はるかは じゅもんをとなえた!(後編)


動画より、この記事の内容の方がよっぽどループしている件。
最後に、びっくりするかもしれないししないかもしれないお知らせがあります。


中編で話が拡散したので、しつこいですが、ドーム成功ED後の春香を描く動画の中で、共通するルールをもつ作品の系譜があることを確認しておきます。そのルールとは、

①ドームED後の春香は、"ひとりぼっち" になり、精神的に追い詰められる。
②前項で "ひとりぼっちになった” 春香の精神の救済は、(元)プロデューサー(が春香に求愛すること・春香のそばにいること)によってのみ可能である。
③ドームED後の(元)プロデューサーと春香は、物理的に別離状態におかれ続けなければならない

なお、

④(元)プロデューサーがそばにいない状態の春香は、アイドル活動を楽しんではならない

を、ここに付け加えてもよいでしょう。

私はこうした要件を備える作品を、"ひとりぼっちの春香の救済" ものと呼んでいます。
これを踏まえて、『糸電話』のストーリーを確認しましょう。


【アイドルマスター】糸電話 天海春香 (11/6/5)



①動画中での、春香の状況
最初のPのプロデュース終了後、千早・やよいとトリオを結成して活動している。黒いシルエットの人物がそばにいるが、その人物の立場は明示されない。

②動画中での、元Pの状況
以下より、春香と直接会う環境にない(または会う意志がない)ことが示唆される
・春香とのコミュニケーションに電話を使用する。
・台詞「こっちはぼちぼち… そっちはどうだ?」より、春香たちから物理的に離れた場所で、何らかの活動をしていることを示唆
・台詞「春香は元気でやってるか?」「久しぶり」より、長期間コミュニケーションをとっていないことを示唆
・街角でモニターに映る春香を眺める背広の人物(元プロデューサーと推定される)のカット
・台詞「さよなら、春香ー」

③元Pがプロデュースしていた時期の春香
情報に乏しい。台詞「次こそ頂点を目指すんだ」がある

③元Pの、春香に対する認識
・プロデュース終了直後の時点? での心情を示す台詞
「社長、春香はひとりでもやっていけるはずです」
「春香ならきっとできるはずです」
「大丈夫ー」
「もう 春香はひとりでも大丈夫だ」

・現在の心情を示す台詞
「春香は元気でやってるか?」
「がんばれ」

④春香の心理
⑴プロデュース終了直後の時点? での心情を示す台詞
「無理ですよ…」
「ひとりじゃ 無理ですよ…」

⑵現在の心理
文字では明示されない
・トリオでのステージシーンで、元Pとの関係を暗示するものと思われる赤い糸を指に巻き付けていること、このステージシーンにおいて、元Pとの会話を想起させる「がんばれ」「…はい」という台詞が表示されることによって、元Pとの関係・元Pに対する心情と、現在の活動の動機・活動しながらの心情の結びつきが、暗示されていると思われる
・動画中、ステージシーン以外で春香の微笑む顔が表示される箇所は、ラストシーンの、元Pとの「がんばれ」「…はい」というやりとりの部分のみである
・動画中、春香との会話が描写されるのは、元Pのみである(但し、冒頭では台詞は表示されないものの、春香・千早・やよいが会話しているらしいシーンがある)

⑤ステージシーンの描写
・無印モデルのステージシーンでは春香の顔が画面内に表示されず、2モデルのステージシーンでは春香の顔をアップにするアングルが多く映され、表情は笑顔が多い。

⑥千早・やよいの扱い
時系列上、新トリオ結成後(すなわち『アイドルマスター2』の映像が使用される箇所)のみ登場し、登場シーンは次の3箇所である。
・冒頭、春香・千早・やよいが会話をしているらしい後ろで、黒いシルエットの人物が元Pと電話している。このうち表情が見え、動きがあるのはやよいのみである。
・ステージシーン。春香のみ光が当てられ、千早・やよいは表情がほとんど窺えない。
・ラストシーン、千早・やよいが立ち去ったのち、黒いシルエットの人物が春香に電話を代わる

⑦黒いシルエットの人物の扱い
・台詞「もしもし… ああ おまえか」によって、元Pにとって同輩または目下であることが示唆される。
・シルエットの人物自身の台詞は
「はい」
「それじゃ、春香に代わります」
のみである。

