"一枚しかない立ち絵" の効用


本日の妄想は、

・武田さんはイケメン
・コウ氏は不動
・上田は安心

の三本です!

 武田さんの立ち絵の話をしようと思ったら、うまい具合に武田さんの立ち絵をサムネで大写ししてくれた動画が来ていたので、まず御紹介。

FRUUDAM氏 【NovelsM@ster】876高校に涼ちゃんがゆく!第一話 (10/12/1)


11/18に「【NovelsM@ster】876高校に涼ちゃんがゆく!プロローグ?」でデビューされた、FRUUDAM氏の続編。石川社長の命令で女装のまま学校に通うことになった涼の話。武田さんはラスト近くで現れて、おいしい所を持っていきます。立ち絵と言えば、プロローグでの石川社長の立ち絵の動かし方も面白かったですね。

 さて、タイトルの通り、立ち絵の少ないキャラクターについての話です。以下の文章には、まだ???氏の『セカンドプロデューサー』シリーズ、ばんなそかなPの『TRIM@S』シリーズのネタバレが含まれますので、未視聴の方は御注意ください。



①武田蒼一のケース

 武田さんこと武田蒼一といえば、『アイドルマスターDS』の登場人物の一人。ニコマスでも多くの作品で活躍しています。
 その武田さん、ノベマスでは、頼りになる大人として描かれることもあり、またネタ要員として扱われることもありますが、概して心理的に動揺したり感情が激しく変化したりしない、安定した人物として描かれることが多い気がします。それは、良識的な行動を取る大人であり、涼の庇護者的存在である、というDS本編でのキャラクターも大きな理由ですが、立ち絵のパターンが少ないことも要因になっている気がします。

 周知の通り、ニコマスで普及している武田蒼一の立ち絵は、長い間、正面を向いて微笑している一枚だけで、表情差分が存在しませんでした。現在でも、横向きのちょっとキザっぽい表情のものを加えた2種類だけです。
 ニコマス作品で武田蒼一が出る時は当然、必ずこの穏やかに微笑した表情で登場する訳ですから、たとえ原作を知らなくても、視聴者には自然と "武田さんはいつでも穏やかで物事に動じない人物" というイメージが形作られることになります。
 また、作る側にとっても、立ち絵+メッセージウィンドウという形式上で武田蒼一を登場させようとすれば、必然的にこの立ち絵を使わざるを得ません。この立ち絵を写しながら、たとえば "恐怖で顔面蒼白になる気の弱い武田さん"、"怒りのあまり我を忘れる短気な武田さん"、"悲しみで泣き崩れる武田さん"等を描写するのは困難でしょう。少なくとも、かなり説明に文章を費やさないと表現できない気がします。

 このように、立ち絵のパターンが限られている事は、結果的に武田蒼一を作品で使う時のキャラクター付けに一定の方向性を与え、ニコマスにおける武田蒼一のキャラクターイメージに統一性をもたらしていると思われます。


②コウ氏のケース

まだ???氏 【ノベマス】セカンドプロデューサー 最初の語り (10/11/12)


 先週のノベマスPickup記事で取り上げました、まだ???氏の『セカンドプロデューサー』シリーズ。概要はPickup記事の方を参照していただきたいのですが、このシリーズの主人公は「コウ」というオリジナルの人物で、立ち絵が用意されています。その立ち絵の出典が何なのか、ちょっと私にはわかりませんが、重要なのは、今の所コウの立ち絵は、背広を着たいかつい顔の人物が正面を睨んでいる一枚だけだ、ということです。
 コウは、冷静で真面目に仕事をする常識人として描かれています。この事務所のアイドルたちは、プロデューサー(コウとは別人)をモノにすべく毎回いろんな企みをしますが、コウがその場に居合わせることで、気づかないうちにアイドルたちの企みが阻止されている、というのが一つのパターンになっています。
 感情・行動の起伏が激しいアイドル達と、動じないコウの対照が面白さになっているわけですが、このアイドルとコウの性格付け・物語上の役割の違いは、 "豊富な表情差分が用意されている" "一枚しかなくて常に表情固定"という両者の立ち絵の関係と相似していて、ここでも武田蒼一と同様の、立ち絵とキャラクターイメージの相関関係が生じていると言えるのではないでしょうか。

 面白いのは、アイドル達にアタックされている正プロデューサーの方には顔が用意されず、黒い影だけの立ち絵が使われていることです。(つまり高木社長状態。) 
 シルエットだけの立ち絵は、視聴者の想像によって表情を代入できるため、一枚しかなくても比較的自由に描写を行なうことが可能になります。(輪郭や色によって喚起されるイメージがあるので、完全に自由というわけでもないでしょうが。)
 第4話(11/27)では、あずささんに背後から抱きつかれてあたふたするプロデューサー、という描写が出てきますが、もしこれが表情固定のコウの立ち絵だったら、"アイドルに誘惑されて動揺する" という場面を説得的に描写するのは難しそうな気がします。

