オールタイム100選各論:天才カゴシマP『春香の 無免許&轢き逃げ 逃避行』(前) 映像面(第1章を中心に)





 春香の 無免許&轢き逃げ 逃避行(アイドルマスター)は、2010/11/7に連載開始、2011/3/23に全19話を以て完結した、天才カゴシマP作のNovelsM@ster作品である。

 本作は、主人公:天海春香が轢き逃げ事件を起こし、無免許運転で逃走する道中を描く、というアイマスキャラクターを用いるものとして衝撃的なストーリー・破天荒な人物描写やギャグ展開の多用・実写背景とBB切り抜き素材の組み合わせによる映画的な映像表現、などの特徴的内容によって、連載当初より「新感覚ノベマス」「ロードムービー」などの固有のタグを付して呼称された。

 本論は、1章(1話~7話)・2章(8話~12話)・3章(13話~最終話)の3部に分かれる当シリーズのうち、特に第1章に焦点を当てて、考察を試みるものである。前編にあたる本記事では、本作のNovelsM@ster作品としての映像表現について記述する。


1:『春香の 無免許&轢き逃げ 逃避行』における映画的表現

 序論で述べた通り、本動画は、映画的な表現を特徴とする。映画的であるとは、文字通り、動画を見ていて、まるで映画を見ているかのような視聴感覚を覚える、という意味である。
 本作品は、基本的には、静止画の立ち絵+背景+メッセージウィンドウという、一般的なノベマスのインターフェースで作られている。(私はこれを、「紙芝居型ノベマス」と呼称している)。静止画を主とする紙芝居型ノベマスを基調とするにもかかわらず、何故本動画は、そのような表現を可能としているか。それは、構図の工夫によってもたらされている、と私は考える。

 わかりやすい例で言うならば、13話のサムネの映像。これは3章OP冒頭のワンカットで、ここではBen.E.Kingの『Stand by me』がオープニングテーマとして使われているが、春香と真が線路上に立っている映像自体も、映画『Stand by me』の、線路に沿って歩いていく有名なシーンのオマージュであると思われる。あるいは、作者自ら動画説明文で北野武の『ソナチネ』に影響を受けていると書いている通り、北野映画の影響とおぼしい演出や展開も散見される。
 私の知識では、どのシーンにどれだけの具体的な出典があるかはそれ以上わからないが、具体的な再現元がある場合にしろない場合にしろ、本動画には、いかにも何かの映画で見たような、あるいはどこかの映画にありそうなカットが、随所に散りばめられている。それによって、視聴者は記憶と想像力を刺激され、描かれていない動きや変化をありありとイメージしながら、動画を視聴していくことになる。

 本動画の映像演出について、今少し詳細に述べよう。特徴的な事柄として、

①カメラアングル、カメラの移動、光線の表現などの工夫
②実写背景と立ち絵素材を馴染ませるための映像加工
③画面内の登場物のポージング・配置の工夫による、情報量の多い画面の構築。
④16:9のワイド画面の活用
⑤ ③の工夫がなされた絵の提示により、中間動作の表現を省略すること
⑥ダンスからの素材切り抜き・加工による、アイマスモデルの表現力の利用
⑦絵柄・色調の統一感

といったことが、挙げられる。
 このうち①~③は、「構図の工夫」の内容である。④のワイド画面は、本動画においてそれらを可能にするための、重要な条件である。

 本シリーズの、特に第1章においては、多くのシーンが、自動車内の運転席に座る春香と、助手席に座るもう一人のアイドル(ゲストと呼称することとする)の会話を、フロントガラス前方正面から写す、という構図になっている。画面上の車の大きさは、フロントガラスの両端がちょうど画面の横幅と一致するくらいに設定されている。そしてメッセージウィンドウは、春香の台詞が下側全面、ほぼボンネットを隠す上下幅で、ゲストの台詞が上側全面、ほぼ天井から上を隠す幅で表示される。
 これによって、二人が会話している状態では、ほぼフロントガラス内の風景のみー左側に運転席の春香、右側に助手席のゲスト、中央に後部座席と後部窓から見える背景ーが見える状態となる。この状態で、背景に奥方向へ遠ざかっていく動画を置けば、"車が前方へ走っている"表現となるし、背景を横方向に揺らせば"車が蛇行している"表現となる。このように、横長の画面を利用した車内風景の構図によって、本動画は、背景のみを動かすだけで、静止画中心の映像を「ロードムービー」として見せることを可能としている。

 ワイド画面の活用は、基本構図の設定にとどまらない。たとえば、あるシーンでは、ゲストが車に乗り込むようすを、

・左に寄せたカメラで、運転席の外側で会話するゲストを写す
・右に寄せたカメラで、助手席の外側にいるゲストを写す
・正面のカメラで、助手席に着席した状態のゲストを写す

という3つの静止画のカットの組み合わせによって、"ゲストが車を回り込んで助手席に乗り込んだ"という、連続した動作を表現している。シリーズ後半に向かうにつれ、車内風景に留まらない多様な絵が出現していくことになるが、このように横方向のカメラの移動によって演出を成立させている例は、しばしば見られる。