⑧社長の扱い
元Pの台詞、
「社長、春香はひとりでもやっていけるはずです」
「春香ならきっとできるはずです」
のシーンで登場。台詞はない。

前編冒頭で、私は春香ドームEDを発想の源とする動画の系譜上に置いた時、『糸電話』のストーリーが特殊で珍しい存在ではない、と述べました。その意味が、ここでご了解いただけるかと思います。「トリオで活動するアイドルマスター2の春香」と「無印時代のプロデューサー」は、この動画において物理的な別離状態におかれています。本動画で表現されている、「春香が無印時代の記憶を保持したまま、『アイドルマスター2』の世界に移行する」とは、前編で我々が繰り返し見てきた、春香または元Pの移籍・活動休止によって春香と元Pが物理的別離状態におかれる、という手法の再現そのものです。春香の移籍先は、ある時は固有名称の無い事務所であり、ある時は「25マスプロ」であり、ある時は「961プロ」であり、そして今回は『アイドルマスター2』だった。そういうことです。
映像的な比喩表現を多用することによって、必ずしも具体的な心理は明示されないものの、「春香がひとりで活動できるか・できないか」という繰り返し台詞で提示されている命題もまた、 "ひとりぼっちの春香の救済" ものの要件に則っていることもわかります。

こうしてこの動画の基本構造が、 "ひとりぼっちの春香の救済” ものの構造そのものであることを理解した時、細部の表現もまたそれに則ったものであることがわかります。
現在の春香のそばにいるとおぼしいものの、その立場も心理も明かされない黒いシルエットの人物。我々は、この人物に何度も出会ってきました。彼(女)は、『「永遠の嘘をついてくれ」』では「新人P」と呼ばれていました。『Starting over』では「マネージャー」と。『糸』では「25マスプロのプロデューサー」と。『雨空』では「現・P」と。彼こそは、 "ひとりぼっちの春香の救済" ものに必須の、アイマスの慣習に則ってアイドルのそばに存在するものの、(元)プロデューサーがアイドルに対して占める位置を代替することは決してない、”準プロデューサー的存在” そのものです。
事務所で「春香はひとりでもやっていける」という元Pの主張を聞いていた社長。彼(女)も、なじみ深い存在です。彼(女)は『春香の願い、小鳥の願い』では音無小鳥として、『雨空』では如月千早として、元Pの前に現れました。直接会ってはならない二人のために、Pの前で ”ひとりぼっちの春香" の心情を代弁する存在です。
想像を逞しくするならば、動画中で春香との関係が明らかにならない千早・やよい・黒いシルエットの人物が、(本作がノベマスという表現形式であれば)果たしていたであろう役割も予測できそうです。彼女たちは、『「永遠に嘘をついてくれ」』での他のアイドルたちのような『ひとりぼっちの春香』の不幸の引き立て役ではなく、春香を励ましPを諭す『雨空』の千早と現Pのように、『あなたとの道』で春香担当Pを殴る真担当Pのように、『やさしいうたの物語』でPに力を与えるアイドルたちのように、春香によりそいながら、しかし根本的な救済(”ひとりぼっちの春香” を!""ひとりぼっち" でなくす)を与える権限は持てない存在でありましょう。ラストの電話のシーンにおいて、千早とやよいが立ち去り、黒いシルエットの人物が「春香に代わります」と言って、(彼女ら自身の春香へのアクションは示されることなく)「春香とPがふたりきりでコミュニケーションする」という状況をセッティングする方向に動くのは、それを示唆しているように思います。
このように「ひとりぼっちの春香の救済」ものとして本作を捉えた時、本作がなぜこのような結末を描いた(または描かなかった)のかもわかります。作者の思いの如何によって、いかようにでも "春香にとって不本意な居場所" とし得る(作者自身が設定した)移籍先・"準プロデューサー的存在"と異なり、『アイドルマスター2』とそこにいるPとは、無碍に全否定できる存在ではありません。離れることで糸が伸びて声が聞こえるようになる。「がんばれ」「…はい」と台詞を置いて、その後は語らない。作者に許容できる物語の在り方と、より多くの視聴者に受容できる物語の在り方と、落としどころを探す時、その最適解は必然的に定まるでしょう。

私は、『糸電話』が暗示するストーリーを、古くて新しく、新しくて古いものと考えます。
繰り返し消費され、演出され尽くした ”ひとりぼっちの春香の救済" という物語に、「『無印』と『2』の橋渡し」という現在的なテーマを結びつけ、2011年現在の視聴者が消費するに足るものとした、という意味において、新しい。
そして、「『無印』と『2』」、という表層を剥ぎ取れば寸分変わることない "ひとりぼっちの春香" がそこにいる、という意味において、古い。『糸電話』によって、 ”ひとりぼっちの春香" は現在性を持って再登場し得たのです。


なぜ、"ひとりぼっちの春香の救済" の物語は、このように再生産され続けて来たのでしょう。次回、完結編ではそれを考え、そして私の考える『糸電話』の意義と、私自身のこの動画への思いを述べましょう。(まだ終わらないのかよ!)





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Vinegar56%

Author:Vinegar56%

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
月別アーカイブ
全記事一覧

全ての記事を表示する

検索フォーム
リンク
FC2カウンター
FC2カウンター
現在の閲覧者数: