はるかは じゅもんをとなえた!(前編)


泣けるアイマス、とは今の私の状況のことであります。クソ忙しい週に書きたいことができたので、ヒイコラ言いながらチビチビ書いていたら、書き上がる前に言いたいとはあらかた、皆してよってたかって書かれてしまったというね。
そういうわけで、推敲校正する気力がにないのでいろいろおかしい所があるでしょうが、あしからず。後編がいつできるかは未定です。

※本文中に、たくさんの動画のネタバレを含みます。

【アイドルマスター】糸電話 天海春香 (11/6/5)




この動画を見て、普通はまず何に注目するかというと「im@sストーリー系PV」の「ストーリー」の部分だと思うのです。しかし、私はあまりこの動画で語られるストーリーについて深く考えようという気持ちが起こりません。何故かというと、春香ドームEDを源として多くの物語が生産されてきたことは誰もが知っているわけですが、加えてノベマスを中心に動画を見てくると、「プロデューサー」が単独で顔・名前を持たない動画の世界から、プロデューサー的存在が複数いて名前を与えられたり顔を出したりする動画の存在が当たり前になっていく流れがあって、その線上にこの動画のストーリーを置いたとき、それは特殊で珍しい存在ではないと思うからです。今日はその話をします。

その前に一つ。動画中にいくつか台詞が表示されますが、この動画のストーリーを成立させるにもっとも不可欠な、根幹をなす台詞はどれでしょう。私は、「もう春香はひとりでも大丈夫だ」(という台詞を、P(元P)に言わせること)だと思っています。この台詞を元Pに言わせるからこそ、元Pと春香の別離状態を理由付けられるからですが、これはとても不思議な台詞です。何が不思議なのかというと、ストーリーの根拠となるもう一つのPの台詞、

「は? って、おい、それ…… 
 ヤバい意味じゃないだろうな」

がゲーム本編のPの台詞をそっくりそのまま写したものであるのに対して、「ひとりでも大丈夫」という台詞は元のドームEDのどこにもないからです。これに対応する(根拠になる)と思われる台詞は、「ヤバい意味」発言の前段のやりとりにある、

「おいおい、いきなり、なんてことを……。もう
 トップアイドルなんだし、俺の助けなんて……」

です。多くの言葉が並んでいるドームED中から何故ここの部分が特に取り出され、「春香はひとりでも大丈夫」という言葉に翻訳されて動画中に特記されるか。この点に、春香ドームEDを発想の源とするこの種の物語の性質が明示されている、と私は考えています。
すなわちこの台詞をPに言わせるということは、逆説的に「実際にはひとりになった春香は大丈夫ではなくなる」という展開に進むことが約束されている、ということ。つまりこれは、物語のテーマが「Pがいないと生きてゆけない春香の救済」であることを保証する言葉です。


⑴「永遠の嘘をついてくれ」

こうした「ひとりになった春香の救済」というテーマはノベマスでも繰り返し扱われてきましたが、春香ドーム成功EDを扱う動画はノベマスの勃興以前からPVで多数存在しますし、影響関係から言っても、初期に春香の物語を書いたノベマスPの多くは07年のドームEDものの春香PVの強い影響下にあります。たとえば鳩Pのアイドルマスター「永遠の嘘をついてくれ」featuring春香(07/8/23)シリーズなど、(テキスト系も含めた)後続作品に多大な影響を与えた動画の最たるものです。けれども、難しいのは、このような動画はゲーム本編と作者の一対一の関係のみで成立したものではなく、無個性として扱われたり閣下として扱われたり等々等々のニコマスの文脈の上で意義を持っているからで、このような複雑で厚い文脈の元にある動画を扱うのは私の手に余ります。ただ、とにかくこの作品の後続への影響はすさまじいものがあるので、ざっとそのストーリーを確認しておきましょう。

一作目『「永遠の嘘をついてくれ」』は、大きく分けて3部のコミュ中心の映像と、引用動画への謝辞を述べるED、それらをつなぐダンスパートからなります。

・序部 ドーム成功ED末尾の映像、及び「うそつき」という言葉の提示
・前部 各春香コミュから抜き出した映像と、「現在(ドーム成功ED後)の春香からPに当てた手紙」という体裁の文章を、交互に表示。コミュ映像は、ライブ前のコミュ(順を追ってハコが大きくなる)→春香からPへの何らかのアピールを含むコミュ という順番に配列されている。
・後部 各アイドルドームEDから告白シーンを羅列。「結ばれる他のアイドル」と「一人だけ結ばれない春香」の対比