 このシリーズは他にも、"顔は怖いが中身はまとも" というコウのキャラクターを度々ネタに使っていて、立ち絵がどんなイメージを喚起するかを、よく把握して生かしている作品と言えそうです。


③ 上田次郎のケース

ばんなそかなP TRIM@S TRICK12「霊能コンサルタント その2」 (10/11/22)


 今回立ち絵の話を書こうと思ったきっかけは単純で、『TRIM@S』の最新回を見ていて、上田さんが画面に映っているとそれだけで安心するよなー、とふと思ったからです。

 『TRIM@S』はギャグに満ちた作品であり、また推理によって事件を解決するミステリーです。しかし、視聴者の誰もが知っている通り、それだけで終わる物語ではありません。謎を理屈で全て解決しきった筈なのに、それを上回る不可解な現象が起きてひっくり返されてしまう後味の悪さ、不条理。
 『TRIM@S』はまた、全体を通して、主人公が孤独である物語でもあります。多くのエピソードにおいて、全員が何らかの統一的な信仰を持った閉鎖的なコミュニティに、千早と上田だけがその輪の中に入っていない状態で立ち向かわなければなりません。加えて、回を重ねるごとに明らかになっている通り、千早は過去に何らかのトラウマ的なものを抱えていて、その記憶が顕在化することを恐れています。
 どれだけギャグを散りばめていても、どれだけ堂々と理屈を述べていても、一瞬先には不条理が・恐怖が・トラウマが待ち受けていて、闇に突き落とされるかもしれない。底知れない不安・緊張が常に支配しているのが『TRIM@S』の物語です。
 そんな物語の主人公として、ゲーム本編において家族を巡る孤独・トラウマを抱えた存在である千早を据えているのは絶妙な配役で、物語の雰囲気作りに大きな寄与をしているわけです。

 ところで、本来ゲームにおいて千早の孤独・トラウマを解消し支えとなるのはプロデューサーです。ところが、『TRIM@S』の千早は(『TRICK』における山田の立ち位置を重ねられているので)、プロデューサーと絡むエピソードが少なく、性格付けとしては "仕事がなく、知名度も低い売れないアイドル" であることが強調されています。結果として、(親しい人間が常駐している事務所でのシーンを除いて)千早は物語上他人との結びつき・関係線が弱い状態で、恐怖やトラウマに対峙することを常に強いられています。

 ここで重要な意味を持つのが、上田の存在です。千早と上田は腐れ縁ではあるものの、少なくとも表面上、互いに好意や信頼を口にする関係ではありません。そして周知の通り、上田は毎度すぐに気絶したり、コロリと騙されたりで、謎解きには全く寄与しません。つまり、実質的に謎に立ち向かって解決しているのは千早一人で、上田は役に立っていない、ということに表面上はなります。
 けれども、視聴者の心理に与える影響を考えたとき、両者の関係は全く逆になることがわかります。すぐに気絶できる上田自身は恐怖を瞬間的にしか体感せず、また視聴者の側から見ると、気絶するという定番の行動自体が笑いをもたらし、場面から感じる恐怖を緩和します。そして気絶から回復すると上田は全く普通に会話に復帰し、恐怖体験は上田の心理に持続的な影響を与えません。
 不条理を論理で説明しようする千早は、裏を返せば自らの信じる論理が不条理によって覆されるかもしれないという恐怖を、常に抱え込むことになります。それに対して、説明されるとなんでも信じ込み、過去のトラウマが描写されることもない上田は、不条理によって自己の存在が揺るがされることがないのです。

 この、恐怖・トラウマに対して動的な千早と揺るがない上田、という対照関係もまた、二人の立ち絵の関係と相似しています。上田の立ち絵は実写映像から切り抜かれたもので、パターンに限りがあり、連続的な表情変化を表現することができません。しかも実写の、それも滑稽でオーバーな演技をしている画像を、アイマス立ち絵と並べること自体に可笑しさがあって、上田が画面に映っている限りシリアスな絵面にはなりにくいのです。 
 つまり、上田の立ち絵は常に、安定していて画面の緊張を緩和する存在、という印象を視聴者に与えることになります。この場合においても、千早と上田のキャラクターの性格付けと立ち絵のパターン数は、相関していると言えるのではないでしょうか。

