時に語っておかねばならないと思っている作品です。

ー ぽきーるP 「ぼくらのアイドルマスター Live for you!」ー 
[01]ぼくらのアイドルマスター Live for you! 第1話 『ゲーム』 (08/3/18~)


 アイドルマスター2の内容が判明してきたことで、改めて「アイドルマスターの世界はゲームごとにパラレルワールドである」という事実が注目されています。
 しかしながら、パラレルワールドにまつわるアイマスの問題は、決してアイマス2によって初めて出現した問題ではありません。L4Uも、SPも、DSも、それぞれに無印アイマスとは異なった世界です。さらに言えば、アケマス、CDドラマ、アニメ、2次創作の一つ一つまで、「アイドルマスター」の中には異なる世界がいくつも含まれています。
 そして、アイマスを好きでいるということは、これまでと異なる世界が自分の前に現れた時、必ず「自分にとってのアイマスとは何か」を突きつけられるという事です。

 私の、ゲーム「アイドルマスター」のファンとしての経歴は長くないので、今まで自分がこうした問題について本気で悩んだことはありません。けれども、L4Uの時にも、SPの時にも、DSの時にも、大好きなPがアイマスに対して悩み、苦しみ、怒り、悲しんでいたのを、私はニコマスを通じて見てきました。
 だから、私にはアイマス2の問題はアイマス2だけの問題ではなく、ずっと私たちが直面してきた「アイマスのファンでいること」の本質的な問題であると思えてなりません。


 私がこのことを考える時、必ず思い浮かべる作品が、ぽきーるP作『ぼくらのアイドルマスター Live for you!』です。

 この作品が何をテーマとした作品であるか、端的に言えば、タイトルが全てを表しています。
 ゲーム『アイドルマスター』のキャラクター・世界観、ゲーム『アイドルマスター Live for you!』のキャラクター・世界観。そして、SF漫画『ぼくらの』のルールのアイマスへの適用。すなわち、

舞台に上がれば死ぬ。──それが、ライブのルール。

 そう、これは、「無印アイマス」と「L4U」の設定、世界観の違いをテーマに据えた作品なのです。
 けれども、ゲーム内容の変更に対する疑問・批判・自問を直接主張する性質の作品ではありませんし、登場人物がゲームの中にいることを自覚するような、いわゆるメタ的な作品でもありません(今の時点では、ですが)。あくまで、アイマスのパラレルワールド的な世界観を、SF的設定の中に練り込んで、独自の物語世界を展開する作品です。

 物語の舞台は、ファン感謝祭の行われているドーム。登場人物はアイドル・音無小鳥・ファン代表プロデューサー。そして主人公の位置にあるのが、「プロデューサー」です。彼は、この物語の世界のルールがどうなっているかを(視聴者と同様)知りません。そして、この物語において、アイドルを守るために、そして自らのために、彼はこの世界のルール、世界の真実を知らなければなりません。
 自分のいる「アイドルマスターの世界」とは何なのか。この問いに正面から向き合い、解決しようとしているのがこの物語の主人公なのです。

 そして、設定として取り込んだもうひとつの原作、鬼頭莫宏『ぼくらの』の持つルールによって、この作品はもう一つ、アイマスの本質的な問題と取り組んでいます。すなわち、立てば死ぬ、というルールの中で「舞台に立つ」、ということ。
 舞台に立つこと、即ちアイドルであるということ。舞台に立たせること、即ちプロデュースするということ。この作品が問うているのは、「アイドルとは何か」「プロデュースするとは何か」そのものなのです。


 さて、以上のような世界観は、私がこの作品に惹き付けられた大きな要因ですが、私がこの作品のことを好きになったのは、ただ世界設定について考えたいからではありません。何よりもまず、この物語が本当に面白く、魅力的であるからです。万華鏡のように多彩で強い魅力を、この作品は持っています。

 『ぼくm@s』は、「空気」が魅力です。舞台はドームですが、にぎやかなライブ会場が映るのはライブシーンだけ。ほとんどすべてのストーリーは、舞台裏、すなわち楽屋・廊下・控え室だけで進行し、そこにいるのは前に述べたアイドルと3人の関係者だけです。ほとんどのシーンは主人公とアイドルとの対話、あるいは主人公単独での探索で進行することになります。
 限られた登場人物と重い設定がもたらす、少ない言葉で多くの情報が交わされる会話。無人の空間が映る背景、音楽、インターフェース。そういったものが合わさって、つねに静謐で、緊張感にあふれた独特の空気が、この物語を支配しています。物語が自分の世界をこちら側に押し出してくるのではなく、いつのまにか物語の世界の中に没入し、とりこまれてしまう。私はこの作品をそんな風に感じます。他のどのノベマスにもない、静謐と緊張感の世界。それがこの作品の魅力です。

 『ぼくm@s』は、「ミステリー」が魅力です。何よりも先に、この作品には多くの謎とトリックが仕掛けられています。この物語における主人公の行動は、観察と推理によってその謎を解く、ミステリーにおける探偵の行動に他なりません。アイマスのキャラクターと設定を生かした、アイマスを題材とするからこその魅力的なトリックが、この作品にはたくさん仕掛けられています。そして、それに挑む主人公は全知全能の天才的探偵でもなんでもなく、アイドルを愛し、ギャグを飛ばし、悩み煩悶する等身大のプロデューサーです。
 霧のように全てが謎に包まれた不安と疑問に満ちた世界が、話の進行するごとに、鍵の嵌まるように一つ一つ明らかにされていく快感。そのために、あらゆる会話、何気ない行動にまで伏線が隠された、わずかな瞬間も見逃せない謎解きの緊張。
 私がこの作品の謎にどれだけのめりこんだかと言えば、毎回全ての台詞と場面状況を書き出し、疑問点、矛盾点と仮説をメモしておく位にはのめりこみました。謎解きのワクワク感を十二分に味わえるミステリー。それがこの作品の魅力です。

 『ぼくm@s』は、「SF」が魅力です。ミステリーとして、仕掛けられた謎を解いていった先にあるもの、それは、「この世界はどういうシステムになっているのか」という、物語そのものについての大きな謎です。その謎の答えは、第8話まで進んだ現在でも、まだ全てが明らかにされた訳ではありません。緻密でSF的知性にあふれた設定、それが解き明かされていく興奮。知的興奮に満ちたSF、それがこの作品の魅力です。

 『ぼくm@s』は、「ギャグ」が魅力です。下ネタも含めたギャグ作品の名手でもある作者は、ギャグがメインではないこの作品でも笑いを挿入することを忘れません。緊張感にあふれ、時に哀しい物語に、絶妙のバランスで挿入される場面ごとのギャグ。それがストーリーの重さを軽減し、より楽しく読ませる潤滑剤になっているのみならず、ギャグ自体に物語のヒントが散りばめられていて、後の展開につながっています。単発のギャグと大きなストーリー進行とのバランス、絡み。それがこの作品の魅力です。

 『ぼくm@s』は、「アイドル」が魅力です。ここのアイドル達は、本当に魅力的です。挫折を経験し、プロデューサーを信頼し、ライブを成功させたいと強く願っているアイドルたち。彼女たちは、設定されたルールのために迷い、苦しみながら、各々が信じるもののために、決断し、自らの答えを持って舞台に立ちます。
 アイドルであることに向き合い、全力で生きる彼女たちの姿。そのために、この物語はその悲しさや重さにもかかわらず、前向きな、希望に満ちた光を放っているように私には感じられます。アイドルこそが、この作品の魅力なのです。

 『ぼくm@s』は、「信頼関係」が魅力です。この物語のプロデューサーとアイドル、そしてアイドル同士各々が、強い信頼関係で結ばれています。それは、過去において、他ならぬそれぞれが1年間プロデュースし、プロデュースされた大切な思い出によって培われたものです。アイドルたちが不安や恐怖と直面した時、進むべき道がわからなくなった時、いつでもその背中を支え、後押ししているのは仲間のアイドルであり、プロデューサーです。何物にも代え難い固い絆、信頼関係。それがこの作品の魅力です。

 『ぼくm@s』は、「プロデューサー」が魅力です。先にも述べたように、この物語の主人公は、悩みもし、失敗もし、わからないことがたくさんある等身大のプロデューサーです。そして彼もまた、過去に拭いがたい大きな挫折を経験しています。
 理不尽な設定、不安と謎だらけの世界に対し怒り、悩みながら、それでも彼がずっと一番に考え、行動原理としているのは、愛するアイドルたちをアイドルとして幸せにすること、そこに一点の揺らぎもありません。そして彼を支えているものもまた、アイドルたちをプロデュースした大切な思い出であり、今そこにいるアイドルたちです。このプロデューサーがいるからこそ、私にとってこの作品は特別な、共感せずにはいられないものになっているのだと思います。


 最大限に言葉を尽くそうとはしてみましたが、私がこの作品から受け取ったものの大きさに比べれば、きちんと語れたとは到底言えません。私個人は、それがどれだけ先のことで、どんな形であったとしても、この物語が完結する日を目の当たりに出来ることを強く願っていますが、それは願いであって主張ではありません。
 今はただ、アイドルマスターと向き合って苦しんでいる全ての人に、今苦しんではいない全ての人に、そして何よりも純粋に、この素晴らしく面白い作品との出会いをまだ経験していないすべての人に、ぽきーるP作『ぼくらのアイドルマスター Live for you!』と、(もう一度)出会ってほしいと思っています。

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