”春香論ノベマス” が生まれるまで


袋詰めキャット 最近作った動画の件

私が「春香派」なるものについて与太話をしようと思えばネタはいくらでも転がっていますが、このブログのあるかなき品位をこれ以上落とさないために、初めから与太話だとわかっている与太話ばかり書くのはやめましょう。与太話ではないつもりで書いて結局書き上がったものは与太話だね、となるのは、まあ、仕方がない。

そんなわけで(どんなわけだ)、冒頭に挙げた藤田るいふ氏の記事では、推空Pの動画が紹介されて、

「春香論、春香像については、推空Pが先日動画で出してらっしゃいましたね。」

と書かれています。
これはなかなか興味深いことです。何が興味深いのかと言えば、「春香論、春香像について」、ノベマス動画という形で表現される、という現象が興味深い。
何故興味深いのか、を説明しようとすると結局、春香派とは何ぞや、という与太話になるのでアレですが。ひとつだけ言えば、藤田氏の記事で表現されるような「面倒くさい春香派」のイメージを形作ってきたのはどこのどういう人たちだったか、ということ。

今でこそ、こと誰々が好きなPのクラスタ、という時には、PVか、ノベマスか、アニマスMADか、などという区切りはないも同然ですが、かつてはそうでなかったわけで。で、そもそも春香派とか春香Pという概念はいつ生まれたのか、というよくわからないことも置いておいて、とりあえずそういう人たちはどこにいたのか。
ニコマスの本流であるところのPV界隈には、典型的な春香派と目される人がいろいろいた、これは明らかです。
では他はどうかというと、たとえば架空戦記で活動していたPの中にも、後々まで春香派として記憶される人が何人か(いちじょーPとかうぃずPとか)いますし、あるいは春香派として認知されるかどうかはともかくとして、春香メインの動画を作り続けて記憶に残る仕事をしたPは少なくありません。

さて、それでは、ノベマス出身のPではどうでしょうか。皆様、08〜09年頃の "春香派のノベマスP” と言われて、思い浮かぶ名前が何人いるでしょうか?
私は、ノベマスという界隈においては、ある時期まで「春香派/春香P」というものの存在感は、著しく小さかったと認識しているのです。
(もう少し言えば、ことノベマスというフィールドで春香を描く、という事柄においては、春香Pがなした仕事よりも春香派以外のPがなした仕事の方がずっと大きい、というのが私が従来から持っていた評価です。それは2011年に天才カゴシマPとかーれるPがした仕事を見届けるまで変わることがなかったのですが、それはともかく。)
けれども、今はそうではありません。当今、ノベマスを書いている春香好きのP、と言われれば、知っている人ならばたちどころに十指に余る名前を挙げることができるでしょう。
何故、いつからそのような状況が生まれたのでしょうねえ、ということが、興味の一点目。

もう一点は、そもそもは”ノベルゲームの模倣” であり、”捏造コミュ” であり、少し後には "立ち絵で表現されるコント" だったノベマスで、何故、いつからそんな内容が表現されるようになったのか、ということ。

この記事は、その理由を解き明かす……わけでは全くなく、ただその変遷を線で辿っていく……のも面倒なので、単に点をいくつか拾っているだけのものです。なんだそりゃ。





1 「閣下」「演じる」「複数人格」


ニコマス最古のストーリー作品と言えば哀川翔P『春香たちの夜』シリーズであり、その主人公は春香です。そしてこの作品のホラー/ミステリーとしての成立は、ニコマスにおける春香の特性と深く関わっています。
すなわち、"結末を開けるまで、作者が春香を「黒」いつもりで描いたか「白」いつもりで描いたかは確定しない"、"土壇場で性格が豹変する展開になっても春香ならば不自然ではないし、視聴者は常にその疑念を消せない" ということが、この作品において視聴者をリーディング/ミスリーディングするための基盤になっているわけです。
そういう意味では、ノベマスにおいて春香とは、それが生まれた瞬間から、一点に焦点の定まった人格というよりも、そういう可変性、多面性を備えた概念であった、と言い得るかもしれません。


