アイドルを殺すのは難しい


 んー、どうなんでしょうねえ、と。
 あ、こちらの動画の話題ですけれども。

sqt氏 アイドルマスター ジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!


ニコマス棚卸 1/17~-続・空から降ってくるので
プリズムルート876:雑談らしきもの110129
ニコマス棚卸 1/28~-続・空から降ってくるので

※以下の文章は、上記の動画と記事を視聴済みであることを前提に書いたものです。



 これがどういう動画だったかという認識のところは、カズマさんやペンタPが分析されている通りだと思うわけです。

・最後に「これはギャグですよ」と示す何かが存在すれば何の抵抗感もなくなっていたであろう
・初期どきゆりPの手法との類似
・2作目の方が作り込み、まとまり方の点で上である

 で、あの最後のシーンの衝撃は、あの絵が目に飛びこんできた瞬間に、それまでの笑いだとか雰囲気だとかが吹き飛ばされて、何のフォローもされずにそのまま放り出されてしまう、というまさにその点にあるんですよね。え、今までギャグだったのに、どうしたらいいの、という困惑。
 多分、本質的にこの動画の衝撃の核をなしているのは、この視聴者を放り出して困惑させる手法にあって、小鳥さんの死体はその道具に過ぎず、しかしこの手法と道具とは密接に結びついています。

 ここがややこしい所で、多くの視聴者は、(どきゆりPの評価に顕著であるように)視聴者を困惑させる手法そのものは、なんというか知的で高度なものとして高く評価していて、一方でアイマスキャラクターが死んだり酷い目にあったりすることには生理的な嫌悪感を強く持っています。かなりの人のこの動画への評価が、凄いと思うんだけど何か引っかかる、という辺りに収斂しているのは、この価値観が広く共有されている証と言えるかもしれません。

 ところが、この動画から嫌悪感を呼び起こす要素だけ取り除いて、今のインパクトが維持し得るかというと、おそらくは無理です。ラストのシーンは非常に微妙なバランスの上に成り立っていて、これ以上ギャグの方に寄せてもギャグを破壊する方に寄せても、成立しなくなるでしょう。カズマさんが「あの微妙なガニ股具合がギリギリの妥協線だろうなあ」と書かれている通りですね。それなら普通にオチをつけて綺麗にまとめていたらどうかと言えば、2作目が示している通りで、ここまでこの動画が強いインパクトを持ち、sqt氏の名前が認知される事にはならなかったんでしょう。

 もう一点ややこしいのは、ではこの動画のインパクトは作者の完璧な計算の元で生み出されたのか、というと多分そうでもない点ですね。これもカズマさんの言葉を借りれば、そこが「超えちゃまずい一線」であることをはっきりと認識しないまま越えてしまって、意図した以上に大きな衝撃を視聴者に与えたのであろう、と。どきゆりPの場合はかなり確信犯的に、「超えちゃまずい一線」が存在する事を意識した上で、そのギリギリのところを探って狙っていたのだと思いますが、多分こちらの場合は、単純にニコマスを作り慣れていないが故にそういう結果が生じた、という要素があるのでしょう。

 まあここまで、カズマさんとペンタPが書かれたことをなぞっただけですが。
 私個人の意見としては、一線を越えようとしても越えられない感性の人が圧倒的多数なんだから、越えられる稀少な感性のある人はバンバン飛び越えちゃった方が面白いんじゃないの、とも思いますが、普通に綺麗なやつを見せてくれてもそれはそれで楽しいので、別にどちらでもよいと思っています。

 どちらでもいいのは、どちらに転んでもやっていける才能のある人だからです。普通の人はそうはいきません。ニコマス視聴者が生理的に受け付けないものを提示したら、拒否されて終わりです。プロディPや過労死Pの動画が存在できているのは、彼らは拒否反応が出るのを百も承知で、自分は一線を越えているけどここから動く気はありませんよ、と発信し続けてきて、だからこそあんたは面白いんだよと支持する層だけが残って動画を見ているからで、P個人のパーソナリティと結びつくことで例外的に成立しているに過ぎません。
 一線を越えるには、視聴者から拒否反応が出るリスクがつきまとうわけですが、技巧でそのリスクと折り合いをつけることができる人は、まあ別にどうとでもなりますよね。