ここで一つ。なぜ、春香はPに対する意思表示として、「手紙」を用いているのでしょう? なぜ、このシーンは直接会う形になっていないのでしょうね? まあ結論は急がず、以下、一連の関連する鳩P作品の内容を簡単に確認します。


アイドルマスター「ガセビアの沼」featuring春香 (07/8/23)

・「ウソツキ」という台詞を延々と春香に言わせる。

鳩Pの他作品の文脈を知っているか否かで印象が180度変わる、のかもしれない。 というこの手法を、我々は違う場所でもしばしば見かける気がします。この記事中に出てくる動画とも関係があるかもしれません。


「過ぎ去りし永遠の日々」(following 永遠の嘘をついてくれ1) (07/11/11)

・EDから3年後、春香はアイドルを引退し、ラストコンサートを開くことになっている。
・春香には新人Pがつき、その新人Pは「すっかり立派になりました」と春香から評される
・(元)Pと春香は共に忙しく、長く会っていない
・(元)Pは小鳥と結婚することになっている

先程の疑問の答えが提示されましたね。「ED後のPと春香は、物理的に直接会えない状態にある」からです。そしてここで、「新人P」という存在が出てきました。この二つの事象、記憶しておくと面白いかもしれません。


「言葉」(following 永遠の嘘をついてくれ2) (07/11/24)

・3年後、二人は結ばれる。


「LiveForYou(歌をあなたに)」(following 永遠の嘘をついてくれ3)

前部・1作目についたコメントの紹介
中部・歌詞付きのステージシーン
後部・文字のみ。前半は対話調、後半は語りかける口調。

なお、鳩Pの編集後記のマイリストコメントでは、本来予定されていた展開は

・春香はPを信じて求愛されるのを待ち続ける
・互いにすれ違ったまま物語が終わる

というものだったが、動画についたコメントの力でハッピーエンドを迎えることが出来た、と語られています。

さて、以上の『「永遠の嘘をついてくれ」』シリーズには、いくつか印象的な台詞があります。それをここに提示して、今度はノベマス作品を見ていきます。

・『「永遠の嘘をついてくれ」』
「私、プロデューサーさんのそばにいる時が、
 一番、幸せなんですっ。一番、輝けるんです…」
「プロデューサーさんだけが、
 私を輝かせることができるんです。」

・『「過ぎ去りし永遠の日々」』
「P.S.あなたを永遠に愛してる」

・『「言葉」』
「だけど、もういいんだ
 君は自分の幸せのためだけに歌っていい」
 君の愛する、ただ一人のために」

・『「永遠の嘘をついてくれ」』コメント群
「やったことないのに泣けてくる」
「やったことない・・・けど目から汗が・・・・」
「アイマスって感動できるゲームなんですか?」


⑵08年前半

『NovelsM@ster』タグ作品において、ED後の春香とPの関係に焦点を絞った最初の動画は、R@GIPのiM@Sでラブコメ作ろうとしたらテラしくじった[春香](08/1/21)だと思われます。
注目すべき点の一つ目は、この動画を観察すれば、以後のED後もののストーリーの大半に共通する要素を既にこの動画で発見できること。
もう一つは、この『iM@Sでラブコメ作ろうとしたらテラしくじった』シリーズは春香だけの物語ではなく、伊織編(08/4/14、リメイク版09/8/1~09/8/2)と美希編(09/6/2)が別に存在していて、対象となるアイドルが違うにも関わらず、ストーリーの基本構造は完全に同一だということです。その基本構造を簡単にまとめてしまえば、

・プロデュース終了後、アイドルはPに対して強い愛着を抱いているにもかかわらず、アイドルとPは別離状態となる
・Pと別離したアイドルは、完全にひとりぼっちとなる
・アイドルはPとの再会だけを心の望みとして、アイドル活動を続ける
・孤独なアイドルがいかにして救済されるか(または救済されないか)