陽一P ノベルゲーム風アイドルマスター 「天海春香の憂鬱」 07年09月16日


ただ、ここでの話の直接の起点は、こちらの動画に求めるべきでしょう。本作は、哀川翔Pに次ぐ最古参級のノベマスPである陽一P(海月Pの解釈によれば、最初のノベマスP)の最初のストーリー作品であり、この動画の主人公もまた春香です。
本作の中核的なアイディアは、「春香」が、アイドル活動のための必要性から、本来の人格とは異なる「閣下」を演じる、というものです。このアイディア自体はもっと古く起源を遡るものですが、そういうアイディアが、NovelsM@sterというジャンルの出発点の位置に存在する、ということ。
ここには、”2次創作における春香の描かれ方・扱われ方” についての見解を、作品中の春香の人格に投影し、春香というキャラクターを”演技するもの”"仮面を被るもの"”分裂するもの””多重人格””同時に複数存在するもの” と見なしていく思考の流れがあります。
そういえば、前にも藤田氏の記事がきっかけで、”「閣下」を演じる「春香」” の系譜を辿る記事を書こうとしたことがあったのを今思い出しましたが、面倒なので結局やっていません。ともあれ、ここで示されているアイディアは、以後多数の動画で、繰り返し変奏されていくことになります。


2 「ループする世界」「パラレルワールド」「メタ視点の導入」


エグザスP 「春香の願い、小鳥の願い」 前篇:「決して『彼女』を放すな」  08年06月12日


無印春香ドーム成功EDをめぐる作品もまた、古く起源を辿ることができますが、ここではノベマスというサブジャンルの範囲で、認知度の高かったものを挙げましょう。
アイマスにおいて春香のみが特殊なEDを持つ特殊なキャラクターである、という認識は、”ハッピーエンドを持たない存在としての春香””結ばれることのない相手を待ち続ける存在としての春香” という発想を生み、それは”ループする仮想世界の中に永遠に居続ける春香” というアイディアを生み出します。
そしてそれは更に、春香に”仮想世界のシステムを認識・把握する””上位世界の存在を感知する” というメタ的な能力を与える発想に繫がり、仮想世界内の一般的なルールを超越する記憶や能力を保持したり、複数の世界を知覚したり渡り歩いたりする存在として春香が描かれる世界を生んでいきます。ぽきーるP、愛識P、でんまるP、無免許P等々、上位/下位世界、並行世界、時間移動等を扱う作品を書いた作者の中に、春香に特殊な機能を与えた人は少なくありません。
EDをめぐる、最初に述べたタイプの物語は、その後も繰り返し描かれていきますが、それはそのまま、その物語が直接的な需要を失っていく過程でもあります。一方で、ここを淵源として生まれたもろもろのもの自体はニコマスに深く根を下ろし、春香をめぐるあらゆる側面において、影響を及ぼし続けています。


3 「分裂」「増殖」「同時多数存在」


上記のようにして、春香が複数の人格を持ったり複数の世界にわたって存在することが当たり前となると、”複数の世界や人格の象徴や相克として、複数の春香を用いる” のではなく、単に "同じ姿形、同じ名前のキャラクターが同時に大量に存在すること自体をネタとして楽しむ” 発想が生まれてきます。
この”同時に大量に存在する春香” というネタは、見た目にもわかりやすいので簡単に多くの例を拾うことができ、またどの動画を見てもだいたいノリが同じだというところがありますが、いくつかのパターンに分けることができるでしょう。


3−1 とにかく大量生産

放置P 【iM@s人狼】わた春香さんの村【天海春香誕生祭】 08年04月01日


瑞P 春香だけでTRPGしてみた 10年03月31日


ひとつは、単純に外見上まったく区別ができないキャラクターだけで構成された世界、というネタ。上に挙げた放置Pと瑞Pが代表的です。


3ー2 性格別、名称別大集合

くるわP そのままの君が、いちばんだよ 10年03月31日


ふたつめが、いろんなキャラクター性の春香が一度に集合する、というネタ。セクシーなの、キュートなの、どっちが好きなの? の世界ですね。くるわPの本作は、天使の春香と悪魔の春香が競っていろんな春香をオススメしてくる、というもので、この代表例。
このパターンの場合、短編であれば、やっぱり普通が一番だね、あるいは、みんな違ってみんないい、というところがオチになるでしょうし、シリーズであれば、いろんな春香さんがマッチアップして巻き起こるドタバタ劇、ということになるでしょう。


