ちがう、話


浅葱P 【アイドルマスター】おなじ話【春香】



結論から言えば、これからするのは、作品が何を表しているかなんて、自分が感じた通り、信じた通りのことを信じれば、それでいいよね、というだけの話。
そこで、わざわざこの動画を引き合いに出すからには、この動画の解釈をめぐって何か著しい解釈の対立や、偏った一つの見方の支配があるのかというと、別段そんなことはありません。なので、この文章に何か意義があるかと言えば特にないわけです。



(男) どこにいるの?
(女) 窓のそばにいるよ
(男) 何をしてるの?
(女) 何もしてないよ
(男) そばにおいでよ
(女) 今行くから待って
(男) 話をしよう
(女) いいよ、まず君から

(男) どこにいるの?
(女) 君のそばにいるよ
(男) 何をみてるの?
(女) 君のこと見てるよ
(男) どこへ行くの?
(女) どこへもいかないよ
「・・・・・・」
(女) ずっとそばにいるよ

(男・女) それから
(男) 僕も君を見つめ
(男・女) それから
(女) いつもおなじ話

(男) どこにいるの?
(女) となりの部屋にいるの
(男) 何をしてるの?
(女) 手紙を書いてるの
(男) そばにおいでよ
(女) でももう行かなくちゃ
(男) 話をしよう
「・・・・・・」

(男・女) それから
(男) 君は僕を見つめ
(男・女) それから 
(女) 泣きながらわらった

第一に、動画はひとまず置いておいて、この歌そのものが、何を歌っている歌なのか、という話。

一聴してわかる通り、この歌は、基本的に男の問いかけに女が答えるという会話の形になっていて、「それから」からのサビの部分だけが、会話文ではない叙述である。
そして、歌詞の中に具体的なシチュエーション、出来事、関係を明示するものはほとんどないので、元々どのような物語をも代入し得る作りになっている歌ではある。

ただ、歌詞に沿って読むならば、ここには男女の別れが、それも女の死による別離が暗示されている、ということが言える。
3番の歌詞で、女は、男の「そばにおいでよ」「話をしよう」という呼びかけに答えず、「もう行かなくちゃ」と言う。「行かなくちゃ」という表現は、それが女自身の意思によって左右し難い不可抗力で起こる、と読み取り得る。そしてその前段には、「手紙を書いてる」という記述がある。
もうどこかへ行かなければならないので、話す事もそばに来る事も出来ない。その前に手紙を書き残す。
この歌全体が、やりとりしている男女2人の関係のみにフォーカスした内容であることも考えあわせるならば、手紙の宛先は男と考えるのが自然で、それは遺書に近い意味合いを持つものであることがわかる。

と、ここまで書いて、元の歌を調べて知ったのだけれども、実はこの歌にはもう一節歌詞があって、動画ではそれが省略されている。その末尾の歌詞まで見ると、歌のストーリーがよりはっきり見えるけれど、動画を受容する上でそれが必要とも思わないので、ここには書かない。

とまれ、省略されている歌詞も念頭に置きつつ、もう少し言うと、死別という前提を置いたとして、歌のどの時点で女が死んでいるか、つまり男から見えない存在になっているか自体、どうとも受け取り得るのだ。最初から男には女が見えていない、女の言葉が聞こえていないと考えた方が、「いつもおなじ話」という台詞の意味は取りやすい。
まあ、そこをどう解釈するにしろ、結末において永続的で不可抗力的な別れが暗示されていることは確かである。


動画の話を、少しする。

男女の問答という歌のスタイルに合わせて、歌い手の交代ごとにカットが切り替わっているわけだが、特徴的なのは、多種の素材が場面によって使い分けられていることである。
すなわち、登場キャラクターである春香については、ダンス素材・コミュ素材・静止画の立ち絵の3種。
背景については、実写の室内風景・実写の野外風景・アイマス背景素材・アイマスダンスステージの4種。
これらの組み合わせに加えて、画面が彩色されているかモノクロか、画面中に春香がいるかいないか、カメラの移動があるかないか、の3つの要素の使い分けによって、場面ごとに異なった状態が表現されているのである。

具体的に書き出そう。

・イントロ
実写の室内風景⇒ダンスシーン(モノクロ)のオーバーラップ⇒実写の室内風景

・歌詞1番
男声パート:実写の野外風景(カメラ移動あり・春香不在)
女声パート:ダンスシーン

・歌詞2番
男声パート:アイマス背景(カメラ移動あり・春香不在・モノクロ)
女声パート:アイマス背景+コミュ素材の春香(カメラ移動なし)

・2番サビ
「それから」:ダンスシーン
「僕も君を見つめ」:実写の室内風景(カメラ移動なし・春香不在)
「それから」:ダンスシーン
「いつもおなじ話」:ダンスシーン

・間奏
暗転⇒実写の室内風景+静止画立ち絵(ブレザー、全体にぼやけさせる加工)

・歌詞3番
男声パート:実写の室内風景(カメラ移動あり・春香不在、「話をしよう」のみカメラ移動なし・モノクロ)
女声パート:実写の室内風景(カメラ移動なし)+静止画立ち絵(パジャマ)
「・・・・・・」:暗転

・3番サビ
「それから」:ダンスシーン
「君も僕を見つめ」:ダンスシーンの静止画
「それから」;ダンスシーン
「泣きながらわらった」:ダンスシーン

全体の流れを概観すれば、最初は男声パートと女声パートの間で、アイマス成分ゼロの実写風景 対 アイドルのダンスシーン、という、性質的に非常に遠い映像が対置されている。それが、後半に向かうにつれ、より近似性の高い映像へと移行していく。しかしながら、両者の映像内容が完全に一致することはなく、最後はダンスシーンに回帰する。
また、特に男声パートに注目してみると、男声単独で歌っている部分で春香の姿が映されることはなく、また男声パートのみにカメラの移動がある(視点人物が女の姿を探しまわっている表現と取り得る)。
こうした表現からは、作者が、前段で推定したような歌の内容を十二分に踏まえた上で映像を構築していることを読み取れる。そして、ステージシーンが表すものを、ステージ=視点人物の手が届かない場所と置けば、歌の内容そのままの物語を動画から読み取れる作りになっている。
そうした意味では、この動画は、歌に忠実に寄り添ってた動画、と呼び得るものである。


次に、私自身の視界と感傷を籠めて、この動画から物語を読んでみる。


イントロ部。短く静謐でありながら、印象的な導入である。
映される映像は、暗い室内の端に誰もいない机と椅子、という、孤独さを感じさせるもの。
そこに、「おなじ話」のタイトル表示。
そしてここにステージシーンが重なってくる。この絵も特徴的で、動画中唯一、ステージシーン全体がモノクロになっている箇所である。後の表現も考え合わせると、モノクロは視点人物の視界を表しているように思え、特にこの場合、過去の追憶を表しているように思えるが、結論は急がない。


一番。
歌詞の表示が特徴的。映像表示部分の枠の外で、男声パートは左下に、女声パートは右上に、と区別して表示されている。このような、台詞の主体、または内容の性質の違いを文字の表示位置の違いで示す手法は、ノベマスでもPVでもしばしば観察できるものである。
女声パートのステージシーン。春香の身体の一部分をクローズアップする構図が多用されているのが、1番のステージシーンの特徴。

最初の「窓のそばにいるよ」では、春香の立ち位置は画面右端に大きく偏っていて、春香が顔を上げると右肩と口元しか見えない。そのちょうど真上にある字幕は、春香の口からそのまま浮かび上がってきたものであるかのように感じられる。
「何もしてないよ」では、春香がいるのは左端。横を向いた春香の腕と腰しか映ってない状態から、次第にカメラがパンして春香の体を映す。
「今行くから待って」では、スカートから下だけがクローズアップされ、歌詞に合わせるかのようにステップを踏む。
そして、1番のラストである「いいよまず君から」で、初めて春香の顔が正面アップで捉えられ、春香は腕を差し伸ばす。

繰り返しの言及になるが、3番でなされたように、歌詞に合わせた実写+静止画立ち絵の映像を置くことも可能であるのに、この冒頭部の女声パートにステージシーンを持ってきたことは、この動画の鍵の一つであろう。


2番。
全体を見渡してステージと実写素材で構築された1番・3番と対比した時、全く異なる素材で構築された2番の映像は、ある種異質とも言える。そして、それこそが、単色の物語で塗りつぶせないこの動画の深みを形成する、一つの大きな要因だと考える。

男声パートと女声パートで全く異なる映像へと切り換えられていた1番と違い、2番においては、男声の呼びかけと、それに呼応した女声の台詞で、共通の背景素材が用いられている。両者の違いは、上で書いた、カメラ移動の有無(男:あり、女:なし)、色彩の有無(男:モノクロ、女:カラー)、春香の存在(男:いない、女:いる)で表現されている。

面白いのは、この動画は全編、春香の画像は2素材のみで構成されているにも関わらず、ここで用いられている背景は、無印の背景素材であること。わざわざ無印の背景を持って来た上に、2の冬服春香さん(おそらくアニメ予告PVのもの)が重ねあわされているのだ。
勿論、この組み合わせが生まれた背景には、素材の入手しやすさ(無印背景は背景集としてまとまった素材が、アニメ予告PVの春香はBB素材化されたものがそれぞれ存在する)があるだろうが、この演出、この歌を重ねあわせてみた時、私にはただそれだけが理由とは思えない。