の4点に要約できます。
一点あえて詳しく言及すると、いずれの編においても、プロデュース終了後のPとアイドルは、単に同じ事務所でそのまま活動を継続するのではなく、Pの辞職や死亡によって、物理的に完全に会えない状態におかれることになっています。ドーム成功EDの台詞や交通事故という、別離の根拠となる文脈をゲーム中に求めにくい伊織の場合は、最後の公演で喧嘩別れするという固有のストーリーを加えることで、完全な物理的別離状態が達成されています。
春香編と伊織編の再生数知名度の差、また別離後のアイドルの未来について一つの答えを出していると思える美希編の後で、答えが出されない伊織編のリメイク(かつ、孤独感、苦しさをより長く詳細に描写する方向)へ作者が回帰している点など、シリーズを通して見ると興味深い点はありますが、それは今は置いておきます。

今指摘した、「プロデュース終了後のアイドルとPは必ず物理的に別離した状態におかれる」という原則(既に見た通り、鳩P作品で既に全く同じ構造が存在します)は、本当にそういうルールがあらかじめ定められているのかと思うくらい、ED後の春香とPの関係を扱う作品で広く観測できます。それは具体的には、春香とPのどちらか(または両方)が移籍or引退・活動停止によって事務所からいなくなることで達成されます。そうでない場合は、多忙(またはPの意志)によって春香とPがプライベートに会う時間を持てない、という条件が付加されます。


更にいくつか、(必ずしも春香成功ドームEDが話の中心となる動画ばかりではありませんが)08年前半のノベマスから事例を見てみます。

りあらいずP(ぎみっくP)のアイマス~if~ relations シリーズ(08/4/10~完結08/12/19 全動画投稿者削除)は、アイドル同士が対立して凍り付いた人間関係にある事務所に新人Pが入っていく、というストーリーですが、「ギスギス動画」と称されたこの作品の鮮烈な人間関係を成り立たせているのは、病んだ春香の強烈な存在感であり、さらに春香がそのようになった根拠は、前任P時代の関係性が崩壊し、前任Pが事務所を去った事で与えられていました。(うろおぼえ。)

愛識Pのラノベっぽいアイマスシリーズ(初投稿08/5/4~完結08/9/21)。結末を知った上で論理で読もうとするとなかなかややこしい作品ですが、単純に投稿されたエピソード順に読んでいくと、

・Pに強く依存し、常にPのそばにいることを望んでいる春香:ハルハルカ(第1章相当)時点
・アイドル活動が軌道に載らない春香は、Pから離され律子のプロデュースを受けることになる :「雪歩Walker」(第4章相当)時点
・Pと他のアイドルの関係の深化と、春香とPのコミュニケーション機会の減少→春香の精神的危機:「☆に願いを」(第7章相当)時点
・→結末に向かう :「失われた時を求めて」(第9章相当)以降

まあ、この後がいろいろあるのですが。先にPへの依存状態があってから別離が起きる、という順番の違いはあるものの、ここでも "ひとりぼっち(Pなし)では生きられない春香" というテーゼと、Pとの物理的別離、という基本構造があることが確認できます。

エグザスPの「春香の願い、小鳥の願い」シリーズ(08/6/12~09/9/19中断)。

・前編(タイトル:「決して『彼女』を放すな」) 春香と別れたPの前に小鳥が現れ、Pは小鳥に諭される
・中編(タイトル;「『世界』に向けて歌え) Pと別れた春香は、1年が過ぎるとリセットされる世界の中を、記憶を保持してループし続ける。その間、春香は常にPへの恋情と孤独感を意識する。

本作においては、 "リセットして繰り返される1年を、記憶を保持してループする存在の苦しみ” という、これもアイマス作品でしばしば使われるモチーフが用いられています。少し考えればわかる通り、これは特段春香とセットになる問題ではありませんが、春香成功ドームEDと結びつけて扱われやすいのも事実です。当記事では、ループを巡る問題には詳しく触れませんが、リセットされるされないに関わらず、 「ドーム成功ED後の春香」 に与えられる意識は他作品と共通していることが確認できます。
また、この作品は、ゲームキャラ版天海春香スレ・音無小鳥スレへの書き込みを発想元としているそうで、そうした作品の成り立ち方は、動画についたコメントが次の動画の構成要素となった『「永遠に嘘をついてくれ」』ともよく似ています。両作品が提示しているのは、"みんなの春香への想いが結実して、春香がハッピーエンドを手に入れた"、というような、不特定多数の共有意識に "ひとりぼっちの春香” の救済を求めるアプローチ、と言えるかもしれません。

さて、ここまで例示したノベマス4作は、いずれもプロデューサー1人称視点の作品です。このうち、R@GIP及びエグザスPのものは、初作がP視点で、続編がアイドル視点になるという経過を辿っています。
これらに限らず初期のノベマスにおいて、ゲーム本編のコミュを踏襲したプロデューサー1人称という視界は(特に、アイマス以外に再現・コラボすべき原作を持たない作品において)強い拘束力を持っていました。しかし、ノベマスというサブジャンルの普及にともなって、ED後の春香を扱う動画にも、より多様な視点が出現していくことになります。それを踏まえて、08年後半の作品に進みましょう。


⑶08年後半

にわPのStarting overシリーズ(08/11/29~09/8/17完結)。
『Starting over』にはP視点のエピソードもありますが、大きな特徴は、アイドル視点での細密で長大な心理描写を行なったことでしょう。
連作短編的な形式をとる『Starting over』シリーズの中で、 "ひとりぼっちになった春香の救済" がテーマとして中心的に扱われたのが、9本目の「【Starting over】 私は電話をかけない」、続く「【Starting over】 世界に愛を / Startingover ?」においてです。
「私は電話をかけない」における春香の状況を要約します。

・P、春香とも多忙で、仕事でもプライベートでも会うことが激減している。
・春香はその状況に対して、心理的ストレスを感じている。
・春香と顔を合わせる業務は、女性の「マネージャー」が担当している。

ここでまた、興味深い存在が出現しました。「マネージャー」です。
アイマス2次創作において、アイドルがアイドルとして活動する時、そばにプロデューサー的存在がいることは、常識・大原則となっています。従って、Pにプロデュースされずに春香がアイドル活動をしているならば、そこにはPの職能を代行する存在が必要になります。
ところが、先に述べたように、初期のノベマスは、ゲーム本編でのプロデューサーの在り方に強い拘束を受けています。08年のノベマスにおいて、「プロデューサー」とは、安易に名前をつけたり複数登場させたりすることは難しい存在です。そこで、実務上はPの役割を果たしながら、本来のPが占める位置・Pとアイドルとの関係を浸食しない、 ”準プロデューサー的存在" が、物語上必要になります。『ラノベっぽいアイマス』においては、律子をその位置におくことで条件を満たしました。律子をアイドルではなくプロデュース側に配置するノベマスが数多く書かれてきたのは、プロデューサーという存在の特殊性と物語上の必要性が生んだ、必然的な結果です。
そして、『Starting Over』の場合には、女性であること、「マネージャー」という肩書きであることによって、仕事上もアイドルとのプライベートな関係上も「プロデューサー」の占める位置を浸食しないことをあらかじめ規定することで、 "準プロデューサー的存在" を物語に登場させることが可能になったのです。

続いて、同作のストーリー上、春香の心理が変化するターニングポイントである、「【Starting over】 世界に愛を / Startingover ?」も見ておきましょう。
『Starting over』はアイドルと「歌」の関係を物語の大きなテーマとしています。が、それはこの記事のテーマと直接関わってこないので、乱暴を承知でそこを無視して要約します。端的に言って、Pと物理的別離状態になった春香は、精神的に救済を必要とすることになります。では、その救済はいかにして与えられるか。それは、これまで述べてきたことから演繹的に導くことができます。
救済には、他者が介在する必要があります。何故ならば、 "ひとりぼっちになる" ことで精神的危機に陥った春香が独力で危機から回復したのでは、物語の必要性がないからです。しかし、その他者はPであってはなりません。Pとの別離が、与えられた前提条件だからです。また、”準プロデューサー的存在” であってもなりません。なぜならば、Pが果たさなかった救済を "準プロデューサー的存在" が果たしてしまったら、"準プロデューサー的存在" と春香の間に強い関係線が生じ、Pと春香の関係にとって替わってしまうからです。それは、ありえてはならない展開なのです。
そこで、採用されたのは、街頭で、見ず知らずの相手を前に歌うことで救済される、という解決法でした。二度と会うことも無いであろう相手との邂逅ならば、その相手がどのような役割を果たそうと、それが以後のアイドルを巡る関係線に影響を及ぼす危険はありません。
あらかじめ究極的な関係が生じる可能性が否定されているからこそ、特別な関係を結び影響力を行使することが可能になるのです。(どうでもいい話ですが、今の一文を読んで、こいつ前にも同じようなこと言ってたな、と思った方には、すごろく妄想格納庫マニアという不名誉きわまりない称号を進呈いたします)
最近話題になったRIPLA氏の【ノベマス】あせらずに。【短編】(11/5/26)なども、視点の設定場所こそ違えど、まったく同じ構造をとった物語です。
『Starting over』はこの後、「一人でも歌える春香」に対して周りがどう対応するか、という新たな段階に入りますが、それは別の話として次に行きましょう。

上で、ゲーム本編の「プロデューサー」という存在のノベマス作品への拘束力を述べましたが、ノベマスの多様化は、やがてPが複数存在する・Pが名前を持ち名前で呼ばれる・Pの立ち絵が表示される、といった作品の存在を当たり前にしていきます。現今を代表するノベマスPである弓削P、ハリアーP、介党鱈Pといった作者の作品が、いずれもそれに該当することからも、このことは納得できるでしょう。そうした流れは、ドーム成功ED後春香を扱う作品の上にも観察できます。では、09年前半の作品を見ましょう。


⑷09年前半

ペデューサーPの職業アイドル(09/3/13~)。
様々な人間の思惑と陰謀が絡み合うストーリーを、視点を次々切り替えながら、感情移入を排した独特の叙述によって浮かび上がらせていく作品ですが、春香まわりの設定してみましょう。当作品においても、「プロデューサー」が呼称として使われるキャラクターは一人で、このキャラクターには固有の名前も立ち絵も与えられていません。

・「プロデューサー」は春香・千早のデュオユニットのPだった
・ユニットが解散した後、千早とPはアメリカに渡り、春香は日本でアイドルを続けた
・春香の現在のプロデュースは、女性が担当している。このキャラクターは、当初「765P」と表記され、第4話で「辺土那美子」という名前が与えられる

春香とPの物理的別離状態と、それにまつわる春香のトラウマ(但し現時点でその詳細は記述されていない)、後任の"準プロデューサー的存在" としての性格(女性、新人であること、また能力・知識面の差異によって、Pの占めるポジションと重ならない)と、ドーム成功ED後春香ものに共通する構造が見て取れます。なじみ深いキャラクター構築・設定構築の手法を、前例の少ない独自のストーリーを構築するためのギミックとして有効に活用している点、「ギスギス動画」の先輩である「if relations」と共通していると言えるかもしれません。


ピヨ談Pの【NovelsM@ster】『雨空』シリーズ(09/4/12~10/2/2完結)

・春香視点、千早視点、P視点の3視点により、春香・春香の元P・春香の現P・千早、の4登場人物を用いてED後の春香を描く
・春香は元Pを「プロデューサーさん」、現Pを「プロデューサー」と呼び分け、現Pにはシルエットのみの立ち絵がある。
・春香は当初、元Pへ手紙やメールを送っている。
・春香は現在の自分をアイドルを演じているだけと感じ、やがて引退を表明する
・元Pは現在の春香への干渉を極力避けようとしている。春香も元Pに直接会うことは避けている
・全編を通じて千早が、また途中からは現Pも、春香と元Pが直接会うよう働きかける
・→結末へ向かう

春香と元Pの関係については、既に繰り返して見てきた通りの展開です。本動画においては、千早が両者を結びつけるためのメッセンジャーとして機能していることが注目されます。(なお、本作以外にも、春香と千早の対比または関係性は多くの春香ドーム成功ED後もので重要な要素となっていますが、到底一本の記事でカバーしきれる内容ではないので、意図的に千早の存在には言及していません)。このことは、ハッピーエンドを描き得た本作と、完結を見ずに中絶した多作品(前述のエグザスP作品、後述の糸の人作品など)を比較する時、重要な意味を持つと感じます。
この種の物語の基本として、 ”ひとりぼっちの春香” の救済には他人の介在が不可欠であることを述べました。そして、それはたとえば、"準プロデューサー的存在" によって成されてはならないことも。同様に、(究極的な)救済は、他のアイドル(広く括るならば、春香の「仲間」)によって成されてもならないのです。その理由を、私は既に最初の『「永遠に嘘をついてくれ」』の項で示しています。