 また、ここでは中間動作を省略して静止画の組み合わせで変化を表現する、漫画的な手法が披露されている。この、中間動作の省略という手法(⑤の特徴)は、本動画において、複数のレベルで映像演出の原理となっている。もっとも基本的なものとしては、立ち絵の扱いがまず、そうだ。

 当たり前の話であるが、固定されてパターン数にも限りがある立ち絵素材では、実写やアニメのように、連続的に微細な動作や表情変化を表現することは、不可能である。
 これを解決する方法として、

・素材を静止画としない(コミュ映像、ダンス映像、自作3Dモデリング等をそのまま動画として扱う)
・製作ツールの機能によって、静止画素材を二次的に動かす
・場面に合わせてこまめに使用する立ち絵を切り替える

といった手法がすぐに思い浮かぶところであるが、第4の手法として

・台詞の変化や物語の進行に関わらず、1枚の立ち絵を表示し続ける

がある。例えば焼き肉Pの『ゲームセンターCX 春香の挑戦』に顕著に見られるものだ。
 本動画においても、場面によっては、台詞内容の移り変わりやそこから想像されるキャラクターの心情変化に比して、立ち絵の切り替えの頻度の少ない場合がある。これらがシーンとして成立している理由は、次の二つだと考えられる。
 第一は、BB切り抜きの立ち絵(いわゆる「踊る立ち絵」)の高い鑑賞性、絵画的な美しさである。『アイドルマスター』が誇るモデリング技術の粋であるダンスの瞬間を固定した絵は、それだけで視聴者に画を鑑賞させる集中力を与える。
 第二は、中間的な表情のイメージ喚起力である。半目や半笑いに代表されるような、連続的な表情変化の一瞬を固定した中間的な表情は、視聴者の心理状態次第で、多様な意味をそこから想像することを可能とする。本動画では、特に春香に、薄目を開いたうつむき加減の表情を多用することで、キャラクターイメージを形成すると共に、実際に表示されている立ち絵のヴァリエーション以上に豊かな感情を読み取らせることを可能としている。
 このようなアイマス素材の表情表現力を活用(⑥の特徴)した立ち絵表現を、第1のレベルの「中間動作の省略」としよう。

 先述の乗り込みの移動のように、連続的な物体移動を静止画の組み合わせで表現するのが、第2のレベルでの「中間動作の省略」である。これには、先の例のような漫画的なカット構成だけではなく、たとえばカメラアングルの頻繁な切り替えと動的なポーズ(驚きのポーズや転ぶ瞬間のポーズ等)の立ち絵の組み合わせによって揺れる車内を表現する(4話冒頭)といった、動的な映像の表現も含まれる。

 更に第3のレベルとして、エピソード描写における中間的な過程の省略がある。
 たとえばカーチェイスのシーンの一例として、

・春香の車と、春香を追走する車のやりとりを写す一連のカット
・春香側の車内の様子をアップで写す一連のカット
・追走車の運転手の表情のアップ

があった後、

・横転した追走車と、走り去る春香車を後方から写した静止画

でシーンが締めくくられるものがある。
 ここでは、追走車の運転手が何をやった結果、どのようにして車が横転したか、という過程自体が省略されて、オチだけを提示することでギャグシーンとして成立させている。シーンのラストに、インパクトがあって情報量の多い静止絵をおくことで過程の描写を省略するこの手法は、いわゆる"絵師が描いた一枚絵"をラストに持ってくるという形で、多くのノベマスに例を見ることが出来る。
 しかしながら、そうした絵師の画力を活用する手法と本動画の手法を、隔てる要素が存在する。特徴の最後(⑦)に挙げた、絵柄・色調の統一感である。

 主要場面をメッセージウィンドウ+立ち絵で構成し、肝所で絵師の一枚絵を使用する。この広く見られる手法の場合、視聴者は一枚絵が登場する前後で、紙芝居を脳内でアイドルが演じるドラマに翻訳する"紙芝居読解モード"から、一枚絵の情報を読み解く"絵本鑑賞モード"へ、イメージ喚起のモードを切り替えることを要求される。
 本動画においては、そうではない。内容が一枚絵であれ動画であれ紙芝居であれ、どこかに設定されたカメラから撮られたアイドル達の姿、という一貫した想定に従って映像が構築されている。流通している立ち絵・ダンス素材・コミュ素材・MMD素材という出自の異なる複数の立ち絵や、性質の異なる様々な背景素材を、一つの画面中で違和感なく見せるための種々の映像加工は、明確で一貫性のある想定に基づいて出来上がったものである。

 さらに大きなレベルから見れば、本シリーズのシナリオ構成自体が、省略と圧縮を念入りに行なったものであることがわかる。
 衝撃的な冒頭部分からして、轢き逃げを起こしたエピソード自体の描写は省略されて、既に逃避行が始まった状態で、キャラクターの会話から状況が浮かび上がってくる。毎話登場するゲストにも、各々の事情が存在することが会話中で示されるが、それらが回想シーン等で具体的に描写されることはない。
 会話と映像各々が説明し得る部分にたいして重複的な描写・解説を加えず、続き物でありながら、一話ごとのまとまりと次回へのヒキを意識して短時間にエピソードを凝縮することで、本シリーズの"擬似映画"としてだけではなく、"ニコマスでの連載動画"としても優れた特質が形成されているわけだ。

