「一般人」という視点


kyeP(仮)(kye氏) 【ノベマス】段違い連立方程式【短編】 (11/5/16)


学校の後輩という視点から、やよいの姿を描き出す。しかも全画面表示のサウンドノベル方式かつ立ち絵無し、という形式を生かして仕上げられた独創性。今、ノベマス界の注目を集めつつある動画ですね。
kye氏の過去作については「SFM@STER」特集で簡単に触れたので繰り返しませんが、毎回毎回着眼点が個性的で雰囲気ある、面白い作品を作ってこられるのですが、ちょっと不思議なくらいの埋もれ方をしている作者です。
ちょっと脱線します。まず、再生数は伸びない時は伸びないものなのですが、なんというか、コメントがわっと寄り付くタイプでない方っているんですよね。時々ノベマスPで、自分の動画のコメント数が伸びないことを苦にする方を見かけるのですが、クオリティの問題でなくて、作者・動画の個性としてそういう雰囲気の人がいて、その結果、場合によっては作者自身が、コメントがつかないことをもって御自分の動画を不当に低く評価してしまったりします。
それはともかく、SFM@STERの時に視聴した、この方の作品、【ノベマス短編】 寄生体の不戦勝 【SFM@STER】(11/1/9)が私は大好きで、この時に一気に大ファンになりました。今作での、「連立方程式」という、一見ロマンティックさやブンガク性とは馴染まなそうな堅い言葉を中心に据えて、見事にそれを物語全体を表象するモチーフとして生かす手法はSFM@STER作品の構成とも相通じ、面目躍如たるものがあると思います。

悪来(仮)氏が、この方の文体に触れられていたので

見る専プロデューサー生活、始めました - ■5/16分の新作紹介

乗っかってみたいと思います。個人的にはkye氏の文体の個性は、にわPあるいは百舌PのタイプのSS的な文体の書き手とは、ちょっと違うかなと思っています。
理系的文系的という区分けは大嫌いなのですが、たとえばにわPの文体は、叙情的で比喩的で絵画的な、薄絹のように洗練していこうとする指向があると思っていて、それに対してkye氏の文体はより漢語的で硬質な表現、比喩や論理を見せる時に絹にくるむのではなく金属質の肌を見せてくると。そんなイメージを持っていて、そこらへんがSFへの傾倒の強い氏の個性なのかな、と思っています。最近私が見たノベマスPだと、耳噛みPと近い感触があります。
で、百舌Pの作品とこの動画が似ているのは、文体というより、アイドルたちがすぐそこで生生しい存在感を持って居るにも関わらず、決してそこには手が届かない。そんな視点の置き方、距離の描き出し方の部分かな、と思ったり。まあ、戯れ言ですけれども。


ところで、この動画について胡桃坂氏が、一般人視点からアイドルの学園生活を描く作品がもっとないかな、という話をされていて、ああ確かにあまり思いあたらないな、と。事務所内のプロデューサーじゃない人視点(事務員、バイト、営業等)、人間じゃないもの視点(猫、ぬいぐるみ、べろちょろ等)、事務所外だけど一般人じゃない人視点(吉永さんとか新堂さんとか)なんかはわりとすぐに思い当たりますが、一般人、それも学園生活となるとなかなか出てこないな、と感じまして。
そんなわけで、一般人視点と思えるノベマス(学園生活という条件はきついので外して)を思いつくだけ並べてみました。うーん、思い出せないか私が知らないだけで、まだまだありそうなんですけどねえ。




しゃらんらP Somewhere in the sky  (08/11/15)
 

このテーマでは外せない動画。そのものズバリ、級友の視点から、学校生活の中で見える千早の姿を描き出した作品ですね。しゃらんらPはノベマスに限らず、というよりサブジャンルの枠に囚われずに発想豊かな動画を作っている方で、有名なところでは【体育祭】オクラホマミキサーdeアイドルマスター【踊りm@s】(08/11/8)があります。ノベマスに分類される動画でも、点数は少ないものの大変独創的な視点・手法を用いられています。
本作も、黒基調の背景の中に、文字と実写加工の背景を分散して配置し、さらに千早の立ち絵は途中まで全て後ろ姿のみ、という当時としては非常に斬新な画面構成でした。「そっと評価されるべき」「千早ファンの秘境」というタグが、ぴったり似合う雰囲気の佳品です。

愛識P 【アイマスMAD】ひびき渡る 第1話 (08/7/27~09/10/10完結?)
 