「私、プロデューサーさんのそばにいる時が、
 一番、幸せなんですっ。一番、輝けるんです…」
「プロデューサーさんだけが、
 私を輝かせることができるんです。」

まったく同質の内容の言葉は、この記事で上げているほとんどの作品において、春香自身の台詞として提示されています。 ”ひとりぼっちの春香" の心を救済し、幸せを与えられるのは世界でただ一人、(元)プロデューサー(が春香を愛し、春香のそばにいること)だけでなければならない。それは、これらの作品における根本規定です。 "準プロデューサー的存在" なり他のアイドルによって "ひとりぼっちの春香" が救済された先に待つ未来は、かつて元Pが春香の中で占めていた位置を別の存在・関係が占める未来であり、元Pが不要となる未来です。それは根本規定に矛盾します。
一方で、この種の物語で、春香と(元)Pは物理的別離状態に置かれなければならないことも、繰り返し見てきました。
この二つのルールに厳密に殉じようとすればするほど、物語には収束する点がなくなることが、容易に理解できるでしょう。『雨空』において、千早及び現P(彼女たち自身が春香に救済を与えてはならない)に、 ”会ってはならない" 春香とPを会わせるように動き、それを実現させる役割を持たせたことが、物語を進行させるための有効な動力となっていることがわかります。


さそP あなたとの道 (09/4/18)

・春香担当P生駒・真担当P吾妻・千早担当P敷浪、という固有名称を与えられた複数Pがいる
・春香はアイドルとして「春閣下」を演じている

本作においても、千早・真・真担当Pといった他者が、仲介者として機能します。但し、根本的な救済が彼らによって与えられることはありません。このことは、たとえば "ひとりぼっちの千早の救済" をテーマとするノベマス作品において、春香を初めとする「仲間」によってその救済、「居場所」を与えるのが当たり前のアプローチであることと比較する時、 "ひとりぼっちの春香の救済" というテーマの性格を特徴づけていると言えるでしょう。

糸の人【アイドルマスター】糸 【春香とプロデューサーの手紙】 (09/5/4~09/7/31中断)

・ED後、春香は別の事務所に移籍し、元Pとは別人のプロデュースを受けている
・互いに多忙のため、元Pと春香が直接会うことは不可能であり、二人は文通により連絡を取り合っている
・元Pと春香が直接会おうとする試みは、互いの都合または外的要因によって、必ず阻止される
・現在のPと事務所の方針により、春香は様々なキャラクターを演じさせられている

他者の物語への影響力を排し、 "ひとりぼっちの春香" はPによってしか救われない、Pと春香は物理的に引き離されなければならない、というテーゼをもっとも純粋な形で表現したのが、本作と言えるでしょう。
この作品にはまた、”外的強制により、『閣下』というキャラクターをアイドルとして演じる春香” ”ニコマスで本意ではない様々なキャラクターを演じなければならない春香” という、これまた連綿たる系譜を持つテーマが入っています。ニコマスでのキャラクターの扱いを嫌悪する気分というものは、原作から入った者と2次創作から入った者の対立、といった形で理解されやすいと思いますが、恐らくそのような単純なものではありません。この記事を書いている私も、ニコマスから入り、ニコマスしか知らなかった人間です。そして私はこの作品に、かつて私がニコマスに対して抱いていたのと酷似した自意識を見ます。私がこの作品に対して抱き続けている感情は、真実の鏡に照らし出された自己の姿を見る人間の感情、のようなものなのでしょう。

さて、まだ読まれている読者諸兄諸姉は、いい加減記事の長さにうんざりされていることと思いますが、私も飽きてきました。ここで3分半の休憩時間を挟んで、後編に続きます。


教訓P アイドルマスター「せかいにひとりだけのはるか」 (09/4/12)


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