 そんなことを考えていたら、こちらの動画を思い出しました。

31氏 【Novelsm@ster】うちのPはちょっと変。第1話


 前にpickup記事で取り上げた動画で、これがアイマスMAD処女作ですが、実況プレイ動画をたくさん上げてきた人の作品です。主にPと小鳥さんの会話が中心のギャグ系のノベマスなのですが、時々Pの台詞にボイスがついていて、それがガチムチのビリー・へリントンの声なんですね。それから、特に小鳥さんの行動に合わせて、いろんな効果音が頻繁に入る。それが非常に独特の面白さを生んでいると私は感じました。

 ノベマスのギャグというものは、あくまでキャラクターの台詞なり行動によって示されるもので、SEはそれを補助しているに過ぎない、というのが通常の発想だと思いますが、この動画においてはボイスや大げさな効果音が唐突に入ってくること自体がギャグとなっている。ストーリーと映像的な演出と音声が絡み合う妙味。
 その音声の主張の強さが面白いなあ、と感じたのですが、びっくりしたのはこの音声の扱いに拒否反応を示すコメントがたくさんついていたことで。曰く、SEが合っていない、兄貴ボイスがウザい、ニコ動ネタもウザい。まあ一人で同じ主張を何度も繰り返しているコメもいましたが、一人だけと言うわけでもなく。その後で擁護コメもついたんですけれどね。

 このコメント群による批評において、焦点の一つは兄貴ボイスの使用で、ガチムチへの強い拒否感がある視聴者もまだまだ存在するんだな、ということは一つの発見でしたが、もう一つは音声の使い方全般のことで、未だに私は、このSEの使い方に違和感を覚える感覚がよくわかりません。推定するに、さっき述べた、ノベマスはキャラクターの台詞や行動によって動いていくもので効果音はそれに従属するもの、という観念の元でストーリーを追っていると、音がうるさい、邪魔という感覚になるのかな、と。

 結果として、2話以降作者は動画の説明文に兄貴ボイスを使用しているという断りを入れ、効果音の音量と頻度はより控えめになり、動画はより常識的にノベマスノベマスした動画に近づいて、批判的なコメントは減少していきました。元々映像とストーリーのみで鑑賞に耐え得る作品ではあったわけですが、これがハッピーエンドなのかどうか、私にはよくわかりません。

 sqt氏の動画と、31氏の動画と、話題性も動画の方向性も全然違っていますが、ニコマス以前に動画経験があってニコマス動画を始めた人である点は似ています。1作目の動画の独特の持ち味が、おそらくそういった出自に由来する部分がある点も、ですね。
 そして、想像するに、どちらの場合も1作目と2作目とを、ニコマス視聴者ではなく広くニコ動全体の視聴者に見せてどちらが面白いか聞いたら、多分1作目が選ばれると思うんですよね。
 だから一作目の方向性の方が良い、ということではありません。より一般大衆が笑えるものが正義なら、アイドル出さないでホメ出しときゃいいだろ、という結論になりますから。ニコマスにニコマス固有の物差しがあるのは当然のことですが、ただ、評価軸が一本しかないと見えなくなる面白さもあるんじゃないかなあ、とは思います。


 えーと、「一線を越える」のところに話を戻します。
 ペンタPの言われるように、「キャラを死なせ」ることはニコマスにおいて「アブノーマルな潮流」であるし、私もそれでいいと思います。というより、自然とアブノーマルであり続けるでしょう。多くの人がアイドルの死ぬ所なんて見たくないし、描きたくないと思っていますから。 

