Violists in 『THE IDOLM@STER』: Singing For You 


散髪屋P アイドルマスター ビオラは歌う/槇原敬之


上記の動画を見て連想した、あまりニコマスと関係ない話を少々、ただし長々と。
動画については、最後の方でちょびっと触れるだけです。



 ヴィオラジョーク、というものがあります。

 集団の中で、特定のキャラクターの愚鈍・のろま・非常識といった側面を強調して皮肉る(または自虐する)ジョークはあらゆるジャンルに存在しますが、オーケストラという業界においても例外ではないようです。
 演奏技術の拙劣さや奏者のバカさをネタにした自虐的なジョークは各楽器に存在するようですが、オーケストラにおいて、そういったジョークがもっともまとまって知られているのが、ヴィオラという楽器なんですね。たとえば国ジョークにおけるイタリア、のようなポジションなのだろうと思います。

 都市伝説とかコピペネタとして日本で広まっているものも、元をたどれば伝統的なジョークであることはよくありますが、特にオーケストラは欧米由来の文化ですから、欧米とりわけドイツ語圏に多くの音楽ジョークが存在するようです。幸いにして、Jeff Biglerという人が集めた英文の楽器ジョークを翻訳したサイト、

戸谷玄のヴィオラ空間

によって、日本語でその世界を手軽に楽しむ事が出来ます。
いくつか、同サイトで訳されているヴィオラジョークを引用したいと思います。
(原文は英文ジョークの直訳なので、日本語のギャグとしてわかりやすいよう文をいじりました)

・技術の拙劣さ、とりわけ音程の悪さをネタにしたもの

①Q. 稲妻とヴィオリストの指の類似点は?
 A. 一度来た所と同じ場所には、2度と落ちません。

ヴィオラ奏者は一度出した音と同じ音程は2度と出せない、という皮肉。いわゆる「音程が来い」「ズコー」ネタですね。

②Q.  何故あのヴィオリストの音程が外れているとわかったんだい?
 A. 彼の弓が動いていたからさ。

③Q. デジタル録音だとヴィオラの音が全然聞こえないんだって? 何故なんだい?
 A. 技術が進歩したから、ノイズは全部カットできるようになったんだよ。

これも「音程が来い」ネタであり、「いらない子」ネタっぽくもある。滅多にメロディーを弾かず、目立たない楽器だから成り立つジョークで、「ヴァイオリンの音が聞こえない」「トランペットの音が聞こえない」ではジョークになりません。

・楽器の特性、オーケストラでの役割等に基づいたネタ

④Q. ヴァイオリンの曲をヴィオラ用に書き換える方法は?
 A.  テンポを2倍ゆっくりにすればいいのです。

⑤Q. ヴィオリストにピアニッシモ・トレモランド(翻訳者原注:最弱奏で細かく震えるように)で演奏させるには?
 A. 楽譜のその部分に"solo"と書いておきます。

ヴィオラがソロを弾くことなんて滅多にないから、「ソロ」と書いてあるだけで緊張してこうなってしまうだろう、ということ。

・目立たない事をネタにしたもの

⑥Q. 何故ヴィオラ奏者は隠れんぼをして遊ばないのでしょう?
 A. 誰も探しにきてくれないからです。

⑦Q. ヴァイオリンを盗まれないようにするには?
 A. ヴィオラのケースに入れておきます。

・オーケストラ奏者のやる気のなさを皮肉るネタ
これらはヴィオラ以外の弦楽器でも成立しますが、それがヴィオラ奏者のネタになってしまうのが、ヴィオラのポジションなんですね。

⑧ヴィオリストとチェリストが、沈没しつつある船の甲板上にいました。
チェリスト "助けてくれ。わたしは泳げないんだ!"
ヴィオリスト "大丈夫大丈夫。泳げるフリをすれば大丈夫。"

「プロのオーケストラは演奏が上手いのではない。演奏しているフリが上手いのだ」という冗談も聞いたことがあります。

⑨あるヴィオリストが定年を迎え、ヴィオラケースを携えて帰宅しました。
 妻はそれを見て一言。"まあ、それは何?"

