王の孤独


袋詰めキャット 「一番好きなアイドルは春香さん」であることは間違いない。


藤田るいふ氏の上記記事を読んでいて、いろいろと自分のトラウマが刺激されるネタが扱われていたので、乗っかって何か書こうかと思いましたが、面倒になりました。ネタを絞って書きたいと思います。

嘘予告P アイドルマスターアニメ第1~12話閣下登場まとめ&各話あらすじ (11/9/25)



書き始めて、上記の嘘予告Pの動画のネタバレになっていることに気づいたので、ここから格納します。


既にだいぶ流れていますが、この動画の6分前付近から、コメントで、こういう設定の動画は以前もあったよね、という話題がでていました。
具体的には、『覇道』みたいな話だ→いや、『覇道』以前からこういう話はあったよ→「閣下三国志」もこんな話だったっけ、というような流れだったと思います。
個人的な見解としては、『覇道』と同じ、というところと『覇道』以前からあった、というところは全面的に同意ですが、それと同じ流れで「閣下三国志」=呂凱Pの『閣下で三国統一』シリーズを位置づけるのは、ちょっとしっくりこないところがあります。

今言った、こういう話、とは、つまり、普通の少女である「春香」がメディア上で「閣下」と呼ばれる虚構の人格を演じる、というテーマを扱ったストーリーのことです。確かにそのようなストーリーは、おまんP・わかむらPの『覇道』が出現する以前にも以後にも、いくつもの例があります。
そして、『閣下で三国統一』の閣下は、元々「春香ちゃん」と呼ばれる市井の一少女であったものが、きっかけとなる出来事があって天海軍を率いる「閣下」となった、という過去を持っています。なるほど、確かにその筋立ては、 "メディアの前で「閣下」を演じる「春香」" のストーリーと似通っています。

けれども、両者の間には、一つの違いがあります。
嘘予告Pの作品にしろ、『覇道』にしろ、あるいはその他私が念頭に置いている作品を含め、これら「『閣下』を演じる『春香』」ものには、共通したルールがあります。
すなわち、素のままの「春香」ではアイドルとして売り出すことができない→アイドルになるためには、春香の本意にそぐわない「閣下」を演じさせなければならない、という問題設定。
従って、そこには共通した落とし所を見出せることにもなります。つまり、売れるかどうか、どう見られるか、どう扱われるかを気にしさえしなければ、いつでも「閣下を演じる」行為はやめて構わないわけです。ひいては、やりたくない「閣下」を無理に演じなくていいんだよ、素のままの君でいいんだよ、素のままの君でも見てくれる人はいるよ、という結末が、最終的な解になりうる。

『閣下で三国統一』の閣下に、そのような落とし所はありません。
なぜなら、彼女が「閣下」で在ることは、「春香」や「プロデューサー」という個人の願望を叶えるための一選択肢ではないからです。その決断は、天海軍という一つの集団を、国を、民衆を、彼女に夢を託した全ての人間の希望を、その身に背負う行為なのです。そして、それこそが、彼女が『閣下で三国統一』という物語の主役たる所以です。
彼女が「閣下」であることをやめるということは、『閣下で三国統一』という物語世界が成り立たなくなることと同義です。どんなに彼女と親しかろうと、どれだけ能力が高かろうと、彼女以外のキャラクターには、彼女の立場を肩代わりすることも、その重みを分かち合うこともできません。
『閣下で三国統一』の閣下とは、そういう、極めて孤独な存在です。

そう考えてくると、『閣下で三国統一』の閣下が背負っているものは、『閣下で三国統一』という物語固有の、あるいは春香または閣下という特定のキャラクターに固有のものではなく、「架空戦記」と呼ばれる作品群の、主役たち全てが背負っていものであることにも気づきます。
いつでも薄目で家臣を見守っている『閣下で三国統一』の閣下も、「播磨のゆとり」と呼ばれながら寝て暮らしている『美希の天下創世』の美希も、底抜けに陽気なノリで動く世界に生きる『その時貧乳が動いた』の千早ですら、(って、これは私の好きな三国・戦国系架空戦記を並べただけですが)、全く同じように孤独な存在なのです。それは、彼女たちが「君主」という、何人たりとも代わることのできない立場を、その身に背負っているからです。
架空戦記の世界ではこのように、あえて特別な設定を味付けするまでもなく、アイドルはただ物語の主役で在り続けるだけで、物語の主役が背負う重みそのものと対峙しているのです。私はこれを、架空戦記というニコマスのサブジャンルが持つ、最大の魅力の一つだと思っています。

ところで、今挙げた3つの作品、『閣下で三国統一』『美希の天下創世』『その時貧乳が動いた』では、それぞれ呂凱、別所就治、吾粲という、それぞれの主君に最初に仕えたゲーム武将の名前が、作者名の由来となっています。私にはこのことが、偶然の一致とは思われません。
なぜならば、彼らこそが、彼らのアイドルを最初に見出した存在であり、彼らの前で初めて、彼女たちはただの十代の少女から、君主と呼ばれる存在へと成ったからです。
その出会いを共有すればこそ、彼らは物語世界を象徴し、作者の分身とも呼べるキャラクターと成り、そして物語が成熟すればするほどに、彼らと彼らの主君との、時としてとてもシンプルで他愛のない会話が、見ている者の胸を打つものとなったのだ、と私は思います。

