つらつらと百舌P作品(下1)


話の流れ上触れないわけにはいかないのだけれど、どうにも書きにくい作品が時々あります。
間が空いてあちこち書き直した結果、別の場所で考えていたネタをいろいろ流用することになりました。






『コンデンサ』

ある記者が見た、美希と美希のプロデューサーの1年間。
現在行なわれている美希へのインタビューの描写の合間に、1年前からの過去のインタビューの回想が、順番に挟まれていく。こんな風に、時間経過とそれに伴う変化が一つの動画中で描写されるのは、百舌Pの動画としてはちょっと珍しい。

基本的に、百舌Pの動画においては、ごく短い時間的スケールの中でエピソードが描かれる。たとえば、電車の中で読んでいた詩集を閉じてから電車がホームに着くまで、だったり。夜中に千早に呼び出されて、また家に戻ってくるまで、だったり。屋上に美希を探しにいって、そのまま寝転がるまで、だったり。短ければほんの数瞬の、長くともせいぜい一日か一晩程度の間の風景を描く。そこに居る"彼"や"彼女"の過去や未来は、回想や会話の中に簡潔の折り畳まれ、想像できる空白が大きくとられてきた。
『コンデンサ』においても、過去が、固定された一時点からの回想によって描かれていることに変わりはないものの、明確に時期ごとの"彼女"=美希の変化が描写されている点が特徴的だ。
そうして語られる現在+4つの過去の風景も、一つ一つは断片的で間接的な描写に過ぎなくて、美希と美希のプロデューサーがどんな活動をしているかが、具体的に詳細に描写されているわけではない。にも関わらず、それらを繋ぎ合わせて描き出される物語は、無印アイマスのいわゆる覚醒美希ルートの、いわば非常にわかりやすく消化に良いダイジェストとなっている。ダイジェスティブ美希ケット。
本作で証明されている、百舌Pの原作ストーリーのテーマを凝縮して作品に落とし込む能力は、きわめて断片的で瞬間的な、 "ある女の子(達)の、ある一瞬の情景" を描いているに過ぎないこれまでの各作品から、何故我々が特定のアイドルの存在を強く感じ取り、背後にある物語を想像せずにいられないのかと考える時、興味深い手がかりだと感じる。

百舌P作品においてアイドルは、まぶしくて仕方がない、惹かれずにはいられない存在で、しかしその魅力の在り方は、作品ごとにアイドルごとに、少しずつその姿を変える。そしてその違いが、各作品の位相の違いともリンクしているわけだ。本作は他動画と比較した時、様々な点に異色の特徴を観察できるが、その特徴もまた、描かれている美希の魅力の在り方と、密接に結びついている。
本作品における美希の魅力、美希をアイドルたらしめているものは何か。

一つ。絶対的なヴィジュアル。

「トップアイドルの階段を破竹の勢いで駆け上る彼女の仕草は、一つ
 一つが嫌みなくらいに様になる。」

「あぁ、なんて可愛いのだろう。
 同性の私ですらこれだけ魅せられてしまうのだ。男だったら、一発だ。」

二つ、無限大の可能性。
三つ、揺るぎない存在感。
その二つは、互いにリンクしている。

美希は言う。誰もが目指している、他の動画の「彼女」たちも憧れていたであろう、「トップアイドル」という目標ですら、

「『今と同じ努力を続けていけば、きっと遠くない未来にそれは叶う』」

ものであると。
だからこそ、彼女は、目指すべき何物かが見つからなければ、目覚めることすらできない。

「『ー理由。うん、頑張るなら理由が欲しい。』」

「『ミキが持ってる全て、それ以上で挑む』」ことができる理由。美希にそう言わせる事ができる何か。それが見つからないならば、彼女は仕事中であろうが眠りこけるだろうし、見つかったならば、どんな障害にも遮られる事無く飛翔し続けるだろう。どんな時でも美希は美希で、何事もそれを揺るがせることはできない。

「そういうのは、なんというか、不誠実ですよ」と言う『Si,Si,sigunorina』の春香にしろ、「私は今が幸せですよ」という『トランジスタ』の雪歩にしろ、他のどの動画の "彼女" たちも、「頑張る理由」を探してはいない。彼女たちは、目に見えるものに対して、精一杯全力で取り組んでいて、しかし彼女たちの少なくとも幾人かは、プロデューサー次第で、巡りあわせ次第で、トップアイドルにはなれないだろう。自分の意志だけで必ず叶えられる、と断言できる未来は、彼女たちにはない。
勿論、彼女たちが『コンデンサ』のような未来を拓くことは不可能ではないし、美希がこうはなれない未来もまた、あり得ないものではない。しかし、この物語の主人公として、自分が必ず叶えるという言葉を放てる存在として、美希ほど似つかわしいアイドルはいないだろう。

「彼女は、他のアイドル達とは違う形でちぐはぐに、でも確実に一歩一歩成長している。」

アイドルがそんなふうに異色なら、そのプロデューサーもまた異色である。

「僕の方から愛情を注げば、必ず応えてくれる。そう信じて、美希と
 接しています。今はちょっと……あれですけど。きっとそのうち、絶対に」

『test』の、『Si,Si,signorina』の、『ビッ千早』のプロデューサーならば、「愛情を注ぐ」のが、「信じて、接する」のが、「仕事」だとは言わないだろう。そんなことでは「仕事」にならなかったこそ、『ビッ千早』の千早は安いシャンプーの香りを漂わせ煙草を吸い、プロデューサーに「だから貴方は駄目なんですよ」と言わなければならなかった。
「きっとそのうち、絶対に」と信じる純粋な、言い換えれば絵空事の中を生きている『コンデンサ』のプロデューサーは、原作ゲームのPに、より近い。その非現実性に自覚的でありながら、結局はそちらを選択せずにはいられない『test』・『Si,Si,signorina』・『ビッ千早』のプロデューサーは、ゲームのPとアイドルを眺める誰かに、より似ている。
だが、絵空事のはずのそれは、叶えられる。「仕事」ではない筈のそれは、「ばりばり仕事をしている」結果になってしまう。なぜなら、それが美希だから。

「珍しい仕事、珍しいプロデューサ、そして珍しいアイドルだ。」

思えば、この無限大の可能性と、それと表裏一体の、何事にも揺るぎない存在感こそ、数々の物語を描かしめてきた、美希の魅力の源泉ではなかったか。そこに目指すべき何かが見つかれば、月にだって軽々と飛んでいけるのが、ノベマスの美希である。そしてその美希が事務所でただただ眠りこけている情景が、どれだけ多くの物語を救ってきたことか。
故に、美希の物語は難しい。無限大の可能性をどう開放するのか。「ミキが持ってる全て、それ以上で挑む」ことができるものは何で、それをどうやって提示するのか。全力で飛翔する美希の輝きとは、果たして描写できるものなのか。
そんな美希の物語を、美希と美希のプロデューサーの関係という原初の物語に立ち返って提示したという点においても、本動画の存在を意義深く感じるものである。


「彼女を言い表す言葉は一つしか見つからない。

 つまり、こうだ。

 彼女が、星井美希だ。」

(百舌P『コンデンサ』より)


関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Vinegar56%

Author:Vinegar56%

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
全記事一覧

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数: