「演芸m@ster」前史についての適当な私見


ある動画について書く準備として触れるつもりだったのですが、書いているうちに具体的にその動画について触れる気力がなくなったので、これで公開します。そういうわけで、あんまりちゃんと調べないで書いたので、いい加減な内容です。


画面にアイドルの立ち絵が並び、彼女たちが掛け合いをしたりどつきあったりして笑いを取る…いわゆる漫才をする様をメッセージウィンドウや字幕で表現し、最後に「ありがとうございましたー」と締める……。
「演芸m@ster」と呼称されるテキスト動画の一形態が、まとまった作品群と視聴コミュニティを持つサブジャンルとして確立したのは、09年末から10年初頭にかけてのことである。

何故それ以前に、そのようなサブジャンルが存在しなかったか。考えてみれば自明のことで、「im@s架空戦記シリーズ」「NovelsM@ster」というテキスト動画のメインストリームとなったサブジャンルは、「戦記」「Novel」という名称からも窺える通り、元来何らかのストーリーを表現・再現することを目的として始まったからである。ではストーリー性と切り離した、笑いの表現を目的とする動画は、どこで供給されていたのか。それは、アイマステキスト動画のサブジャンル化以前から存在する、いわゆるMAD的な動画の中で表現されていた。
たとえば、「お笑いm@ster」というタグを現在検索すると、そのタグを持つ動画が、当初はラーメンズ、ドリフ等、実在する芸人の喋りや歌唱の音源に合わせてコミュやダンスの素材を動かすものだったこと、時期が下るにつれ、そうした音声を伴わないテキスト動画の占める比率が高くなっていることがわかる。その変遷の最初期に位置するのが、14Pの美希と伊織に全力で漫才をやらせてみた。シリーズ(09/4/15~09/6/12)だ。無論タグは類似の動画群全体を包含するものでもないし、動画登場時の状態を示すものでもないが、動画の表現形態の動向について、一定の傾向の存在は窺えよう。

さて、一方にMADが存在し、一方にテキスト動画≒ストーリー動画が存在するという状態から、「演芸m@ster」というサブジャンルが確立するに至るまでには、いくらかの段階があったと考えるのが自然であろう。

私見では、ストーリー性を伴わない(または薄い)笑わせるためのコントを紙芝居型ノベマスで表現するのみで、「アイマス動画」足り得る、という"発見"をもたらしたのは、ペデューサーPである。ペデューサーPのアイドルマスター ドタバタ紙芝居 その1(08/9/24)に始まる初期3作は、(無論キャラクターの人格や関係性、物語的な描写が存在しないわけではないが)ギャグを見せることを主眼に動画が構成されていて、そして結末では夢オチ的な形で進行したストーリーが全てリセットされる。この点、コメディ系ノベマスの先行者であるストレートPのアイドルマスター あっというま劇場(08/7/7~09/1/23)が、動画中のエピソード一つごとに人間関係が変化し、緩やかにストーリーが連続していく構成を取っているのと対称的である。
ストレートP・ペデューサーPの作品は多くの模倣を生んだ。それらは概ね、両者が使用した紙芝居型のインターフェースと、Pとアイドルが会話する形式を踏襲し、方向性としてもストーリー主コント従の「あっというま劇場」とコント主ストーリー従の「ドタバタ紙芝居」(の初期3作)の中間のどこかに納まることになった。結果として、09年初頭のノベマス界隈ではノベマスの画一化が印象論として語られることとなる。
すなわち、この時点では、コメディ系ノベマス内部において「Pとのコミュニケーション」という形式を離れて掛け合いを見せる、という発想は未だ認知されていない。

では、そのような発想の種は存在しないのか、と探すと、再びストレートPの作品に行き当たる。

ストレートP 【ネタ☆MAD】アイドルマスター 嘉門達夫「この中にひとり」(08/8/30)

本作は、嘉門達夫の音源に合わせて文字を表示して立ち絵を切り替えるもので、すなわち従来のお笑い音源によるアイマスMADの発想を、紙芝居型ノベマスで置き換えた物である。嘉門達夫の同じネタを使った、トカゲPのMAD、アイドルマスター この中に一人(07/12/15)と見比べれば、両者の発想は全く同根であり、隔てているのは使用素材と編集ツールの違いのみであることがわかる。
一方で、ストレートPの動画から嘉門の音声を消去すれば、そのまま後のお笑い系のノベマスと同内容にもなる。(当代では、たとえばアス比ラーメンPが実在芸人のお笑いをアイマスに置き換えた動画を得意とするし、最近話題になったドードー氏の【アイマス】現代如月概論【ラーメンズ】も、そうした動画だ)
では最初から音声を使用しない動画はないのかというと、それもストレートPが作っている。

ストレートP アイドルマスター どんがらがっしゃ~んのガイドライン(08/8/18)

「イオナズンのガイドライン」のコピペネタを、紙芝居型ノベマスで。コピペなり有名小噺なりをアイマスキャラクターに置き換えて紙芝居化するだけで作品になるよ、というのも現在ではありふれた手法になっているが、それで一本の動画を作ったのはこれが嚆矢ではないかと思う。