学園生活とはこれっぽっちも関係ありませんが、プロデューサーでもなんでもない男の子が少女と出会う、という意味ではまさに一般人視点の物語ですね。断続的に連載される中でいろんな表情を見せた、愛識Pらしすぎる複雑さを持つシリーズなので、だんだん視点人物のポジションもアイドルとの関係性も一般人的ではなくなっていきますが。とにかくファーストコンタクトのこの時点では、等身大の少年が少女に出会う、ニコマスにこれ以上ないくらい青春してるボーイ・ミーツ・ガール、なのです。
まあこのシリーズは、「ひびき」という一枚の捏造立ち絵がSPのキャラクター「我那覇響」になっていくニコマスの歴史そのものを映していたり、一人のPが響というアイドルに惚れ込んでいく軌跡だったり(と断定していいよね)いろいろ興味深い部分はありますが、まずは何より、青春大爆発のボーイ・ミーツ・ガールであると。

ドワオP 【NovelsM@ster】春香さんが入院するようです1 (09/7/13~7/30完結)
 

まずこれは視点人物が春香なので、二重に条件から外れていますが、一般人とアイドルがアイドルしてない時の姿の出会い、ということで入れました。春香さんがパンダな春香動画はありますが、春香さん以外がパンダな春香動画は多分他にないですしね。

ショートP(忍者氏)【NovelsM@ster】ショート×ショート「会うことができない窓」 (09/11/3) 
 

【NovelsM@ster】ショート×ショート「始まりは些細なこと」 (09/11/6)
 

ショートP(というタグは一部の動画にしかついていないので、御本人が名乗った名前では無い可能性がありますが、便宜上そう呼びます)は、09/11/2に【NovelsM@ster】ショート×ショート「幸せ料理って」でデビューされて、「日常の一片を切り取り、ほっと心温まる短い物語に」というテーマで2~3分のポエム的な短編連作「【NovelsM@ster】ショート×ショート」シリーズ (09/11/2~11/16連載中断)を連載されていた方です。
一作につき一人のアイドルが出演して、日常の何気なくも心温まるようなエピソードを描かれているのですが、9作のうち美希・あずささんの上記2作が、一般人の視点から彼女たちの姿を捉えたものとなっています。元々この方は、アイマスと関係なく「ショート×ショート」と題した文章をブログで綴られていたようで、結局9作目を投稿した後、アイマス動画を離れてブログ活動に戻られました。時期と流れ次第でもっと見られる動画になっていたんじゃないかなあ、と想像すると惜しいものがあります。

おぱマP 旧校舎の思ひ出 第1話「世界」 (10/6/19~6/28完結)
 

これも視点人物は千早ですが、千早がアイドルになる前の学園生活を描く物語です。旧校舎という学校の中の空間、そして一般人である用務員との出会い・交流が物語の核となっています。千早の学園生活が描かれる作品は他にもいくつか例がありますが、学校でも孤立しているイメージが強い千早で、逆に学園生活に光を当てる作品が多く生まれるのは興味深いですね。

さそP 11歳、いじめられていました 上編 (10/7/17~7/20完結)
 

今千早のことを書いていて思い出しました。真がかつて学校でいじめられていた、というエピソードに光を当てたさそPの本作も、同じ流れにあると言えるかもしれません。逆に、友達が多い描写のある春香や美希で、学園生活を描く動画をあまり思い当たらないのは、不思議と言えば不思議ですし、納得がいくといえば納得がいくようでもあり、面白いと思います。

HDKPPP 【アイドルマスター】 「初恋」 0話前半 【NovelsM@ster】 (10/8/15~10/10/12完結)
 

谷山君は、れっきとしたDSの登場人物ではありますが、アイドルとは関わりのない涼のクラスメイト、という立場は紛れもなく一般人。谷山君にとって、級友であり、アイドルであり、女装という秘密を隠しており、そして片思いの相手である、という、とても近くてとても遠い複雑な存在である秋月涼。谷山君の目に映る涼の姿、激しく揺れ動く谷山君の心理を、繊細に描き出した作品。
谷山君だけでなく、たとえば真コミュの登場人物である敬介に注目するノベマスなども、徐々に現れてきていますが、こうした公式のアイドル周辺の一般人たちにも、今後一層スポットが当たっていくのかもしれませんね。

リブルP 【アイマス】 夏目とあずささん 【友人帳】 (10/11/25)
 

『夏目友人帳』とのコラボ作品。視点人物が友人帳側の夏目なので、アイドルが日常と非日常の境界に迷い込んでくる話でありながら、また芸能界と関係ない一般人の目に映るアイドルを描く物語である、という二重性が独特の味わいがある作品です。リブルPは1月以来しばらく投稿が途絶えていますが、この方の作品はいつもあたたかみある視線で書かれていて、ほっとしながら楽しめます。

ニゴリP たるき亭営業日誌 一品目「おにぎり」 (10/6/15~連載中)
 

たるき亭の主人、という視点人物から、プロデューサーが見るのとはちょっと違うアイドルたちの姿を描く本作も、一般人視点の物語の一つ、と言えるでしょう。もっとも本作の場合は、単に視点人物が一般人かどうかということよりも、「たるき亭」という店にアイドルが訪れて、店との交流によってアイドルが自分の問題を解決し、またアイドル生活に戻っていく、という場・シチュエーションの持つ意味がより重要と言えるかもしれません。
そうしたテーマの作品は、カフェPの カフェ「梓」へようこそ(09/5/3~09/11/29連載中断)あたりに始まって、ノベマス史上に一つの流れを作っているように思います。カフェPから取って「喫茶店もの」とでも呼びましょうか。店でなくとも、水瀬家の晩餐という場、食事という媒介を通じてアイドル達が交流し問題解決していく、モテナシ・マリーナPの水瀬伊織の食卓 (10/6/25~連載中)シリーズなども、その流れを汲むものと言えるでしょう。

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一般人とプロデューサー

 連日更新お疲れ様です。先の春香さんの歌に関する一大考察、興味深く拝見いたしました。長年のもやもやを晴らすまさに快刀乱麻の記事でした。


 今回のkye氏の作品ですが、私はあやうく見逃す寸前でした。ノベマスでは比較的僅少な正統派サウンドノベル作品、しかも一般人の視点から描いたレアな作品ということで、見逃さなくて良かったと安堵しているところです。
 やよいは時に応じて、姉or妹、母or娘、先輩or後輩のような両極的な「女の子の顔」を見せるお嬢さんですが、彼女自身は極めて素直な性格をしており、それが一種独特なやよいの魅力となっているように思います。
 kye氏作品のやよいも、最初は主人公とどちらが後輩かわからないような描写で登場しながらも、物語が進むにつれて先輩あるいはお姉ちゃんとしての顔を魅せたりと、多彩な表情を見せてくれました。そんな彼女の姿を、身近な「一般人」の目で描く切り口に、本作の妙所を感じます。


 一般人目線から描いたノベマスは本当に少ないですね。この記事であげられている作品の中でも、しゃらんらPの作品は全く未知の作品でしたが、非常に素晴らしいものでした。紹介してくださってありがとうございます。
 このジャンルで私から推薦したいのは、おしるPの「水瀬家のお嬢様(sm10837552)」でしょうか。あとはノベではありませんが、りよ。さんの「星井美希 ある少年の風景。(Pixiv: ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=4149952)」などは一般人目線物の最高傑作だと思います。

 一般人目線で描かれた作品には、アイドルとの「決して届かない距離感」が描写されていることが多く、それが物語の味として作用していますね。そんな高嶺の華のアイドル達も、「プロデューサー」という立場だとあっさり手が届いてしまう。それだけアイドルマスターにおいてプロデューサーという設定は絶対的な力を持っているのだと、私は思います。

一般人視線の魅力、プロデューサー視線の魅力

NPさん、コメントありがとうございます! 
例の歌の記事に反応をいただきまして、本当にありがとうございます。後ほどそちらにも伺わせていただきたく思います。NPさんのように、私のだらだらとした記事を丁寧に読み込んでくださる方が、ニコマスブログ界隈にはたくさんいらっしゃいますので、嬉しくもあり、怖くもあります(笑)。

kye氏の作品は今まで、本当にうっかりすると見逃してしまうくらい埋もれていたので、こういう方がノベマス界の中にゴロゴロいるということは嬉しくもあり、また複雑な気持ちもしますね。