 しかし同時に、私はアブノーマルなものはアブノーマルなものとして評価する土壌があった方が、世の中面白くなると思っています。
 その点で、「刺しm@s」という企画の意義は非常に大きかったと思いますね。あれは、アブノーマルな表現を前提条件にすることで、アブノーマルな行為自体を云々するのではなく、アブノーマルな行為を用いて何を描くか、何をそこから読み取るかを思考せざるを得ない祭りであったわけです。あるいは「ProjectNAKADASHI」という企画も、アブノーマルな表現(とその評価)の可能性を広げる意図が多分にあったものだと思いますが、充分な成功を収めたと言えるのかどうかはよくわかりません。

 要するにまあ、私も別にアイマスキャラが死にまくる動画で溢れかえったニコマスなんて見たくないけれど、そういうものがあらかじめ門前払いを食わされている世界もまたつまんないと思う、ということです。次に何が飛び出してくるかわからない玉手箱みたいな状態が一番楽しいと、私は感じます。

 そんなことを書くに至ったのは、sqt氏のここまでの評価が、1作目はやらかしてくれたけれど2作目は安心の出来映えで良かったね、というあたりで落ち着いてしまったら、あんまり面白くないなあ、と思ったからです。なーんかね、自分たちの物差しで測れなかったものが自分たちの物差しに納まるようになった、と喜んでいるようにも見えて、それはハッピーエンドなのかなあ、と思うわけです。






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※この記事ではショッキングな表現を含む作品を扱います。苦手な方はご注意を。 問題無いという方は、続きからどうぞ。 . . 今回の記事のきっかけとなったのは、こちらの作品。 きれいな出落ち 作:しくP この作品、歌詞を聞いてみると崖から落ちるのは「昔の夢達」であり、

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No title

あの記事を拾い上げて頂いて良かったのでしょうか(汗)。色々とフォロー不足ですし。

>アブノーマルなものはアブノーマルなものとして評価する土壌
これは全くもってその通りだと思います。
そもそも、これが不可能な場所ってのは、単なる「表現の自由の侵害」でしょうし。
逆に、ノベマス外ですがメカPのポジティブとかは「そういう土俵じゃない場所に出した」のが結局最大の問題だったのかなーとも。

ただ、要するに「個人的に受け付けない」という感想が出るのは仕方ない動画だったのでは、と(僕みたいな)。
それが言いたかっただけなのかもしれません。流石に死人が出るのは、アイマス外でもある程度まではアブノーマル側と言い張っていいでしょうし。
同時に、爆発的にウケた人が多数いる以上は、「批判覚悟でとんでもない動画を出してしまう」という「選択肢」は尊重すべきだと思います。

こうして見ると、悪い言い方になりますが、刺しm@sは上手い隔離所だったのかもしれませんね。
正直、その辺りまで考えての企画だったかは怪しいですが。
でも「作者の完璧な計算の元で生み出されたのか」が怪しくても、結果は出てますね。この動画と同様。

そんな訳でこの記事は上手いまとめだと思うのですが、ただ、2作目はむしろアレが最善手だった気もします。
1作目で「何が起きても仕方ない」と認知された以上、1作目と同じ方向性で行っても視聴者が身構えてて効かないでしょうから。アイドルを殺す事が「目的」だったら別でしょうけど、あれは「ギャグの手段」だと思いますし。
だから、逆に安心させる方が意表を突けるだろうと。そんでもって、個性を主張する程度にはブラックユーモアが混じってますし。
もっとも、これは僕が、あの動画は「小鳥さんを殺す目的の動画がたまたまウケた」じゃなくて「小鳥さんが死ぬことでギャグになる動画」だったと信じたいからなんでしょうけど・・・。
とりあえず、この人は忘れた頃を絶妙に見計らって、どぎつい(褒め言葉)のを再度出して苦笑いさせに来るんじゃないかなあ、とも思いました。


