ニコマス劇団の精華


やっつけP im@s時代劇スペシャル 必殺お仕置長屋 (11/5/24)


いやあ、いやあ素晴らしい。ただただ素晴らしい。


 ニコマスはそれ自体、アイマスキャラクターという役者が、動画ごとにさまざまな役柄・役割を演じる舞台として捉えられる。なかでも、特に時代劇とのコラボしたノベマスはその出現当初から、アイドルたちが役者として劇中の役柄を演じる、という観念が非常に発達していて、物語中に組み込まれている。
 オヤジオナ・やっつけP両氏の時代劇作品は当初、全部で11人しかいないアイドルが入れ替わり死に替わり、掛け持ちあっていくつもの役をこなす、それでも足りないから社長や小鳥も駆り出す。足りないものだらけの素人劇団的なというか、そういうテイストが濃厚にあった。それはニコマスが本質的に持っている何物かと多分に結びついているので、今のやっつけPの動画の中にも含まれている。
 しかし2年半の歳月は、やっつけPの運営するニコマス劇団に、様々なものをもたらした。出演し続けてきたアイドル達は、ただその台詞を割り振られた立ち絵ではなく、各々「中村主水を演じてきた役者」「念仏の鉄を演じてきた役者」等々としての歴史の厚みが加わった存在となった。劇団の在籍する役者の数も増えた。現実に二枚目三枚目女形敵役老け役をそれぞれ得意とする役者が分担するように、若手中堅ベテランをミックスして配役のバランスが取られるように、各々が確立したキャラクターと演じてきた役柄の歴史に沿って、動画ごとに配役を分担できるようになった。
 このスペシャル版は、そうしてやっつけPが育成してきた一個の劇団の、一つの集大成であろう。この動画を楽しむ時私達は、その楽しみが、時代劇、あるいは広くドラマや舞台劇を見る楽しみそのものの凝縮であることに気づく。

 なんといっても、この動画において主演女優賞に輝くにふさわしい演技をみせたのは、サイネリアこと鈴木彩音である。サイネリアを主役たらしめたことによって、この動画は一際傑作と成り得た、と言える。
 サイネリアは、旧来のシリーズで主役級だった765プロアイドルに比べ、単にやっつけP作品の中で登場が新しく大役を演じる機会が少なかったにとどまらず、ニコマスの中で積み上げられた歴史・文脈もまた少なく、原作における情報も限られている。それは、ニコマスの役者として、サイネリアがサイネリアとして認識される範囲を守りながら演じられる幅が765プロアイドルのそれよりずっと狭い、ということでもある。今、ニコマスの春香は、藤田まことに成り切ってしまっても、あるいは原作と全く関係ないキャラクター付けを与えられても、やっぱりこれも春香さんだよね、と言われることが出来るけれど、サイネリアはそうではない。おかしなことに、この動画において、たとえば真や千早がごく伸び伸びと自然に演技をしているのに対して、サイネリアは渾身の力をこめ、自分の演技の引き出しを総動員して鈴木主膳を力演しているように、私には見える。まるで、抜擢された新人俳優そのもののように。
 そして、その抜擢は、役柄の性根と役者の個性とがマッチした、非常に正鵠を射たものであったと思うのだ。理想とする道を外れ、不条理な世の中に屈して押し流され、しかしそれでも曲げられぬ筋がある…、そういうテーゼを持つ等身大のヒーローを体現する俳優として、劇団の中にサイネリアほどふさわしい役者はなかった。サイネリアを選んだことで、貫禄と文脈の厚みに依って説得力を出す春香の中村主水とはまた違ったヒーロー像を見せることに、本作は成功した。クライマックスにおける主膳の殺陣に至る応酬の重みと迫力は、その結実である。

 サイネリア同様、本作において役者としての底力を問われていたのが、天ケ瀬冬馬であり、武田蒼一である。やっつけP作品においてネタキャラとしてキャラクター付けを与えられてきたキャラクターであり、またネタとなることによってしかニコマスに踏みいることを許されなかった存在である彼らが、そうして形作られたキャラクターの中で、どう与えられた役柄を演じてみせるか。
 いわば駆け出し・若手的存在である彼らに任せられた大役がある一方、その周りにベテラン俳優…仕置き人方の千早・真・美希・亜美、敵方の真美・あずさ…を配置し、更にその脇を歌田、軽口、悪徳ら古参の脇役俳優が固める。そんな、劇団一座の配役の妙そのものの面白さ。かてて加えて、春香が、雪歩が、伊織が、次々チョイ役で顔を出すという、スペシャルならではの豪華さ(それは、シリーズを追ってきた視聴者にとって、藤田まことが、緒形拳が、鮎川いずみがチョイ役で居るのを発見した喜びとそっくり同じである)。無論、必殺シリーズへの思い入れと理解を凝縮した最上質のシナリオ、お約束として積み上げられてきた諸々の楽しみ…時事ネタ、メタ発言、役名を覚えない役者(しかし本作に至っては、もはやそれは劇中において突っ込まれることも芝居の流れを阻害することもないほどに自然になっているのだ)等々はあらためて言うまでもない。
 まことにこのスペシャル版は、歴史あるニコマス劇団の精華というべきである。贅沢の限りを尽くした、68分間の夢舞台。





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