 以上、7点の特徴を挙げて、本動画の映像表現について記述したが、全体を通して、極力動画素材を直接動かすことに頼らず視聴者に連続的変化を感じさせる、という方向性が窺えるであろう。私が本動画を、構図の動画と呼ぶ所以である。

 1章のメインである車内風景に力点をおいて、「映画的」と称される『春香の 無免許&轢き逃げ 逃避行』の映像表現の、基本的特徴を記述した。2章以降についても、興味深い表現の例は枚挙に暇がないが、より映像表現に知識の深い評者による論が出現することを期待して、本記事はここまでとしよう。


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事後報告で申し訳ないです

 活発な御活動に常々頭が上がりません、わんたPでございます。

 こちらの記事に背中を押されまして、かなり以前より手を付けようと思いつつ形に出来なかった『天才カゴシマP』様の大百科を、稚拙ながらようやく作成出来まして、不躾ではございますが、こちらの記事へのリンクを貼らせて頂きました。

 もし、お困りという事でしたら削除修正させて頂きますが、こちらの記事に大変感動を覚えた末の犯行とお許しを頂ければ有難い限りでございます。
天才カゴシマP大百科 初版
http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A4%A9%E6%89%8D%E3%82%AB%E3%82%B4%E3%82%B7%E3%83%9Ep

 後からの御報告で大変申し訳ございませんでした。
 益々の御活躍を楽しみにさせて頂いております。

素晴らしい大百科記事、ありがとうございます!

わんたP、いらっしゃいませ!

御高覧、まことに有り難うございます。そして大百科記事「天才カゴシマPの執筆、本当に有り難うございました。
特筆すべき素晴らしい活動をされている、また個人的にも思い入れ深いPの記事が作成されたこと、大変に嬉しく思います。また、拙文がそのきっかけの一端を担えたことは、自分でも出来はともかく熱意はそれなりにこめたつもりの文章であるだけに、これに勝る喜びはありません。感謝と感動で胸がいっぱいです。

大百科から拙記事へリンクをいただけた件、大変光栄で、面映い限りです。
ただ、私の文章は、大百科やwikiのように公的な性格を帯びたものでも作者本人が作成したコンテンツでもなく、いわばWikipediaにおける独自研究扱いの文章のようなものですから、「天才カゴシマPの大百科記事」という場所に並んでいいものか、というとまどいはあります。
また、こんな記事を書いておいて言うのもなんなのですが、特定のブロガーが特定の作者をプッシュしているという関係は、必ずしも誰にでも快く思われるものではなく、ことに私も聖人君子で誰からも嫌われないというような人間では全くないので、たとえば私が多くのニコマス人から嫌われるような所業を仕出かしてしまった時に、言及しているPにまでマイナスイメージを付加してしまうのではないかという不安はあります。

そういうわけで、個人的には自分の名前が作品と関連づけて挙げられることには不安があるもので、大変あつかましいお願いではあるのですが、記事本文中からはリンクを削除していただいて、もしご紹介いただけるということであれば、大百科掲示板のコメントで挙げていただくような形の方が適当かなと思うのです。
私は大百科については全く疎いものですし、お忙しいところでもあると思うので、わんたPの御判断で、大百科記事としてこの方が良いということであれば現状のままで構わないのですが、差し支えなければそのようにしていただければ幸いです。
大百科について、何かあったら私も直接天才カゴシマPの大百科掲示板に書き込むことにいたしますので、今後の編集につきましては、わざわざブログの方までご報告にいらっしゃらなくても大丈夫です。

せっかくのご好意に対して、勝手な申し出ばかりの返答になってしまって、申し訳ない限りですが、今回のこと、本当に喜ばしく、嬉しく思っています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

大百科の件につきまして

御意向、了解いたしました。基本的には編者の意思が尊重されてしかるべき領域のことだと思っておりますので、お任せしたいと思います。
ただやはり、あくまでP個人の記事である場所で、無関係の他人の文章が強くおすすめされているというのはちょっと違和感がありますので、「是非御覧頂きたい。」や『すごろく妄想格納庫 (延長戦)』"様"という表記ではなく、「下記のブログで詳しく考察されている」程度の中立さのある記述にしていただければ、と思います。

No title

 こちらの配慮不足に優しく御指導頂き恐縮です^^;

 遅くなりましたが対応させて頂きました、御確認頂ければ幸いです。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A4%A9%E6%89%8D%E3%82%AB%E3%82%B4%E3%82%B7%E3%83%9Ep


 これで大丈夫なはず、はず……また何かございましたらなんなりと仰って頂ければと存じます。

 度々お邪魔してすみませんでした^^;
 御無理なさらない程度に頑張ってくださいまし。

Re: No title

わんたP、修正ありがとうございます。
何度もお手数をお掛けいたしまして、申し訳ありませんでした。

あたたかい励まし、ありがとうございます。ええ、今まで通り、自分が楽しめる範囲で頑張っていこうと思います。
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