3ー3 作品別大集合

ほうとうの具P 【アイマス架空-taleパーティL4U!】春香たちの風景 前編【NovelsM@ster支援】 08年11月03日 後編 08年11月22日


ザッP 第2次スーパー架空春香さん大戦 ~春香さんが増えすぎた~ 10年05月01日


早坂P 【卓M@s支援】春香さんが多すぎる【第二次ウソm@s】 10年04月01日


3つめとして、 ”ニコマス作品の春香が一つの動画に集合しちゃった” というネタ。
このパターンの場合も、”いろんな春香さんが集合してにぎやかである” という以上の内容にはならないことが多いでしょう。ただ、例外的に最初のほうとうの具Pの動画においては、10作を超える作品の春香の特徴を描き分けた上で、それらを用いて一篇のストーリーを編む、という曲芸じみた仕事がなされています。
おそらく、ノベマスというサブジャンルにおいてこのような作品は、今後2度と現れることはないでしょう。それは、単に高い観察力とシナリオ構築力を必要とするだろうから、というだけではなく、この動画が成立するために必要だった基盤が、現在では存在しないからです。
すなわち、動画で取り上げた作品群がそのままその時の界隈の縮図になる=取り上げられた作品の多くを見ていて、その個性の違いを楽しむことのできる多数の視聴者がいる、ということ、そして、各作品から春香をピックアップすることが、そのまま各作品の特徴をピックアップすることになる、という前提。
今日においても、たとえばておくれPと弓削PとハリアーPと介党鱈Pの春香を一時に集合させる、というネタならば反応する視聴者は多いかもしれませんが、しかしそこに、それらの作品からあえて春香をピックアップしなければならない必然性はないでしょう。
そういう意味では、3番目に挙げた早坂Pの、卓m@sの春香を集合させた動画が、卓m@sというサブジャンルの急速な拡大期に出現しているのも、偶然ではないと思います。


4 ノベマス上における思考実験


ここまで挙げてきた動画の発想はいずれも、春香という存在をどう捉えるか、というキャラクターに内発的なものでありました。そもそもNovelsM@sterというサブジャンルの端緒は、そのように「キャラクター」あるいは「ストーリー」(原作をどこに求めるか、を問わず)に内発するものであったと言えるでしょう。
しかし、次第に、動画において、より抽象的な概念や思考実験、遊びを、アイドルを用いて表現しようとする動きも起こってきます。これは別段春香に固有の現象ではありません。しかし、何を表わすのにどのアイドルがふさわしいか、という選択において、やはりそのアイドルの特性が表れていくことになるでしょう。

ya-P ハルカロイド 08年04月19日~08年04月24日 投稿者削除

SFとのコラボ作品の創始者であるya-Pの本作は、筒井康隆作品という直接的な原作を持つ通常のストーリー作品、という意味では、従来から何らかの原作とコラボしてきたノベマス・架空戦記と、本質的に異なるわけではありません。けれども、アイマスに筒井康隆、春香にアンドロイド、という特段接点があると思われていなかったものを結びつけて、従来ノベマスの表現範囲だと発想されていなかったものを扱ったという点で、後のそうした流れを拓く作品のひとつ、と言えるでしょう。
(※ ya-Pの作品のうち、処女作の本作『ハルカロイド』、次作で星新一作品が原作の『おしゃれな家』、及びオリジナルの『アイマスショートショートの広場』シリーズは既に削除されていますが、「GBM」「バレm@s」「 im@sShortFestival」「 i-Fest@!」の各企画参加作品は、現在も視聴可能です。)