Jeff Bigler氏の原注によると、ドイツには実際に、楽器をロッカーに入れっぱなしにして家に持ち帰らず、リハーサルや本番の時だけ取り出す奏者がいるそうです。

・「愚鈍な人」ネタ

⑩あるヴィオラ奏者は、練習が始まる時、毎回必ずジャケットの内側を覗き込みます。
ある日彼がジャケットを脱いで置いていったので、こっそり中を覗いたら、こう書かれたメモが貼ってありました。"ヴィオラは左手、弓は右手に持つこと"

馬鹿な人、のろまな人を笑う定番ジョークのヴィオラバージョンがいろいろあります。

⑪BBC交響楽団入団試験--ヴィオラ奏者用
1.以下の曲の作曲者を答えなさい。
a) ベートーベン の交響曲第6番  b) フォーレのレクイエム   c) ワグナーの指環

4.あなたなら以下のどの楽器を、あごの下に挟むか答えなさい。
a) ティンパニ  b) オルガン  c) チェロ  d) ヴィオラ

9.演奏中、指揮者は普通どこにいるか答えなさい。

「愚鈍なヴィオラ奏者」ネタの集大成とも言える、「BBC交響楽団入団試験」から抜粋。

・「ジョークにされるヴィオラ」自体をネタにするジョーク

⑫あるヴィオラ奏者は、もうヴィオラ奏者であることに辟易していました。真価が認められることがなく、バカバカしいジョークでバカにされるばかり。そこで、 彼は楽器を転向することにしました。
ヴィオラ奏者 "すみません。ヴァイオリンが欲しいんですが....。"
店員     "あなた、ヴィオラ奏者ですね。"
ヴィオラ奏者 "ええ、そうです。でも、どうして判ったんですか?"
店員     "旦那、ここはフィッシュアンドチップスの店ですよ。"

⑬テロリストが、ヴィオリストで満員の飛行機をハイジャックしました。彼らは 管制塔に連絡をとり、要求が受け入れられない場合は、1時間に1人ずつヴィオリストを解放すると脅迫しました。

「春香(中村先生)で満員の飛行機をハイジャックして、要求が受け入れられない場合は1時間に1人ずつ解放して大腸のジェラシーを歌わせる、と脅迫した」と読み替えると、ニコマス的にはわかりやすいかもしれません。


 さて、何故こうしたジョークが形成されるに至ったのか。
 ヴィオラという楽器の特性について、いろんな人が書いている楽器入門の類の子引き孫引きを寄せ集めて、適当に説明してみます。

 ヴィオラは、誰でも知っているヴァイオリンとそっくりの形状をした、ヴァイオリンよりやや大きく、少し低い音が出る楽器です。この「そっくりだけどやや大きい」というところが、一つのポイントです。弦楽器類の大きさは規格が大体決まっていて、ヴァイオリンは胴体の長さが35.5cm、チェロは75cmだそうですが、ヴィオラは38~45cm程度と、かなりの幅があります。

 ヴィオラが出せる一番低い音は「ド」(「ハ」「C3」などと呼ばれる音、wikipedia「音名・階名表記」より、「オクターブ表記」の項参照)で、これはヴァイオリンの一番低い音である「ソ」(「ト」「G3」)より5度低い音です。

 理論的に、ヴァイオリンを基準に、ヴァイオリンと同じ特性で5度低い音が出る楽器を想定すると、ヴァイオリンの大きさの1.5倍、すなわち胴体の長さ53cmくらいが適切な大きさとなります。ところが現実のヴィオラの大きさは40cm前後が一般的。これは、あごの下に挟んで弾かなければならないという演奏の都合上、普通の人間があごの下にはさめる大きさくらいに楽器の形状が落ち着いてきたため、と言われています。

 このように、ヴァイオリンと比較した時に、楽器の大きさに比例しない低すぎる音を出していることが、音の立ち上がりが遅く、楽器が鳴りにくく、しかし渋くて落ち着いた独特の音色を持つ、というヴィオラの楽器特性を生んでいるそうです。

 このヴィオラの大きさは、ヴィオラ奏者になる人の傾向にも影響します。

 大きくて持ちにくいヴィオラは子供が弾くのには不向きですから、多くの場合ヴィオラ奏者はまずヴァイオリンを習い、ある時期からヴィオラに転向することになります。
 そして、必ずしもその全員が、初めから望んでヴィオラに転向するわけではありません。プロの場合なら音楽学校を受験する時に、倍率の高いヴァイオリンで受からなかった人がやむを得ず転向する、ということが起こります。アマチュアや部活の場合でも、ヴァイオリンの希望者が多すぎてあぶれた人がヴィオラに回る、もしくはヴァイオリンは経験者ばかりで隣のヴィオラは初心者ばかり、といったことが往々にして起こります。