なるほど、確かにやよいは姉の顔と妹の顔をはじめ、対称的な姿を多く持ち合わせていますが、しかしやよい自身の本当に素直でまっすぐな心は、いつでも変わりませんね。そこがやよいの魅力の一つの鍵なのかもしれません。前に書きましたように、やよいについてはまだわからないことがたくさんあるので、大変貴重な視点を教えていただけまして、とても喜んでおります。

しゃらんらPにここで触れられたのは、私の功績というよりも、08年に、この作品のように時流にそぐわずとも唯一無二の輝きをもったノベマスをたくさん教えてくれた、愛識Pのマイリス・ブログの功績というべきでしょう。愛識Pの紹介活動は、独創的な個性に満ちた動画の、その独創の輝きの部分を見逃さず、そして的確に言葉にするということを終始一貫して行なわれていて、本当に素晴らしいものでした。

おしるPの作品は、伊織ノベマスの話の準備をする時に見直していたのですが、お恥ずかしいことに全く失念しておりました。自分の至らなさを痛感するばかりです。ご紹介ありがとうございます。

りよ。氏の作品は、おかげ様で初めて読ませていただきました。素敵な作品ですね。
主人公と、主人公の目に映る美希の描写も、一般人視点で捉えるアイドルの魅力と関係をあますところなく捉えていて勿論素晴らしいのですが、それだけでなく、前半に登場する主人公の級友の描写が、美希に対する、物語の語り手が持つ視点とは違う、ある意味より「一般」人的な立ち位置を提示していて、物語をとても立体的にしていると感じました。

ガルシアPが、SSでは一般人視点の物語も多く書かれているとおっしゃっていましたが、ニコマスだけでなくアイマス2次創作全体により広いアンテナを広げられると、また違った世界が見えてくるのでしょうね。なかなかそこまでは手が回らないのですが…。とにかく、素晴らしい作品をご紹介くださいまして、ありがとうございました。

おっしゃる通り、ニコマス作品において「プロデューサー」という立場がアイドルに対して持つ力は、よくも悪くも絶対的です。逆にそのことが、一般人視点の物語において「決して届かない距離感」を強調させやすくなっている面もあるのかもしれません。
一方で、そうした「プロデューサー」という存在の特殊さが非常に多くのニコマス作品の特徴的な魅力の要因となっている面もあり、優れたノベマス作品には、プロデューサーの描き方、アイドルとの関係性・距離感の置き方に特徴的な工夫が凝らされたものが多いと感じます。いずれにしろ、アイドルの多様な魅力を様々な視点から描き出す物語が、今後も増えていってくれればいいな、と楽しみにしています。

では、示唆に富んだ言葉の数々、本当にありがとうございました!

今更ですが……

いや、もう本当に今更なんですが、新作投稿ついでにみてれぅ確認したらこんないい記事に取り上げて頂けていたようで、本当にありがとうございます。

元々、「たるき亭営業日誌」を作り始めたのはアイマスが好きだったから、料理が好きだったから、そしてアイドルでもPでもない第三者の視点からのノベマスを作ってみたいという思いからでした。
ですから、「たるき亭営業日誌」の大切な部分をしっかりと取り上げて頂いて、本当に嬉しく思います。

残すアイドルはあと僅か。
あと少しだけお付き合い下さい。

Re: 今更ですが……

ニゴリP、いらっしゃいませ!
「たるき亭営業日誌」、毎回楽しく拝見しております。
こちらこそ、過去記事にまでわざわざコメントをいただきまして、大変幸せに思います。

「たるき亭営業日誌」はどこの箇所をとっても、ご自身でおっしゃっている「好き」という気持ちがこちらに伝わってくるあたたかい眼差しで描かれていて、それが見ている視聴者にとっても心の拠り所と感じられるような「たるき亭」の空気を作り出しているんだな、と思います。
ノベマスでPとアイドル以外の第三者の視点を語るにあたって、このような作品に触れることが出来る、というのはとても幸せなことだと、記事を書いていて改めて思いました。

では、コメント、本当にありがとうございました。
今後とも楽しみにしております。



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