『閣下で三国統一』のリメイクされた2話、閣下と呂凱の出会いのシーンには、そうしたim@s架空戦記の君主と家臣の関係が、凝縮されています。
すべて物事の始まりは、ただそれが早く起こったから始まりなのではなく、そこに始まりたる所以があるもの、なのでしょう。

兵士「お~、みんな~
   春香ちゃんが来たぞ~」
呂凱「・・・あの、天海殿
   ひとつ、よろしいですか?」
呂凱「兵士に気安く呼ばれるのは
   かなり問題があると思うのですが」
春香「じゃあ、どうやって呼ばれたらいいの?」

(中略)

春香「よし、決めた
   これより、私のことは「閣下」と呼ぶこと
   みんな、いいわね?」
兵士「おお、なんだか知らないが強そうな呼び方だ!
   閣下! 閣下! 閣下!」
閣下「ありがと、呂凱
   お陰でなんだか吹っ切れたわ」


余談。吾粲Pの『その時貧乳が動いた』には、閣下が出演していますが、途中から春香も出てきます。そして、唐突に、閣下は春香に憑衣した何物かである、というエピソードが語られます。
解説編で吾粲Pはそのエピソードについて、それ以上の設定はまったく考えてなかった! とあけっぴろげに告白して、お前閣下ブームが廃れたから春香を出してみただけで、何にも考えてなかっただろ! とコメントから突っ込まれたりしています。吾粲Pという作者は、そういう人です。

で、結果的にこの作品の閣下は、春香というキャラクターには何の出典も持たない別個の存在、という位置づけになったのですが、この閣下がまた、可愛いんですよねえ、実に。
彼女は、この物語の悪役の中核として、陰の部分を引き受けることに徹していました。あくまで主君たるあずささんを、巨乳軍の君主として立てながら。そしてそういう事情により、別段なんのフォローをされることもなく、敗北し、春香に体を譲り渡して物語から退場していく。今思うと、『銀河英雄伝説』のオーベルシュタインみたいな役ですね、『その時貧乳が動いた』の閣下。
今の説明で、どこが可愛いのかわからない人もいるかもしれませんが、書いた通りの部分が可愛いのです。ほら、実に可愛いじゃないですか、この閣下。

最後に貧乳軍に触れたら、何の話だかよくわからなくなったので、ちょうどこの前話題に出したC・S・ルイスの『ナルニア国物語』から一節を引用して、誤摩化すこの記事を締めることにします。


「けれど父ぎみ、どちらかおすきなほうをつぎの代の王にすることはできないのですか?」
「それはならぬ。王は法のもとにあるのじゃ。王は法によって存在するのじゃ。番兵が持ち場をはなれ られぬごとく、そなたも王位からのがれる力はもたぬ。」

「そして国内に飢きんがあれば(つまらぬことがつづく年にはよくあることじゃが)、国民のだれより も貧しい食べ物を食べながらも、だれよりもりっぱな衣服を着てだれよりも大声で笑ってみせる、こ れが王というものじゃ。」

(C・S・ルイス『ナルニア国物語』より「馬と少年」 瀬田貞二訳)



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No title

上掲頂いたうちの記事は、確かこちら(ttp://sugoroku8383.blog101.fc2.com/blog-entry-175.html)辺りの記事をぼんやり思い出しながら書いていたと思うので、トラウマと面倒臭さに触れてしまったのかも知れません。申し訳ないことです。
三戦最盛期はリアルタイムで動画を見ていなかったので何ともなのですが、「背負う」ことを人々に期待され、実際背負ってみせるというのは、君主アイドルに共通しているような体感がありますね。とりあえず可愛い閣下も見たいので、今度の土日にでも『その時貧乳が動いた』ぶっ通しで視聴して参ります。

Re: No title

いらっしゃいませ! 
わざわざコメントにお越しいただきまして、恐縮です。

トラウマ云々につきましては、少々こちらの言葉が足りませんで、失礼いたしました。
私としては、春香さんについて、このような自分の琴線にストレートに触れるテーマに鋭く切り込まれた文章を読めるのは、大変に嬉しいことで、むしろ藤田るいふさんの記事を拝見できたことを、とても喜んでおります。
記事中にも書きました通り、刺激されて自分でもいろいろ考えるところがありましたので、機会があればまた言及させていただくことになろうかと思います。

三戦系の架空戦記は、私も最盛期にリアルタイムで接したわけでなく、まだまだ視聴した量も少ないのですが、君主アイドルについては同じ印象を持っております。
『その時貧乳が動いた』の閣下についてですが、彼女が可愛いというのは、作中に描かれていない彼女の日常生活、思い、背景などを脳内で捏造しながら見るととても可愛く見える、という私の個人的な思い入れでありまして、一般的には、(特に物語中盤までは)憎まれ役的存在であることを断らせていただきます。
ただ、この作品の閣下像をどう捉えるかはともあれ、『その時貧乳が動いた』が、ぶっ通しで視聴されるだけの価値のある作品であることは、自信を以て保証させていただきます。
コメントをいただいて、思わず自分でも久方ぶりに見直してしまいましたが、隅から隅まで読者を楽しませるエンターテインメントに徹しているという点において、今もってこの作品に匹敵するものはなかなかないかと思われます。
生活に支障を来さない範囲で(笑)視聴いただければ、この作品の一ファンとしても喜びであります。
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Author:Vinegar56%

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