 この結果、ヴァイオリンに求められる種類の超絶技巧を、比較的苦手とする奏者がヴィオラに集まりやすい、ということが言えそうです。④の「ヴァイオリンよりテンポをゆっくりにすればいい」というジョークは、音の立ち上がりが遅くて鈍い、という楽器特性と、こうしたヴィオラ奏者の傾向を踏まえたものであるわけですね。


 そのようなヴィオラですが、楽器として魅力がない、ということでは全くありません。やりやすいかどうかはともかく、構造上ヴァイオリンに出来る技巧は全部同じように出来ますし、ヴァイオリンには出せない独自の魅力的な音を出すことができます。後述する茂木大輔『オーケストラ楽器別人間学』にも、ソロの演奏を聴くとこんな凄いことが出来る楽器なのかと驚く、という一節があります。
 単独の楽器としては余裕でセンターを張れる力があるわけですが、オーケストラという集団の中では、ヴィオラは華やかな主役のポジションに立つことはまずありません。

 オーケストラ曲におけるヴィオラの代表的な役割は、リズム打ち・内声の2大地味労働に、対旋律を加えた3つです。内声や対旋律という音楽用語を私の知識で説明するのは無理がありますが、これもごく適当にやってしまいましょう。

 まずリズム打ち。特に、いわゆる「刻み」や「裏打ち」の仕事。他の楽器が朗々とメロディーを歌っている時に、タッタッタッタッとかタタタタタタタタとかスチャスチャスチャスチャとか、細かい単調な音符を延々と打ち続けてリズムを提示する、リズムセクションの役割をヴィオラはしばしば担います。

 次に内声。メロディでも伴奏でもなく、その中間にあって音に厚みを加える役割、といったところでしょうか。極めて単純化して言えば、3人で「ド」・「ミ」・「ソ」という音を出して和音を作るとしたら、真ん中の「ミ」の音を出すことが、ヴィオラに真っ先に求められる役割になります。この真ん中の音がどんな音程であるかによって、和音全体が明るいのか悲しいのかといった性格が決まってきますから、非常に微妙で繊細な音程の調節を行なうことが期待されます。このあたりも、ジョークにおいて「ヴィオラ奏者の音程」が重要なテーマになる一因かもしれません。

 最後に対旋律。ヴィオラが、主役のメロディを単独で弾くことは、特に古典的な時代にはまずあり得ません。時代が下っていっても、ヴァイオリンやチェロと一緒にであったり、いろんな楽器がメロディを受け渡していく中でのごく一瞬であったりで、とても珍しいことなのです。そのかわりにヴィオラがしばしば受け持つのが、対旋律です。主役のメロディに対して合いの手を入れたり絡んだりするように動いて、メロディの美しさ面白さを高める脇役の役割、といったところでしょうか。


 以上のように、地味ながら、非常に重要な脇役のポジションを担っているのがオーケストラにおけるヴィオラです。おわかりのように、このようなヴィオラの諸性質は、ジョークの中に色濃く反映され、しかしネタ化された性質が一人歩きしていって、「ジョークの中でのヴィオラ奏者」のキャラクターが形成されているのです。春香の芸人ポジション・真の男キャラ・半角スペースさん等々の、ニコマスにおけるキャラクター形成と似たようなものですね。

 より詳細なヴィオラジョークの考察については、先述のサイトで、 Carl Rahkonenという人 が発表した「音楽家の間での口頭伝承としてのヴィオラジョーク」なる論文の翻訳も掲載されているので、興味のある方はどうぞ。

論文:Violajokeについて


 こうして文章で書いても、馴染みがない方にはイメージが湧かないと思います。オーケストラにおけるヴィオラの役割について、視覚的にとてもわかりやすい紹介動画がニコニコ動画に上げられているので、紹介しておきます。

ktaicho氏 よくわかるオーケストラ/5-1.弦楽器のポイント(総論)


 最初にヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの写真が並んで紹介された後、オーケストラで弦楽器が演奏している時の様々なパターンがまとめられています。各楽器の楽譜を縦に並べた、いわゆるスコアを表示して解説されていますが、特に最初の方に出てくる例を見ると、内容がわからなくても、明らかにヴィオラだけが他の楽器と違う仕事をしているのが一目瞭然だと思います。