「どこにいるの?」で表示されるのは、LV1事務所の室内。例の、初回プレイ時一番最初の選択肢が表示される部屋だ。
「何をしてるの?」は、公園。「ある日の風景」でしばしば舞台になる、支柱のない危ない滑り台が描かれた公園だ。
「どこへ行くの?」は、広場。春香Aランクアップコミュ、そしてラストステージ前の会話という、ストーリー上の最大の要所とも言えるシーンの舞台。
無印アイマスの、春香のストーリーをなぞるように移り変わる背景。それら全てが、動き回るカメラと、春香のいない風景と、モノクロの視界とで表される。この視点人物は無印の世界を見つめ続けていて、しかしその中に春香を見出すことができない。

そのすべてに、2の春香が現れて言う。「君のそばにいるよ」「君のこと見てるよ」「どこへも行かないよ」と。そして微笑む。春香のいる場所には、色がある。
けれども、会話を重ねても、男の側の世界に春香が現れることはなく、視界は灰色のままだ。

モノクロの表現、色を喪った世界の表現は、春香動画において、様々な意図を籠めて用いられてきた。
私が最もこの動画のそれに近いと想起したのは、FRISKP『アイドルマスター 君に』におけるそれだ。この灰色は、届かせようとしても届かないもの、見つめようとしても見えないものを見ている人間の視界である。
具体的解釈はどうあれ、重要なのはここに、誰が、何を、どのように見つめているか、という視点に対する意識が明確に存在することだ。

最後に映されるのは、夜の橋上、無印アイマスのエンディングの舞台である。
暗色の世界に、「・・・・・・」の文字。探し求めても見えず、囁きかけられても聴こえなければ、誰もいない灰色の終着点を前にして立ち尽くすしかないだろう。
だけど、その同じ場所にも17歳の春香が居て、「ずっとそばにいるよ」と微笑んでいる。誰かの言葉を借りるならば、この春香は「お帰りなさい」を言う春香だ。ここには、聴こえても聴こえなくても、いつでも「ここにいるよ」と言ってくれる春香がいるのだ。


2番サビ。
「それから」で、対称になった2人の春香(左側はモノクロ、右側は色あり、どちらも体から背景が透けている)手を回し、
「僕も君を見つめ」で、映像は実写で色のある室内風景に回帰する(但しここでも、男声パートでは春香の姿が映されない原則は遵守されている)。
2度目の「それから」では、2人の春香の足のアップ。今度は左が色あり、右がモノクロ。
女声のみの「いつもおなじ話」では、色ありの春香のみのアップ。
男声・女声が重なる「それから」において初めて、モノクロと色ありの2人の春香が、同時に画面内に現れる。この2人の春香の存在は、1、2番を通して描かれた、視点人物の側の視界と春香の側のアクションの差異に、何らかの形で呼応していることが想像できる。


間奏部。
よくわからない。述べてきたように、私はこの動画において、視点人物の視界を表す絵と春香のアクションを示す絵の二つが、はっきり区分できると想定しているわけだが、この部分がそのどちらに属するか、よくわからないのである。

3番。
背景は実写の室内風景。ここでは(「話をしよう」を除いて)モノクロ・色ありの区分がなく、全体の中で、男声パートと女声パートの風景がもっとも近似する箇所である。

女声パートでは、風景の中にパジャマの春香の立ち絵が表示される。
このパジャマにもまた、複数の解釈があり得る。歌詞との対応を重視すれば、日中パジャマのままで「手紙」を書く、パジャマのままでどこかへ「行かなくちゃ」と発言するというのは、身体の異常を想起させるものであり、死の暗示を補強する効果がある。
一方、1番においては実写風景とステージという全く異なる位相にあった誰かと春香が、ここでは同じ家の中に居る。そこでパジャマという、プライベートな状態を示す服で春香が過ごしているシチュエーションは、距離の近しさ、関係の深化を示すものとも取れるであろう。特に、アイマスにおけるグッドスリープパジャマという衣装は、通常あり得ないアイドルの髪型の変化を伴うものであり、プライベート性を強く示す衣装であることもこれを補強する。

男声パートと女声パートの対比において、特徴的な点。ここでも2番同様、男声と女声が受け渡される間で背景が連続するが、その構成が2番とは逆になる。すなわち、

「どこにいるの?」:廊下
「となりの部屋にいるの」:カーテン前
「何をしてるの?」:カーテン前
「手紙を書いてるの」:机前
「そばにおいでよ」:机前
「でももう行かなくちゃ」:階段前