長文すみません。補足も兼ねてお邪魔させて頂きました。

Re: No title

コメントありがとうございます!
返信が遅くなって申し訳ありませんでした。

>「個人的に受け付けない」という感想が出るのは仕方ない動画
そうですね。それについては私もその通りだし、そういった意見も発信されるべきだと思っています。まあ私の記事は要は、いろんな「選択肢」が尊重されるニコマスであってくれればいいな、というだけのことである訳で、ニコマスでブログを書かれているような方には言わずもがなのことではあります。
それでも言葉にしておくことにはなにがしかの意味があると思って、自分もニコマスについて書かせていただいているわけなので、自分にはしっくりこないな、という意見を発信される方がいるなら、でもそういうのもあってもいいよね、という意見も発信する者がいていいだろう、と思って記事にしました。

>2作目はむしろアレが最善手
確かにそうですね。1作目を知っている視聴者の意表を突くという点でも力量を印象づけるという点でも、非常に適切な方向性の動画だったと思います。おっしゃる通り、この方からはいつどんなものが飛び出してくるかわかりませんから、楽しみでもあり、怖くもありますね。

では、記事を引用させていただいた上、丁寧な補足までいただきまして、ありがとうございました。

No title

>>Vinegar56%さん
記事GJです。

私見ですが、まず 最後の小鳥さんが死んでいると捉えてる人がいることにびっくりしました。
ここで一寸したたとえ話を出します。
暗めの時代劇を好きなある友人が語っていたことですが。

「殺陣は好きだけれど、時代劇はあくまで劇なんです。そこで繰り広げられる切った張ったは嘘の世界なので、たとえそこで人が斬られて死んでもリアティーはあってもリアルではありません。」
「しかし、こと表現媒体がアニメとなると、刀によって切られた演出は"肉体を本当に斬られた事実"に直結してしまう。なのでアニメのチャンバラは嫌いです。」

論点は完全には合致しないかもしれませんが、今回のジャンプ動画で卓球Pの「人型の穴が開いていたら」云々の逆方向で、「倒れてる小鳥さんの周囲に血が広がっていたとしたら」視聴者の反応はもっと違ったものになっていたでしょうね。

と、刺しm@sで熱を出して半月ばかりニコマスを見れなくなってた私が書いてみました。

Re: No title

コメントありがとうございます!

おっしゃる通り、「倒れてる小鳥さんの周囲に血が広がっていたとしたら」、また全く違うことになっていたのでしょうね。それこそ刺しm@sやプロディPの動画のように、この動画はとても自分には正視できない、という人が大勢出たんだろうと思います。

私も単純化して「小鳥さんの死体」と書いてしまいましたが、死んでいると断定できるような単純なシーンではないんですよね。。「人型の穴が開いている」ならこれはギャグですよ、という記号になり、「血が広がっていた」ならこれはブラックジョークですよ、ホラーですよという記号になりますが、あのシーンはそのどちらでもない。小鳥さんがアイキャンフライするまでは完全に虚構の世界で、もしラストで血が流れていたらそれはリアルになりますが、そうではない。でもそれまでの虚構を支えていた論理というか物語というか、何かが欠落してしまっていて、でもそれをうまく説明できない感じです。

時代劇のたとえ話は、ちょっと自分が正確に理解できているか自信がなくて、ズレた受け答えになっているかもしれませんが、アニメだから「刀によって切られた演出は"肉体を本当に斬られた事実"に直結」するという指摘はとても面白いですね。時代劇は、いかにリアリティを追求しても、出発点はあくまで歌舞伎の殺陣ですから、その原点は舞踊であり様式に則った存在であって、「あくまで劇」という感覚はよくわかる気がします。それがアニメだったらどうなのか、という視点はとても興味深いです。自分でもちょっと考えてみましたが、どうもよくわかりませんでした(笑)。
私の場合、どんなものが「劇」かという感覚を、わりと頻繁に変化させながらいろんなものを鑑賞している気がします。性格的には陰惨なシーンは苦手な方なんですが、リアルに斬られている・死んでいると感じるシーンにぶつかってうげっとなったら、この作品はそこまで含めて劇、と感覚を切り替えて見ている感じですね。

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