 もう一つ、今度は聴覚的に、オーケストラにおけるヴィオラの魅力を体感できる例を。

ktaicho氏 クラシック完全解読/3-4.ブラームス交響曲第1番第4楽章


 ブラームス交響曲第1番第4楽章の、作曲技法の講座。私もここで解説されている内容はほとんどチンプンカンプンですが(汗)、注目したいのは、この動画の中の4:37から5:11にかけて。この曲屈指の有名なメロディが出現するシーンですが、同時にオーケストラの中のヴィオラを紹介する時に必ず引き合いに出される、ヴィオラの魅力全開の美しい対旋律が奏でられているシーンでもあります。

 特にわかりやすいのは、4:55からの10秒ほど。2本のメロディが同時に鳴っているのが、はっきり聴き取れると思います。その内の、レーミファミーレーレーミファミーレーという奴が、ヴァイオリンが弾いている主役のメロディです。同時に聞こえる、より低い音の、ゆっくりと下に降りていくようなメロディが、ヴィオラによる対旋律です。ここはできれば、ヴァイオリンのパートだけを聴いた後に、ヴィオラと合わせた状態を聴いて比べてみたいところです。子供向けの音楽教室等でヴィオラを紹介する時などの定番のやり方のようで、私も聴いたことがありますが、本当にヴィオラが無い時とある時で、メロディの豊かさが全然違います。

 決して主役ではなく、しかしそこにヴィオラがあることで何倍にも主役が輝く、という存在。ニコ動でそういう弾き比べをやった動画はないように思いますが、「弾いてみた」の方で誰かそういう比較動画、上げてくれたらいいなあ、とか思います。
 

 また、オーケストラ楽器の特性や音楽上の役割と奏者のキャラクター性の関係については、楽しくわかりやすく知ることができる、プロの手になる名著が存在します。
茂木大輔著『オーケストラ楽器別人間学』(草思社,1996 文庫版新潮社,2002)がそれですが、私の文章を読むよりこちらを引用した方がずっとわかりやすいので、ヴィオラ奏者のキャラクター性を描いている部分を抜粋して引用しておきます。

 まずは音色について。
「しぶく、深みのある暖かい音色は、奏者に包容力、余裕、寛容といった人間的に愛すべき性格をもたらす。音量はヴァイオリンよりも一段劣り、発音もやや鈍いが、一方ではヴァイオリンよりも長い残響、太い音、大きな共鳴性などをもっている。」

 次に、ヴァイオリンから転向する奏者が多いことについて。
「乗用車ばかりを乗り回していた人間が、小型トラックに乗りはじめた状態を想像してほしい。(中略)ヴァイオリン奏者との比較で言えば、(中略)やや大ざっぱで、競争心などの少ない、温暖な性格」が形成されやすい、としています。

 最後に合奏上の機能について。
「西洋音楽の形式は、つまるところ伴奏(バス)の上にメロディがあるというかたちに集約される。したがって、ヴィオラに代表される中音内声楽器のパートは、あえて誤解をおそれず極論すれば、『無くてもなんとか済むもの』であると言える。(中略)合奏のほとんどを単調な、一構成部分として演奏しつづける現実は、奏者を気長で、忍耐強い性格に育てあげる。一方、ヴィオラにはヴィオラの非常に素晴らしい音色があり、それを期待して作曲された作品(中略)も、少ないとはいえ存在している。(中略)それがまた、ヴィオラ奏者にある種の余裕と、単調な作業のなかに起こる微妙な変化を楽しもうとする好奇心、自分の出番まで待ってやろうという役割意識を植えつける。」


ここで、先程触れなかった、ちょっと意味深なヴィオラジョークを、いくつか書いておきます。

⑭Q. お湯につかっている一群のヴィオリストを例えて言うなら?
 A. 野菜スープ。

これが他の楽器だと、たとえば「肉しか入ってないスープ」や「調味料しか入っていないスープ」になったりする、ということなんだと思います。

⑮Q. ヴィオラを演奏することはパンツにおしっこを漏らすことに似ていると言いますが、何故?
 A. どちらも、音を立てることなく、えも言われぬ暖かい感じがするからです。

下ネタですが。

⑯BBCラジオのラジオプレゼンターは、有名な作曲家エリック・コーツの曲を紹介する際、このように言いました。
"エリック・コーツは、ただひたすらに楽しい音楽を書くことを望んでいました。しかし、しばらくの間、彼はヴィオラ奏者として生計を立てざるを得ませんでした。"

ヴィオラ奏者の仕事は「楽しい音楽」ではないという意味に解釈できる、という話ですが、そういう意味にとっても、必ずしも冗談ごとにはならない言葉です。オーケストラは、「楽しい音楽」を奏でるもの。でも、ヴィオラ奏者がやっている仕事は、「楽しい音楽」ではない。では、彼らは何をしていて、それは何のためなのでしょう?