と、ここでは先に春香がいた場所に、その移動を追いかけるようにして視点人物の視界が訪れている。
しかし、視点人物が到着した時には、既に春香の姿はそこにない。最後の応答である「でももう行かなくちゃ」では、春香の姿は画面端にかすんで映っていて、その顔は既に見えない。そして「話をしなくちゃ」で階段前に到着した視界は再びモノクロとなっていて、その呼びかけに対する応えは、暗転した背景に「・・・・・・」の文字で示されるのみである。


3番サビ。

「それから」:モノクロの春香と色ありの春香が回転しながら交差する。「それから」の文字表示は、2番においては2つの文字が重なりあうように表示されていたが、ここではこちらを向いた文字と反転した文字が対称になるように表示される。

「君は僕を見つめ」:ここのみ、ダンス映像でありながら、連続した動作ではなく複数の静止画の切り替えによって演出されている。また、ここまでステージシーンの衣装は、全てブレザー制服で統一されていたが、ここではブレザーとパジャマの春香が交互に映され、全ての絵が、春香の顔を全面的に映し、歌詞の通りこちらを向いたものばかりである。
2度目の「それから」:左にモノクロの春香、右に色ありの春香。歌の進行につれ、モノクロの春香の姿が消え、色ありの春香のみが残る! 
ちょっと面白いこと。ここでは「それから」の文字表示は、左下に一つ、右上に一つという、男女の会話時の表示位置に準じたものとなっていて、モノクロの春香が消えるのに合わせてそのうち一つが消える。その消える文字が、右上の(女声パートを表示していた位置の)方だということ。

「泣きながらわらった」:ラストシーン。正面大写しになった色ありの春香が、大きく手を振り下ろしながら、わらう。

3番の映像を観察すると、やはりこの動画内においても、何らかの離別が示されていると考えるのが自然である。けれども、それは果たして、最初に述べた歌詞の内容とまったく同一のベクトルを指す物なのか? 
その解答が詰まっているのがこの3番サビであり、そこにはこの動画がこの動画である意味も詰まっている、と感じる。

動画で省略された歌の末尾まで聴けば、女が「泣きながらわらった」後には男の行為だけがあって、男にできるのは夢から覚めて「さよなら」を言うことだけである。
この動画はそうではない。ステージ上のモノクロの春香が何を表すか、結局私には明確な答えがないのだが、モノクロの春香が消えても、ステージ上には春香が残る。ラストに居るのは、「さよなら」の言葉ではなく、ステージの春香だ。

先に、ステージを手の届かない場所と考えれば、と述べた。しかしながら、言うまでもなく、ステージが表すものは、それだけではない。あらゆるものを表してきて、またそのいずれとも違っていたのがアイマスのステージである。
ここにある別れが一時のものであれ永遠のものであれ、その先に回帰するのはステージであり、ステージの中で春香は泣きながら笑っている。
2番において私は、これは、17歳の春香が「ここにいるよ」と言ってくれるものだ、と述べた。だが、このラストが表すものは、更にその先だと言えるのではないか。
言うなればこの動画は、17歳の春香の物語の先に、私達が16歳の春香の物語の先に見据えていたテーマを見出す動画なのだ。私は、そう思っている。


さて、長くなってしまったが、私がこうしてこの動画からこしらえた物語自体は、別に重要ではない。
なぜならば、ここで私が描いた物語は、この動画について記述する切り口を得るために、(もっと言うならば、感じた物の位置づけを自己の中で得るために)後から構築したものに過ぎず、動画を見て最初に感じた衝撃、最初に見えた景色そのものではないからだ。
重要なのは、その衝撃を、その景色をこの動画が私に与えた所以、この歌によってこの動画が作られ、動画のラストの言葉に歌のラストとは別の言葉が選ばれたことの意味である。

つまるところそれは、歌の世界を広げた、ということなのだと思う。
歌から言葉を選んだことによって、ニコマス動画というまったく異質な表現とのマッチアップによって、そして春香というアイドルの力によって、歌の秘めていた世界を、可能性を、大きく展開してみせた。歌だけでも、アイドルだけでも到達できない景色がそこにある。
それがMADというものの力であり、アイドルと歌を結びあわせることの意味なのだと思う。

当初、この記事を執筆するにあたって書くことを想定していたのは別のネタだったのだが、長くなったし夜も更けてきた。この記事はここで終えるとしよう。


おなじ話2:47

なんか撮れた。

なお、わざわざ書く必要のあることでもないが、作者の浅葱Pが、デビュー以来1作を除いて春香を主役とした動画を作ってきたPであること、この動画が1月以来8ヶ月ぶりの作品であり、初めての『アイドルマスター2』の映像を用いた作品であることを付記しておく。

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