つまるところ、ストレートPの動画には常に、このネタを紙芝居型ノベマスでやれば作品になる、紙芝居型ノベマスではこんなこともできる、という提示がある。上記2動画の説明文で、ノベマス以前に2次小説やFlashを作った経験があり、この動画がその焼き直しであることを明かしているが、すなわち、MADでできることは紙芝居クリエーターとアイマス立ち絵セットだけで大体全部できる、という提示の軌跡が、ストレートPのノベマスPとしての活動だったように思う。その意味で、ストレートPの単発作品は、全てが新しい発想の提示である。
だが、一大ムーブメントを引き起こした『あっというま劇場』を除いて、それらは直接後続する作者を生まなかった。それは、ストレートPがそれらの発想を披露するのみで良しとし、『あっというま劇場』の時のように面的にそれを普及させていく活動をしなかったこと、自らが提示しているものについて何の解説を加えなかったこと、また追随した視聴者の大多数が、それらをコメディ系ノベマスの作者が作った一動画としてのみ捉え、それ以上のものを読み取れなかったこと、等によって説明できよう。
そうした事を踏まえると、『どんがらがっしゃ~んのガイドライン』の説明文にある「『わかる奴だけわかれ』というスタンス」という言葉、リボルテック春香を使って久々に動画を投稿した春香さんの愛が重すぎて生きるのがツライ(10/2/18)における「新しい玩具を手に入れたので」という言葉等々は、ストレートPの活動全体にわたる思想を示しているように感じられる。

ストレートPの名前が出てきて思わず話が長くなったが、別の流れとして、TV番組のネタを再現する動画の存在もある。たとえば焼き肉Pの【アイドルマスター】夏だ!水着だ!尻相撲大会!【MIZUGIM@STER】(08/9/29)は、メッセージウィンドウを使うインターフェースで「お笑いm@ster」タグがついている動画である。
このような動画は、既に述べたように、非テキスト動画のアイマスMAD界隈で先に発達した関係上、テキスト系のタグを検索しても捕捉しがたく、私にはその全体像はよくわからないし、後代の動画にどんな影響をもたらしたのかもよくわからない。
ノベマスというサブジャンルの中でTV番組を模倣した動画について言えば、ギャグ作品でそれが認知されるのは09年に入ってからで、なめっこぷろPのクイズ アマミリオネア(09/6/14)がその最初の例ではないかと思う。

同じ09年上半期、コラボする対象をもたず、その名も「漫才」と銘打ってアイドル同士の掛け合いを主眼とした動画で、人気を博したシリーズがある。前記した14P美希と伊織に全力で漫才をやらせてみた。シリーズ(09/4/15~09/6/12)だ。
架空戦記の歴史を見てもノベマスの歴史を見ても指摘できることだが、一定の表現形態が広く普及するためには、それが受容される土壌が醸成される潜伏期間が必要である。

・表現形態が出現可能な環境が整う
・普及の起爆となる動画を作る、先導者が現れる
・更にそのの先導者のフォロワーが複数出現して、流行状態が現出する

各事象の間は、各々数ヶ月のスパンを必要とするのが普通である。
その点で、直接14Pのフォロワーを名乗る作者を探そうとすると見当たらないものの、後述するATPのデビューから逆算すると4ヶ月前、「演芸m@ster」系のメインアクターが複数出揃う10月頃から見ると半年前の時点に14Pの作品が出現していたことは、非常に納得がいく。
『美希と伊織に全力で漫才をやらせてみた。』と同時期、14Pのような脚光は浴びなかったものの、たとえばなめっこぷろP(【私はFランク】 春香と哀れな下僕たち(09/2/20~09/4/4))は一貫してアイドル同士の掛け合いによるコント色の強い動画を作り続け、やがて前述の『クイズ アマミリオネア』等を生んでいるし、ビンビンPは【アイマス】アイドルビンビン物語 「雪歩の部屋」(09/4/2)で、後代広く見られるラジオ番組風のネタを披露している。そうした試行が出現してくる流れに14P作品というヒット作も存在し、それはストーリーやPの存在を前提としない ”アイドルが演じるコント” を多くの人が発想し、受け入れる素地を作っていった、と私は想像する。「演芸m@ster」が出現する土壌は、09年上半期前半頃から醸成されつつあったように思われるのだ。

そして迎えた09年下半期は、いよいよ「演芸m@ster」が成立していく時期である。
ATPの開幕! 765プロM-1グランプリ(09/8/15)は、アイドルがコンビを組んで番組上で漫才を演じる、というストーリーで、初めて明示的に "アイドルが、芸人として意識的にコントを演じる" 内容を持つ動画である。
次いで、番組出演風の演出では

ましんめいかーP(教養講座風:読書感想文の書き方(09/8/22)、コント:プロデューサーの落とし方(09/9/12))
酷くないP(今さら人に聞けない「幼馴染五ヶ条」(09/12/20))

事務所で掛け合いをするものとして

HLCP(はるかかなた パイロット版(09/9/26))

と、一ヶ月足らずの間に「演芸m@ster」のメインアクターが続々出現することになる。
以後、「大喜利m@ster」や「15秒CM@ster」の企画を経て、10年初頭には、「演芸m@ster」界隈がサブジャンルとしてコミュニティとして、完全に確立することになる。その過程については、「大喜利m@ster」等のニコニコ大百科にある程度記録されてもいるし、メインアクターの多くが現在もニコマス上で活動していることに鑑みれば、私は自分がそれについて書くよりも、よりその内部を知悉した人の手に依って記述せられ論ぜられることを期待するものである。
ただ一点だけ述べれば、「大喜利」「15秒CM」という、視聴者中にその形態についての前提知識が広く共有され、何をすればその要件を満たせるかが明確な形態を企画として周知したことは、サブジャンルを確立させる上で極めて有効な選択であったように思われる。



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