では、いよいよ最後。私が一番好きなヴィオラジョークです。

⑰Q. 何故ヴィオリストは、演奏する時微笑んでいるのでしょう?
 A. 無知なるが故の幸せ。自分たちが何をやっているか判っていないのです。

おそらく、ジョークとしてのこの文の意味からはかけ離れた解釈で、私はこの言葉を捉えていますが、なぜこの言葉が好きか説明するには、もう一つ、一番好きな楽器ジョークに触れなければなりません。

番外:コントラバスジョーク
コントラバス奏者Aが「カルメン」の公演に出るというので、友人のコントラバス奏者Bが公演を見に行った。
コントラバス奏者A ”公演はどうだったかい?"
コントラバス奏者B ”凄かったよ。曲がブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ってなるところがあるだろう。あれが最高だった! その時、舞台では闘牛士の素晴らしい歌を歌っている奴らがいたなあ。"

誰がいつ作ったとも知れないジョークでありながら、しかしこの内容はまったく絵空事ではありません。私の友人にコントラバス演奏を趣味にしている奇特な(失礼!)人がいますが、彼がコンサートやオペラを聴きにいった感想を語り出すと、本当にこんな感じなのです。

 みんなの目が舞台の闘牛士に釘付けになっている時に、片隅で鳴っているブーン、ブーンという地鳴りの如き低音に聴き惚れ、それこそがもっとも輝かしい仕事であると感じている人が、その地鳴りを響かせている。あるいは、聴こえない、目立たない、楽しくない単調な仕事を、幸せに微笑みながらやっている人がいる。

 傍目には「自分たちが何をやっているか判っていない」、真実は「自分たちが何をやっているか」誰よりも理解している人達が、音楽を形作るのです。


 長々と書いてきましたが、ようやく、最初に貼った動画に触れます。
 改めて。

散髪屋P 「アイドルマスター ビオラは歌う/槇原敬之」


冒頭の歌詞。

「ビオラが居なくてもきっと何も変わらないさ そうみんなで笑い 先に始まった練習」

これは、ヴィオラジョークで冗談にされるような、あるいは茂木氏が文章化したような、オーケストラの中のヴィオラ、という一つのキャラクターを踏まえた歌であることがわかります。

「でも なぜかいつものように調子が出なくて」

ヴィオラがいないからと言って、演奏が不可能な訳ではない、はず。
でも何故か、いつもみたいにうまくいかない。

「遅れてきたビオラ達の慌てる足音に」

ようやく登場したヴィオラ奏者たち。どことなくユーモラスな風景です。
ここで登場するヴィオラ奏者の役を、美希・千早・春香に振っているのが、この動画の面白いところです。

蛇足ながら、この「遅れてきた~」のフレーズ(動画の0:38~0:47)と一緒に聴こえる伸ばした音は、ヴィオラの対旋律らしい雰囲気を感じられる部分だと思います。もう少し厚みと響きのある音だったら、なお良かったと思うのですが。
この音色を憶えて後の方まで追いかけてみると、ちょっと面白いかもしれません。「ζ*'ヮ')ζ<ビオラソロ、かも~ん!」な間奏部(1:32~2:06)だけ仕事をしているわけじゃないんですね。欲を言えば、刻みや和音作りの仕事も含めてもっと聴かせてくれていたらなお…、注文が多すぎますね(笑)。リズム担当セクションが他にあるから、仕方ありません。

「上にツンとタクトが上がる」

そして、

「さあ みんなそろったもう一度」

やっと、

「そしてオーケストラは高らかに歌い出す」

彼女たちのステージが、幕を開ける。

忘れてはならないのは、「オーケストラが高らかに歌い出」し、「いつもの調子で誰もが素敵な音を奏で」ているこの瞬間も、多分このヴィオラ奏者たちは、決して一緒になって高らかにメロディを歌っているのではなく、もっと地味で、客席からは見えない仕事をしているのです。
だからこの動画で、トリオのダンスが使われるシーンの全てにおいて、美希・千早・春香の3人がセンターに立つことはありません。