 『TRIM@S』における千早のトラウマと上田の関係を、もう少し詳しく見ましょう。千早が過去に関わる恐怖と遭遇する場面を、ざっと挙げてみます。

・「歌姫楽園 その5」  貴音との会話(薄暗い事務所のカットが一瞬映る)
・「偶像の怪談 その3」 一人で鏡を見る 
・「霊能コンサルタント その2」 電話 

 最初は、貴音に呼び止められての一対一での会話。2番目は、上田、亜美真美がトイレに行って一人になった時。そして3番目は、電話という一対一の会話しかできないツールによって、衆人環視の中にも関わらず、千早だけが恐怖と遭遇する、という状況が起こっています。
 いずれのシーンにおいても、千早が恐怖と遭遇している瞬間においては、千早以外に顔のある立ち絵(上田や他のアイドル)が表示されることはありません。ストーリー上も実際の画面上も、『TRIM@S』の恐怖は”上田がいない” 時に姿を現すのです。

 では、"上田がいる" 時に、トラウマとの遭遇が起こったらどうなるでしょうか? 
 興味深いのが、「霊能コンサルタント その2」冒頭の千早と神代の会話です。
 神代は、「千早の母親」という重大な設定を持つキャラクターです。しかし、『TRIM@S』の多くの登場人物と同様、シルエットだけの立ち絵で、顔がありません。
 "教祖の力で弟と話せる" と言う神代に対して千早は次第に激昂しますが、この時隣には上田と律子の立ち絵が表示されています。そして上田の「おい、落ち着けよ」という台詞をきっかけに、上田と千早のやりとりに移行してギャグシーンになります。その後千早は退席して、上田が神代から千早の弟のエピソードを聞き出します。ストーリー上も画面上も、千早と神代の一対一の関係に上田が割り込むことが、緊張を緩和し事態を解決する方向に作用していることがわかります。

 恐らく今後、千早の過去を巡るエピソードは、ますます物語の中でその存在を大きくしてくることでしょう。その時、”上田がそこに居るかどうか” もまた、ますます大きな意味を帯びてくるんじゃないかな、と想像したりします。


④ その他、思いつきで

 以上、立ち絵のパターンの少なさが、キャラクター造型・物語上の役割と相関していると感じた例を挙げてみました。ここから逆に見えてくる共通点は、いずれの作品においても、感情に起伏がある動的なキャラクターの役は、常にアイドルが担っているということです。
 様々な表情が用意されたゲーム本編。それを素材として利用できるよう整備してきたニコマス関係者の努力。そして彼女たちの表情から豊かな想像を喚起することを可能にする、視聴者の中のキャラクターイメージの蓄積。それらがあいまって、アイマスの立ち絵によって複雑なキャラクターを描写することが可能になっている、と言えるでしょう。

 ところでこうして見てくると、アイドルの場合でも敢えて使う表情を限定することで、どんな効果が生まれるのか、ということが気になってきますね。まあアイドルの立ち絵の特性を生かした動画なんて言い出したらきりがないので、思いつくままに四例だけ挙げて、終わりにします。

藤花P 【ノベマス短編】春香の異常な愛情 (10/9/10)


以前Pickupでも取り上げた作品。全編9393固定の千早立ち絵がロボットの役で、自分を作った春香と会話。立ち絵とキャラクターの関係を考える上でも、とても面白い短編。千早とメカ千早が並んだりとか、最後のメカの立ち絵だけ残る所とか。春香立ち絵の動・千早立ち絵の不動の対照という点では上記の動画と同じだけど、それだけでもない気がします。

シェリングフォードP ドット絵舞台劇 『博士と不憫な試作品』 (10/1/30)


これも千早とロボット。ただしこちらは千早が博士。はじめは半目ばかりだった千早の立ち絵が、驚き→喜び→悲しみとバリエーションを増やしていく。そもそもシェリングフォードPの作品の大半は「舞台劇」なので、これも "千早が舞台上で表情演技している姿" という二重構造を含んでいる。千早に感情を与えていく真美の演技も注目。

瑞P 雨音。 (09/7/29)


ホラー系は探せばいろいろ面白いのがあるでしょうが、パッと思いついたのがこれだったので。それまでは普通に表情変化していたのが、オチが始まるシーンからずっと笑顔で固定で、それが異常性を際立てる。この立ち絵、一体誰だろう?

酷くないP 七六五(仮) 第一話 「猿夢」前編 (09/7/15)


立ち絵=生き生き動いているキャラクターの表象、立ち絵=我々の愛でているアイドル、という無意識の補完が突き崩されてしまうと、恐ろしいことが起こるわけです。

 逆に立ち絵の変化だけでの表現とか、あー春香さんの大集合とか分裂とか、いくらでも話は広げられるでしょうが、もう疲れたのでこんなところで。 

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