コラーゲンP 【NovelsM@ster】 あるホテルのある廊下をある春香が歩く 09年03月28日


上で言ったような動きは、ノベマスの中では、09年以降に顕在化してくるように思えます。コラーゲンPのこの作品は、春香を用いたものとして、最初期の例の一つです。
本作では、「ホテル」という場所が、無限という概念を表現するのに用いられ、更にその ”無数の部屋を持つホテル” という存在が、ニコニコ動画あるいはニコマスに見立てられていることが察せられます。ここで、春香というキャラクターの特質自体は、そうした動画の内容と、少なくとも直接的には関わりがないように思えます。そのような内容が、アイドルを用いて表わされるようになった、ということ。

以下、きちんと作品を洗い出すのは手に余るので、思い浮かんだいくつかの特徴的な作品例(完成度において他の作例より優越する、という意味ではなく)を挙げておきます。


ハヤブサP 迷宮少女 10年06月20日


ネタとしては、それを言ってしまったら身も蓋もないよね、というものですが、本動画の場合は、春香の姿形をしている、ということに、アイドルと直接的に結びつくテーマ性が見出だされているという点で、本日の記事の目的地に近い位置にある動画です。


ひゅんP 天海春香と宇宙図書館 10年07月09日


不思議な世界に迷い込んで、宇宙意志的な何かと会話する春香。シチュエーション的には普通のアイマスとかけ離れたところにあるけれど、春香自体は普通のキャラクターとして扱われ、ストーリー内容はアイドルの持つキャラクター性やテーマ性と結びついているもの。


かもっぱちP 【NovelsM@ster】夢の世界 2話「美希と春香」 11年08月09日


”美希から見た春香像”、あるいは”美希の中にある深層心理” が、春香の姿形をとって美希の前に現れる、という発想。


ヘンリーP 【NovelsM@ster】幾つもの顔を持つ少女のはなし【不思議の夢の伊織⑥】 12年02月04日


ヘンリーPの『不思議の夢の伊織』は、一話ごとに、夢の世界に迷いこんだ伊織に対して、数学、論理等の問題が、一人のアイドルを通して表現され、問われる、というコンセプトのシリーズ。本回で春香を通して表現されるものは、いわゆる「観測問題」。
本動画に見られるような、こういうテーマをアイドルで表現するならば春香がふさわしかろう、という結びつきは、ここまで述べてきたような春香の扱い方、春香観の蓄積が醸成したものである、ということが言えるでしょう。また、演出やストーリー構成の練り上げられ方など、ノベマスで、こういう思考実験をアイドルと結びついた形で表現する、という行為の、現時点での完成形のひとつと評価できる作品だと思います。


5 ノベマスで春香を語る


七重P 天海春香という概念【NovelsM@ster】 12年04月12日


ひゅんP 天海春香の復活 12年06月20日


推空P 【NovelsM@ster】星の数ほどの春香【春香崩壊注意】 12年08月21日


そういうわけで、12年に至って、これまでならPVの中で表現され、あるいは文章での論考として表わされてきたような「春香論、春香像」を、ノベマスによって表現する、という動画が出てきました。その例として、12年4月の七重Pの動画、12年6月のひゅんPの動画、12年8月の推空Pの動画が挙げられ、これはここ数ヶ月に際立って起こった現象と言えましょう。

だから何だというと、うん、面白いですね、と。ただ、それはやはり突発的な事象ではなくて、いろいろな流れが背景としてあって、12年になってそういうノベマスが出てくることになったんでしょうね、と。この調子でいろんな人がわかりやすく春香観を動画として出力していったら、またそこからいろんな思考のさざなみが生まれていって面白いでしょうね、と。


カイザーP 【アイマス×ダンセイニ】白春香と黒春香 09年04月21日


その一方で、たとえばこのカイザーPの動画は、原作をそのまま春香に流し込んだだけのもので、何か春香について深刻に悩んだ結果これが生まれたとか、そういう味わい所は別にない動画だと思います。が、内容的には別に昨今の動画と大した違いはないようにも感じます。
まあそうやって、先人の足跡の上をぐるぐると何度も回りながら少しずつ新しい道ができていく行程も楽しいんじゃないかな、と。テキスト動画根性論というようなけったいなことを唱えている私としては、そのくらいのあまり気合いの入ってない距離感で昨今の春香ノベマスに接しているので、この記事も実に、気の抜けたサイダーのような調子になってしまいましたね。


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