アイマスのアイドルたちは、誰もが一人でセンターを張ることができる主役の集まりです。ならば、出演者全員が主役の演技をすれば、素晴らしい舞台が出来上がるでしょうか? 
いいえ。バックダンサーがセンターと同じようにアピールしたところで、凄いパフォーマンスにはなっても、素敵なステージにはなりません。

センターに立ち得るアイドルが、脇に回ってセンターを何倍にも輝かせる。
そして、誰一人欠けてもステージは成り立たない。

それは、オーケストラにおける楽器奏者たちによく似ている、と言えるかもしれません。
一人一人が、音楽で人の心を動かせるプロの集まりで、しかし彼らは一人でパフォーマンスするソリストではなく、全員の中で全員を輝かせるために自分にしか出来ない仕事をするオケマンであるからこそ、オーケストラはオーケストラ足り得るのです。

「目立たないビオラの調べは誰かのための旋律」

「ビオラ」の「調べ」。それは音楽の主役ではなく、彼らが出している音は旋律ではなく。
けれどもそれは、「誰かのための旋律」なのです。

「鳥を空高くへと運ぶ 見えない風のように」
「星を輝かせて見せる 暗い夜空のように」

そして、センターにまばゆいスポットライトがあたるその時、脇で踊るアイドルのように。
あるいは、ステージには立たない誰彼のように。

「目立たないビオラの調べ」を、「誰かのための旋律」を、「みんな」が「頼りにしていた」。
それはきっと、センターに立ち続けてきた彼女たちが、誰よりもよく知っている。

「誰かのために必要な自分になれることで 感じられる幸せがある」

だから、

「ビオラは歌う」

みんなそろって、アイドルマスター。








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非公開コメント

懐かしいネタを拝見しましたw

 久しぶりにお邪魔します、面白い記事でした^^
 ヴィオラの音程云々については、低音の方がチューニングしにくい事情もあり(詳細は割愛^^;)ヴァイオリンと比べて不安定に感じる場面がアマでは多いのもありますね。

 地味な楽器の重要性に関しては、私の体験談を少し。
 高校の吹奏楽部で打楽器パート長をしてた頃、アンサンブルコンテストの曲を私が書いたのですが、サボりがちで退部するんじゃないか、という人に大太鼓のパートを振って、彼が居なくても残り部員だけで演奏が成立する曲に仕上げました。
 で、結局なにか言い争いをして彼が音楽室を後にし、残った部員を集めて「彼抜きでやろう。彼が居なくても演奏出来るように曲は作ってある」と、私も頭カッカしながら宣言して合奏を開始。ところがこれが全然音楽になってなかったんです。
 音階もない、ただ一番低い音で要所要所を下から支えるだけの大太鼓が抜けただけで曲が全く面白くない物となり、演奏が半分も進まないうちに合奏を止めてその日は解散。
 翌日「君が居ないと駄目なんだ」と、すがる様に説き伏せて本番まで仲良く練習を重ねましたとさ――――という昔話でした。

 だから全国のヴィオラさん頑張ってね! ということで、お邪魔しました~~~~^^;

遅くなってすみません

わんたさん、いらっしゃいませ! 
お返事が遅くなりまして、大変申し訳ありません。

>低音の方がチューニングしにくい
ジョークの中にも調弦をネタにしたものがありましたが、なるほど、そういう事情もあるのですね。

>地味な楽器の重要性
大太鼓一つでそこまで変わってしまうとは、普通に全員が揃った演奏を聴いているだけでは想像もつきませんね。地味な楽器の働きの大きさを実感できる、素晴らしいエピソードです。また、だからこそ、やる気や考え方に差異がある人を含めて全員で演奏ができるように持っていく必要もあるわけで、リーダーには重い役割が課せられているのですね。熱意をもってサボりがちな部員を説き伏せた、わんたさんがリーダーであった打楽器パートは、素晴らしい演奏をしていたのだろうな、と想像します。貴重な体験談を教えていただいて、ありがとうございました。

しかし、自分で曲をお書きになられるとは素晴らしい。ニコマスにもいろんな音楽能力をお持ちの方がいらっしゃいますけれども、作曲ができる方というのは、大きな憧れですね。これは、いずれわんたさんによる音楽教養講座を拝見できることを期待してしまいます(笑)。

では、コメント、本当にありがとうございました! むら気な性格なもので、このように返信や更新が滞ってしまうこともありますが、今後ともあたたかく見守っていただければ幸いです。

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